ユーロマンガマンガの感想・レビュー8件緻密に美麗に描かれる宇宙のディストピア #1巻応援シャングリ=ラ 原正人 マチュー・バブレ兎来栄寿『テヅコミ』にも『メトロポリス』の二次創作を寄稿していたマチュー・バブレ氏が2016年に出版したディストピアSFです。先月に邦訳版が発売され、その電子版もこの度配信され始めました。 太陽が超新星爆発を観測しようとする青年からスタートするプロローグ。そこから100万年後のお話としてストーリーが始まるスケールの壮大さにまず惹かれます。 広大無辺の宇宙空間における、ちっぽけな人間にとってはあまりにも巨大すぎる現象も含めて、美しいヴィジュアルで物語られていきます。 バンドデシネらしい緻密な画風で、ほとんどのコマが背景までみっちり描き込まれているので物語への没入感を強く高めてくれます。コロニーの中の小さなユニットでの生活が見てとれるような描写など、好きです。 「音楽は? 文学 芸術…学問は? それは無から心の奥底から立ち現れる恩寵の輝き 人間は消費のみの存在ではない」 といったセリフに見て取れる言葉選びも好きです。 とある衝撃的なシーンと、そこで爆発する感情には大きく心を動かされました。どんな遥かな未来となりテクノロジーが進歩しようとも、人の人たる所以ら変わらないのはSFらしいテーゼを感じられるところです。 反物質、ホモ・ステラリス、アニマロイドなどさまざまなSF的単語が飛び交いながら、ドラスティックに進んでいくドラマに、気付くと夢中になってページを捲っていました。 ハードで骨太なSFを楽しみたい方にお薦めです。ムチャチョ―ある少年の革命―の感想 #推しを3行で推すムチャチョ―ある少年の革命― 大西愛子 エマニュエル・ルパージュstarstarstarstarstarleon・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ ニカラグアというよく知られていない国での革命、同性愛、ガブリエルの 成長といった様々なテーマを高レベルでまとめられていると思った。 ・特に好きなところは? ガブリエルの成長と彼の心情に合わせて色彩が変わっていくところ。 エマニュエル・ルパージュは絵の上手さだけでなく色彩の使い方にも 長けているなと感心した。 ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! ストーリーもそれほど難しくないのでバンドデシネ入門として 読む価値は充分にある。同作者の「チェルノブイリの春」もおススメ。エマとカピュシンの感想 #推しを3行で推すエマとカピュシン Lena Sayaphoum Jérôme Hamonstarstarstarstarstarleon・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ ヒップホップとバレエと道が分かれた姉妹の成長が気になった。 ダンスの描写も迫力やスピード感がありながら、激しすぎないのが 心地よい。 ・特に好きなところは? 光の描写と徐々に成長していく姉妹の過程に説得力があるところ。 それを見守る周りのクラスメイトや両親も味があっていい。 ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! ストーリーも絵の使い方もバンドデシネならではで日本の漫画とは 違った読み味が楽しい。未邦訳の7巻をKindleで買うほど気に入った。革命を生き、大人になる少年の物語ムチャチョ―ある少年の革命― 大西愛子 エマニュエル・ルパージュ名無し舞台は1970年代のニカラグア。宗教画を描く修道士ガブリエルはゲリラに同行し、彼らとともにジャングルを行軍することになります。「ムチャチョ」とは「坊や」の意味。ゲリラとともに行動する中で愛や政治、芸術などさまざまな面でガブリエルが「ムチャチョ」から大人の男になっていくことが描かれます。 ストーリーは歴史的な理解が必要なことも多く難解な部分もありますが、水彩で印象的に描かれたニカラグアのジャングルの草木や土の色と光に満ちた画面を見るだけでも十分楽しめます。少し邪道かもしれませんが作者のインタビューを収録したあとがきを読んでから読むと話に入りやすいかもしれません。 マンガ家にファンが多い(気がする)海外マンガブラックサッド 大西愛子 ファン・ディアス・カナレス フアンホ・ガルニドANAGUMAメビウスとかマイク・ミニョーラみたいになんとなく「日本のマンガ家のあいだで名前が通っている海外マンガ(家)」ってのがあると勝手に思ってるんですけど『ブラックサッド』はその中ではまだまだ知られていないとさらに勝手に思っています。なので今日このクチコミを読んで知ってほしい。 マンガ家に人気の理由の一端はページを開いてすぐわかるんですけど、作者は元ディズニーのアニメーターでとにかくべらぼうに絵がうまいです。 