知らないことを知れました。
初恋、カタルシス。 鳩川ぬこ
アセクシャル、ノンセクシャルの定義も分からずに、読み進めました。 読後、調べてみて、初めて分かりました。 生きにくい世の中、少しでも理解者が増えるといいですね。 随分前、今思えばアセクシャルの人が『人を愛したことがない!』って言った時に随分驚いた記憶があり、本人にも失礼なことを言ったのではないか心配になりました。
風邪を引いた一騎の自宅に別れたばかりの元恋人・唐木田がやってきた。性的欲求を持たず恋なんてできないと思ってた一騎が、自分で区切りをつけた初恋の人。フラれたにもかかわらず優しく看病する唐木田は、寝込む一騎にキス。そして…… 「いつか、あの手に、触れられてしまう。」pixivで感動を巻き起こした臆病な初恋が待望の書籍化。BL界にミラクルスーパーノヴァ爆誕。電子書籍版はたっぷり試し読み&テンション高め(※唐木田の)な電子限定マンガ1ページも収録★
2017年にPixivで読んで衝撃を受けたハチャメチャにすごいやつ。まず絵がとても良いんですよ。生々しさと繊細さの両方を兼ね備えた画風、心の動きを見事に描写する美しいコマ割り、そして2人のコミカルな部分を表現するのにピッタリな独特のデフォルメ。最高すぎます。
そしてなにより2人の人物像がすごく解像度が高いのが、良い。
主人公の月島一騎(いっき)と先輩の唐木田透真はともに美術講師を努めるクリエイター。いっきは「誰かを好きになるけど性欲は一切ない人」。唐木田は「自分を好きになってくれた人の気持ちに応える人」。
どんなファッションが好きとか、お互いのいないところでどんな風に振る舞っているのかとか。読み進めていくうちに2人のことが実写映画のようにハッキリ見えてきて、存在感が本当にすごい。
(『初恋、カタルシス。』鳩川ぬこ)
出会い、破局、交際…1年にわたりいろいろな場面での2人のやりとりを追っていくことで、大長編を読んだような充実感があります。
この作品は起承転結のストーリーがある物語ではありません。2人が壁を乗り越えたり、何かを手に入れたりという大きなゴールがない。そしてそれが、この物語の最大の魅力だなと思います。
2人の日常をただ切り取って、絵と文章で丁寧に心の動きを追っていく。あまりにも良すぎる…最高です。
そして「まず恋愛をすることに焦点があって、それを語るうえでいっきのノンセクシャルの部分について言及が必要不可欠」…という話の構図が作品を洗練されたものにしていると思います。**
(『初恋、カタルシス。』鳩川ぬこ 「この部屋物が多くてバカみたいだ」っていうセリフは悲しみの底にいる人にしか出てこない素晴らしいセリフだと思います)
「本屋でどの本棚に置くか」と言われればBLなんだろうけど、一つの恋愛漫画としていろんな人に読んでみてほしい作品です。
https://www.pixiv.net/en/artworks/66054688
【おわりに】
「フィクションであっても正しく(理想的・模範的)に描かれるべき」という当事者の方の主張について意見することは避けますが、私は「初恋、カタルシス。」の描く現実的な不完全さ(唐木田の無理解・性暴力の強要)を理解したうえで大好きです。