pennzou
pennzou
1年以上前
『異類の友 空木帆子よみきり集』は、そのタイトルの通り、主に『月刊フラワーズ』にて発表された、空木帆子先生による読切を集めた作品集です。 本作は、『月刊フラワーズ』で注目の3作家のコミックスを発売する「NEXT3フェア」という括りで発刊されました。本作以外の「NEXT3フェア」のコミックスは、大上貴子先生による『メイドのエミリーは今日も笑わない』、江平洋巳先生の『煌燿国後宮譚』。各コミックスの帯には、現在『フラワーズ』で連載されている大御所作家によるコメントが寄せられています。本作は田村由美先生なのですが、コメントが詩的かつ分析的で、その表現力にさすが田村先生……とおののきました。なお他作のコメントを担当されたのは、『メイドの~』が波津彬子先生、『煌燿国後宮譚』がさいとうちほ先生でした。各作品がどのような立ち位置に想定されているのかが、うかがえるような気がします。 空木先生および大上先生はフラワーズ新人作家(という表し方の是非については脇に置かせてください。なにせ空木先生がデビューしたのはもう6年も前の2015年12月号で、新人と呼ぶには憚られるところがあるのは確か……)にあたりますが、新人作家の紙の単行本が出るのは、2017年の笠原千鶴先生『ボクんちの幽霊』ぶりのことです。自分はかねてよりフラワーズ新人作家のコミックスが発刊されることを待ちわびていたので、今回のフェアで空木先生と大上先生のコミックスが日の目を見たのは、とても嬉しい出来事でした。 『異類の友』の話に戻ります。本作品集は6作品が収められています。ショートショートから長編まで幅広く取り揃えられており、色々な読み味が楽しめますが、自分が好きだったのは「アザミと芙貴の指定席」と「おしどりふうふ」の長編2作です。 「アザミと芙貴の指定席」で描かれているのは、人であるアザミと人ならぬ者を自称する芙貴という二人の交差です。『異類の友』という作品集のタイトルは、このような描写から取られたものと想像します。その他の収録作品も、全く性質の異なる二者をメインに据えた作品が並んでいるので、このタイトルは作品集のムードを的確に表していると思います。 「アザミ~」で特徴的なのは、人ならぬ者・芙貴だけでなくその対となる人・アザミもまた孤立しているように見える点です。互いが孤立しているゆえに惹かれてしまうというのもわかる、しかしながらその上で……という部分が描かれているわけですが、ここで発生する二人の関係性のあざやかさが、とても心地よく感じられました。 さきほど、『異類の友』というタイトルは、人と人ならぬ者、全く性質の異なる二者からきていると書きました。その点で、「おしどりふうふ」は他作品と一線を画しています。というのも、「おしどりふうふ」でメインに置かれているキャラクターは、二人ともロボットだからです。つまり、自分たち読者と作品中のキャラクターが異類、という関係になっています。 子細は省略しますが、「おしどりふうふ」の物語は美しく終わります。二人の間にある感情だけを見ればハッピーエンドです。しかし自分が突きつけられたと感じたのは、さびしさであり、世界への絶望感でした。異類から世界はどう見えているのか、自分は異類を友にできているだろうか……そういった問いかけがあったように思えたんですよね。読み違えかもしれないのですが、空木先生もこのエピソードを反語的に描いているような気がしてなりません。(反語的というか、絶望を描きつつも、同時にこの二人を絶対に幸せにしたいという意志があったのかなと思う。この二人を幸せにするということは、現実にいる似た境遇の二人たちを幸せにするということなので) 「おしどりふうふ」を読んで、この問いかけについて考える、それだけであれば難しさはそれほどでもない気がします。しかし本作品集には、異類を絶対的に相容れない存在として描いている作品も収録されています。それがこの問いかけに対する答えをより困難にします。世界、複雑すぎるし残酷すぎる。 結局は、ケースバイケースで考えて、その時に一番いいと思う行動をするよりほかなく、それこそアザミがとったような行動をする、ということなのかもと思います。 本作は、異類というテーマで統一しながらも、異なる切り口の作品を集めることで、作品集としての強度を高めています。それが面白さの一端を担っている一方で、今回収録された作品はテーマに沿って選ばれた一握りである、ということも示しています。空木先生のデビューが2015年ということから察せられると思いますが、本作の収録作品数は、これまで発表された作品の半分にも満たないのではないでしょうか。(ちゃんとは把握できていないのですが……) 空木先生の残りの作品が、そしてこれをここに書くのもなんですけど、他のフラワーズ新人作家のコミックスが発表されることを、自分は心より願っております。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」 不意に『方丈記』の冒頭を思い出すようなファンタジーです。美しさと共に、無常感も覚えさせられる水の流れ。清流もあれば、濁流もある。それは恰も人生のようで。 本作はいろいろなお客さんを舟で運ぶ「渡し守」として活躍する少女を描く物語で、最初は『ARIA』的な感じになるのかなと思いました。実際、同業者であったり舟を造ってくれる人であったり、さまざまなお客さんとの交流などには近しい要素もありはします。種族も老若男女もバラバラな人々との交流が必然的に生まれる接客業ですから、それだけでもお話は無限に生まれそうです。ただ、1話を試し読んでいただければ解る通り、この世界はもう少し剣呑です。 魔族が存在し、人類の生存域も脅かされていて、ヒロインのハルも何やら訳ありの過去を持っている様子。日々の渡し守としての生活を営みながら、彼女の過去に何があったのかも少しずつ明らかにされていきます。 また、魂の眠る場所とも伝えられ、未知の魔法や財宝や神が存在するとも噂される謎に包まれた「歪みの霊峰」という本作の焦点になりそうな人類未踏の地の謎とも併せて、ミステリー的な箇所の存在によってこの先の展開への興味を誘ってくれます。幕間では、設定の詳細が解説され、世界観が作り込まれていることも感じさせられて期待が高まります。 大きな想いを抱えながらも一日一日を丁寧に生きるハルの姿は、現代に生きる私たちにも通ずるものがあるでしょう。過去への向き合い方、選択への責任。ファンタジーであるからこそ、より響くものもあります。 静やかに始まりながら、徐々に徐々に振幅を強めていくこの物語が、どこへ漕ぎ着くのか。この先も楽しみです。