兎来栄寿
兎来栄寿
12ヶ月前
薬師寺家と毒山家。幼い子が生まれて間もないふたつの家族の話が、同時並行的に描かれていく物語です。 一流企業に勤めるエリートでイケメンの旦那・シュウがいる薬師寺家に対して、ギャンブルに明け暮れろくに仕事もしてないスジモノのような外見の旦那・ゴンがいる毒山家。 そんな対照的な両家ですが、妻の薬師寺ユイと毒山海(マリン)はお互いにこれまでいなかった初めてのママ友となり交流を深めていきます。 ただ、最初の3ページと8〜9ページを見た時ではかなり両家への印象が変わっていきます。 更に、この物語のキーパーソンとなるのが姑。シュウの母親の聡子はシングルマザーであったこともあり、親子共に絆が強くユイや子供に対しても過干渉してきます。子育て中に事前連絡なしに何度も家に突然来られるのは、妻の立場だときついですよね。 一方で、ゴンの母親である虎乃はスナックを経営しておりざっくばらんな性格で海とも非常に気質が合っています。パチスロで買った現生を直接渡してくるなど生々しさはありますが、豪気で優しく温かい性格を見せます。 一見、完璧な家庭に見える薬師寺家の内部の綻び。逆にメチャクチャに見えながら互いを思い遣る心に溢れている毒山家。幸せとは何か、本当に大事なものは何かということを考えさせられます。 シュウの母親はいわゆる毒姑ではありますが、番外編では彼女もまた酷い夫と姑によって苦しんだ経験があることが仄めかされ、最悪の負の連鎖を感じさせます。自分が受けた痛みを違う形で他人に与えるのではなく、痛みを知っているからこそ労わる心を持って負の連鎖を断ち切り子供たちが笑顔で暮らせる世界にしていきたいところです。 育児、モラハラ、詐欺、不倫などに加えてSNSで縦読みを使ったにおわせ投稿など「今」感のある要素もふんだんに取り入れられており、実写ドラマ化などもされていきそうです。 なお、 「もっと善意の押し付けがユイを追い詰める感じにした方がリアルでいい」 というアドバイスをした横山了一さんの奥様は本作の陰のMVPだと思います。
名無し
1年以上前
JC巫女とかね、もふもふした熊とかね、私の大好物がメインになった作品が『くまみこ』でございますよ。まいった!可愛すぎてね、何度も何度も何度も読み返しては、鳥取砂丘のように乾いた私の心に、じょうろで水をまいて潤いを感じさせてくれるような、そんな作品です。  舞台は東北地方のどこかにある熊出村。はっきりいって限界集落な熊出村には、中学生巫女の雨宿まちという少女と、人語を解する、半ば神の使いとして崇められている熊のナツがいます。  まちは都会に憧れていますが、長い田舎暮らしのため、一般常識はよくわかっていません。その点、クマのナツはブルーライトカットメガネをかけ、Nexusを操り、なぜか現代社会にとても詳しかったりします。  可愛らしいまちと、わりとリアルよりな造形ながらもふもふとした毛並みとつぶらな目が魅力的なナツのゆるい日常が限界集落を舞台に繰り広げられます。  都会に出たいというまちに、ナツはテストとしてユニクロでヒートテックを買いに行かせたり、ヴィレッジヴァンガードでDVDを買いにいかせたり……、そのどれもが、まちにとってはとてつもなく難しいことなで、いつも慌てふためいてしまうまちが非常にカワイイのです。  このまま延々と、まちの可愛らしさとナツのもふもふを語っていてもいいのですが、ちょっと待って欲しい。  はたして、この熊出村の山奥度合いがどのくらいかなのでしょうか。国道沿いのユニクロまで自転車で40分、ヴィレッジヴァンガードが入っているイオンも、国道沿いにあるようです。当然、ファッションセンターしまむらもあります。私個人が田舎の尺度にしておりますコメリ(ドライブしているととんでもない山奥にあってビックリすることがあります)がどのくらいの距離にあるのかが非常に気になりますが、数値的にみれば、意外と都会…な気がしなくもありません。  しかし、描かれている村の雰囲気や田んぼや森の様子は、ドライブで道に迷った時に、「助けがこないかもしれない」と不安に感じるような日本のど田舎の風景そのままです。都会に生まれ育った人間もなぜか感じる郷愁といっしょに、一人と一匹のとてつもなくカワイイものを愛でるのが、この『くまみこ』なのです。
六文銭
六文銭
1年以上前
年齢のせいか、どんなに面白くても、3ヶ月後とか下手したら半年後の刊行速度についていけず脱落する漫画が多々ある私ですが(カイジも堕天録までのヘタレです。)本作だけは新刊を見落とさず購入してしまう謎の魅力がある。 内容は、カイジの破壊録で出てきた班長・大槻とその部下沼川と石和の3人の休日を描いた作品。 3人のおっさんの休日を描いただけ、と言われればそうなのですが、これが絶妙に面白い。 そもそも、破壊録を読むとわかるが、普段は債務者の集まり通称「地下牢獄」にいて、そこで3Kも裸足で逃げる過酷な重労働をしている3人。 そして、そこの制度で「1日外出券」というのがあるのだが、これが、べらぼうに高い値段で、安々と外には出れないようになっている。 だからこそ、この「休日の外出」というのは彼らにとって超がつくほど貴重なのだ。 貴重な外出を有意義に過ごすために、1食ですら手を抜かず試行錯誤し、 突き詰めて実行している様は、日々の生活にちょとした工夫で楽しくなるエッセンスが盛りだくさんだったりします。 ただの日常というよりは、おっさん世代が興味ありそうなもの(食とか大人の趣味とか)を中心に取り上げ、持論を展開してく様は興味深く読めます。大したことないテーマでも、熱量あれば面白い。 特に昔話など微妙に自分とかぶる話題があって、おっさんあるあるも個人的にはツボなんですよね。 (余談ですが、5巻にZoneの「secret base」を歌うシーンがあって、「君と夏の終り~ 将来の夢~ フンフフフフン ~」 とフンでごまかす姿は腹抱えて笑いました。昔、全く同じシーンを経験したので。皆そこ忘れるんだと。) ハンチョウだけでなく、平日労働している我々にとっても休日は重要なはずなんです。 これ読んで、もっと休日を、ひいては1日1日を大事にしようと思いました(大げさ)