その絵のうまさも、正確な形を描き出すデッサン力、演出に合わせた色彩感覚、決まりまくった画面構成(レイアウト)…と、もう絵を描く人だったら喉から手が出るくらい欲しい物が全部網羅されています。 まず動物擬人化ものって技術がないとどうしてもコミカルにやりがちというか、生き物の構造を無視した描き方に逃げちゃうことが多いというか…写実とデフォルメのバランスが難しいジャンルだと思うのですが、本作の場合は動物がきちんと描けるひとなんだなというのが一瞬で理解できます。 海外マンガに慣れてない人が敬遠しがちなフルカラーも色合いが水彩ぽくてソフトですし、各場面に合わせた演出としてコントロールされているので違和感なく読めるんじゃないかなと思います。「マンガを読む」という行為を邪魔しない、むしろ上手に手助けするような色使いがされています。 色合いとダブルで効いているのがパキパキとしたカメラアングル。作品のハードボイルドなテイストにすごく合っていて、この辺りも映像畑出身の方の上手さだな…と舌を巻いてしまいます。 …とダラダラと書いてきましたがひとまず試し読みで見てほしい作品です。海外マンガ、「百聞は一見にしかず」タイプの作品が多いですが、そのなかでも『ブラックサッド』は特に「見たらわかる!」度が高いマンガだと思うので…。密告からの出会いと別れ #完結応援赤いベレー帽の女 ジャン=ピエール・ジブラ 大西愛子名無し※ネタバレを含むクチコミです。イタリア発アポカリプス美少女アクションSFファンタジー!AEON―アエオン― アンジェラ・ヴィアネッロ 山根緑書肆喫茶mori店主イタリアのアンジェラ・ヴィアネッロさんの代表作! カラテ少年ダビデと翡翠の名を持つ少女ジャーダ。 世界に違和感を感じつつもどこにでもいる平凡な二人は出会い互いに惹かれ合う。 時を遡ること紀元前3000年。 「神」と呼ばれる超人的存在が世界を管理していた。彼の組織から離反した管理人サムたちは神との戦いに敗れる。 心を通わせ合う現代のダビデとジャーダの前に現れた謎のモンスター。二人にしか見えないモンスターが人々を襲う! 二人の運命は…!? そして神と管理人らとの戦いの行方は…!? 最初は新海誠好きにはたまらないようなボーイミーツガールのラブストーリーかと思いきや、アポカリプス美少女アクションSFファンタジーという、いろいろてんこ盛りの作品です! 先の読めないストーリー。美しいビジュアル。愛嬌のあるキャラクターたち…ほんとに完結まで翻訳してくださってありがとうございます! 紙で読みたい派としては電子書籍なのが残念ですが、このクオリティの作品がフルカラーでかなりリーズナブルな価格で読めるのはホントに素晴らしいです! 独特の色気のある人物たちが繰り広げる吸血鬼一族の顛末を見届けよ!ラパス 血族の王国 ジャン・デュフォー エンリコ・マリーニ 山本ゆうじ書肆喫茶mori店主「お前たちの王国は滅ぶ」という謎の落書きとともに発見される変死体。殺人事件を捜査する女警部補ヴィッキーは、人間のなかに潜む吸血鬼一族の抗争に巻き込まれていく… とにかく先のストーリーがまったく読めない。 一族の長老たちは悪人ヅラをしているが、彼らと敵対する赤い兄妹も敵か味方かわからない。 吸血鬼同士の争いに巻き込まれるヴィッキーの巻き込まれ方も、次がどうなるのかハラハラドキドキさせられる…! エンリコ・マリーニは、2019年9月に日本語版が発売された『バットマン:ダーク・プリンス・チャーミング』でバットマンとジョーカーの汗にぎる駆け引きを描いたりもしているが、この方の描く人物がまた独特の色気があるのだ。 ぜひぜひこの闇の一族とヴィッキーがたどる驚くべき結末を最後まで楽しんでいただきたい…!
『テヅコミ』にも『メトロポリス』の二次創作を寄稿していたマチュー・バブレ氏が2016年に出版したディストピアSFです。先月に邦訳版が発売され、その電子版もこの度配信され始めました。 太陽が超新星爆発を観測しようとする青年からスタートするプロローグ。そこから100万年後のお話としてストーリーが始まるスケールの壮大さにまず惹かれます。 広大無辺の宇宙空間における、ちっぽけな人間にとってはあまりにも巨大すぎる現象も含めて、美しいヴィジュアルで物語られていきます。 バンドデシネらしい緻密な画風で、ほとんどのコマが背景までみっちり描き込まれているので物語への没入感を強く高めてくれます。コロニーの中の小さなユニットでの生活が見てとれるような描写など、好きです。 「音楽は? 文学 芸術…学問は? それは無から心の奥底から立ち現れる恩寵の輝き 人間は消費のみの存在ではない」 といったセリフに見て取れる言葉選びも好きです。 とある衝撃的なシーンと、そこで爆発する感情には大きく心を動かされました。どんな遥かな未来となりテクノロジーが進歩しようとも、人の人たる所以ら変わらないのはSFらしいテーゼを感じられるところです。 反物質、ホモ・ステラリス、アニマロイドなどさまざまなSF的単語が飛び交いながら、ドラスティックに進んでいくドラマに、気付くと夢中になってページを捲っていました。 ハードで骨太なSFを楽しみたい方にお薦めです。