岩波書店マンガの感想・レビュー7件山賊の8人目の妻は美しく残忍な女だった桜の森の満開の下 近藤ようこ 坂口安吾かしこ近藤ようこ先生の坂口安吾原作シリーズの第2弾。後書きによると原作は坂口安吾ファンに人気があるそうです。前作「夜長姫と耳男」と同じく残忍な美女に振り回される男の話なんですが、こっちの方がもっとグロテスクかも…。不気味だけどなぜか見惚れてしまうシーンの連続で、これは原作でどう表現されてるのか読み比べてみたくなりました。これから桜を見たらこの話を思い出しそうです。無垢で残忍なお姫様と仏師の男夜長姫と耳男 近藤ようこ 坂口安吾かしこ近藤ようこ先生の坂口安吾原作シリーズの第1弾。人の2倍は大きい耳をした仏師の男がライバル達と競い合いながらお姫様の為に弥勒菩薩を彫ることなるのですが、そのお姫様というのが虫も殺さないような可愛い顔をしてるのに実はとても残忍な心を持っていて、危害を加えられた仏師の男はこっそりと復讐を企てることにしたのです…。史実にもブラッディメアリーみたいな怖いお姫様が存在しますが、近藤ようこ先生が描かれた夜長姫は神々しさまで感じられました。もっとアイヌのことを知りたくなるハルコロ 石坂啓 本多勝一 萱野茂starstarstarstarstar_borderかしこ和人に侵略される前のアイヌの暮らしが描かれています。小学生でも読める語り口なので分かりやすいです。アイヌの人々にとって北海道の大自然の中には数々の神様がいるとされていて、それらとまるで親切な隣人のように共存する暮らしは精神的にも文化的にもとても豊かだったんですね。読んでいて感銘を受けた風習がたくさんあるのですがその中でも、アイヌの女性は子供の頃から遊びとして刺繍の図案を練習するので大人になる時には下書きなしで着物に左右対称の刺繍を施すことが出来たというのに驚きました。美術館で実物を見たことがありましたが装飾として美しいだけでなく祈りのようなものが込められていて神秘的なものに感じられました。もっとアイヌのことを知りたくなる入門書としてぴったりです!実際の事件をモデルに描かれた短編集彼らの犯罪 樹村みのりstarstarstarstarstarかしこ樹村みのり先生といえば笹生那実さんの「薔薇はシュラバで生まれる―70年代少女漫画アシスタント奮闘記―」にも登場されていましたが、作品を読まれたことがないという方も多いかもしれません。夏目房之介先生のコラムでは「ジャンルに捉われない作家」として取り上げられていました。 https://manba.co.jp/manba_magazines/25301 私が樹村みのり先生を知るきっかけになったのが、こちらの短編集に収録されている「夢の入り口」という作品です。主人公の友達がカルトだとは知らずに講習に参加してしまい、徐々にマインドコントロールされてしまう過程が描かれています。 他にも実際の事件をモデルに描かれた作品が収録されていて、この情報だけではとても重いテーマの短編集だと思われるかもしれませんが、樹村みのり先生の力量により不快な気持ちにはなりません。ただ「こんな時に私たちはどうすればよかったのか?」ということを優しく問いかけてくださっています。 恋愛クズに振り回されるな! #1巻応援ローラ・ディーンにふりまわされてる マリコ・タマキ 三辺律子 ローズマリー・ヴァレロ・オコーネルあうしぃ@カワイイマンガ「恋愛クズ」という存在は確かにいる。自分がモテることに自信があって、恋愛をゲームのように楽しんで、いつも自分が好かれていないと嫌で……という人物であると気付いた時には既に振り回された後。あぁぁクズ、お前に割いた時間を返せ! 本作の主人公は、人気者のクズ女に振られては復縁し、を繰り返す女子。別れるたびに友人達に慰められるけれども、何が辛いってクズ女しか見ていない主人公が、次第に親友をなおざりにしてしまうところ。 舞台はアメリカの、同性愛もポリアモリーも当たり前になっているコミュニティー。そこでは多様なパートナーの形、恋愛の形が描かれ、女性同士の恋愛も当然のことと描かる。それゆえ視線は別の点にフォーカスされる。 画面がとてもPOPだったり、ちょっとサイケだったり。ピンク+スミの二色で鮮やかな画面が楽しく、しかしそのピンクは、恋愛に振り回される主人公の閉塞感、息苦しさを演出するようでもある。 恋愛にはまり込んで大切な物を失うのはもったいない、ということがひしひしと伝わる。もっとバランスよく恋愛できないのか……とヤキモキし、渦中にいると気付かない恋愛の難しさに思いを馳せ……と一段上の次元に視点を誘う本作。恋愛と人生の見方がクリアになる、かも。 ※余談だが、本作の「恋愛クズ」はポリアモリーなのかというと、「当事者同士で合意をとった上で行う複数間の関係」がポリアモリーの定義で、それには当てはまらない。作中でも「ノンモノガミー」と紹介されている。こんな夢を見た夢十夜 夏目漱石 近藤ようこひさぴよ「こんな夢を見た」で、有名な夏目漱石の『夢十夜』を漫画化した一冊。怖ろしくも幻想的な10編の夢の物語には、怪談のような少し怖いものもあれば、現実世界と歴史が入り混ざったような話、宗教性の強い話などバラエティに富んでいる。どの話にも近藤ようこ先生の筆致がドンピシャで合っていて素晴らしい。まるで白昼夢のような表現がずっと続くが、あまり意味は深く考えず感じるままに読むのが良いと思う。とある出版人の戦後台湾史 #1巻応援 台湾の少年 游珮芸 周見信 倉本知明あうしぃ@カワイイマンガ本作は台湾で伝説的児童雑誌『王子』を創刊した、蔡焜霖さんの人生を描いたノンフィクション。戦前の日本統治時代から白色テロ時代、そして現代の民主化した台湾までを通して描く作品は、おそらく今までにないのではないか、と『綺譚花物語』翻訳者の黒木夏兒さんはおっしゃっていました。 全四巻のうち1巻と2巻が同時発売。両方を通して読んでみると、この二冊が同時発売された意味が分かる気がします。 1巻は戦前。台湾語を喋りながら日本語を学ばされる時代を、それでも大家族の中でおっとりと優しく育つ焜霖さんの少年時代は、穏やかなタッチで描かれます。 しかし1巻末、世界は暗転します。 2巻では、謂れのない罪を着せられた、政治犯としての過酷な10年が、暗く・痛々しいタッチで描かれます。 登場する人物も皆、焜霖さんが出会った実在の人物。さまざまな出会いも、大切な人も、容易に奪われてゆく。その悲しみ……とりわけ彼らを失ったのは自分のせいかもしれない、という焜霖さんの苦しみは、巻末の一人ひとりの解説を読むと、いっそう強く伝わるのです。 失われた者や時への焜霖さんの思いが、3巻以降、どのような形になるのか……続きを待ちたいと思います。
近藤ようこ先生の坂口安吾原作シリーズの第2弾。後書きによると原作は坂口安吾ファンに人気があるそうです。前作「夜長姫と耳男」と同じく残忍な美女に振り回される男の話なんですが、こっちの方がもっとグロテスクかも…。不気味だけどなぜか見惚れてしまうシーンの連続で、これは原作でどう表現されてるのか読み比べてみたくなりました。これから桜を見たらこの話を思い出しそうです。