takaaki
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2022/06/05
ネタバレ
作品が描く「愛」の解釈
この作品を連載開始から読み続けて17年以上、第26巻に収録の「その日②」を読んだ時、一読者として非常に感慨深いものがあった 「綺麗事過ぎる話だ」、「いくらなんでも美し過ぎる描写だ」、そう感じる人もいるかもしれない でもこの展開と描写こそが、作者が長年の連載を通して描きたかった「愛」に対する1つの解釈だと感じるのだ 「……気安く愛を口にするんじゃねェ」 幸村誠氏の作品を読み続けてきた自分は、ヒルドが自分の父の仇であるトルフィンを赦すと言った時、前作「プラネテス」最終話のこの台詞が頭に浮かんだ きっと幸村氏もこの台詞を意識しながら、長年に渡ってヴィンランド・サガを日々描き続けてきたのだろう この作品の序章には、次のような描写がある 「……ならば親が子を… 夫婦が互いを ラグナルが私を大切に思う気持ちは 一体なんだ?」 「差別です 王にへつらい奴隷に鞭打つこととたいしてかわりません」 幸村氏は「愛」というものに対して、「ほとんどの人が到達困難なもの」と考えていると、自分は感じている 26巻でヒルドがトルフィンに「お前は真の戦士だ」と伝えるシーン、その瞬間において2人の顔は、はっきりとは描かれていない このような描写も、この「ヴィンランド・サガ」が持つ凄まじさだと自分は感じるし、「真の戦士」と伝えてはいても「本当の戦士」と伝えてはおらず、今後の展開も気になってしまう 数多くのフィクション・ノンフィクション作品で語られ続ける「愛」とは、いったい何なのか? この作品を読む度に、自分はそれを考えさせられるのだ
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2020/07/25
ネタバレ
鬼太郎にはないテイスト
水木しげるの貸本時代の作品には,何とも言えない独特の没入感がある.画風も,広く知られているいわゆる水木絵とも異なっている. 貸本時代の作品には,ホラー要素の強いかなり不気味なものもいくつかあり,自分が読んだことのある作品の中で,特に怖さを感じるのが本書に収録されている『墓をほる男』である. 話の大筋は,有名なフランスの詩人からしゃれこうべの入手を依頼された三島ユキ夫が,墓から3名のしゃれこうべを盗み出し,デパートでの奇妙な体験の後,使用禁止となっているはずのエレベーターで死亡してしまうというものだ. 話の最後では,しゃれこうべは14年前の同日に同デパートで起きた,エレベーター墜落事故で無くなった3名のものであった…ということが明かされる. ストーリー的に凄くひねられたような展開ではないものの,特に最後の演出がなんとも不気味なのだ. ユキ夫が何気なくエレベーターに乗り,やたら降りていくのが気になってエレベーターガールにどこまで行くのか聞くと,地獄までと告げられ,落下後,死亡事故の新聞記事の内容が淡々と語られるという内容なのだが,見せ方がシンプルでありながら何とも不気味. 今と違ってスクリーントーン等もなく,技術的な見せ方も少なかった約60年前の作品ならではの演出という印象も受ける. 鬼太郎とはまた違う,水木しげる貸本時代の独特の雰囲気と没入感は,ぜひ多くの人に味わってほしいと思う.
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2020/06/21
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作者が描く「人間」
自分が何度も読み返している話が、23巻にある。 登場人物の一人であるマスタング大佐が、親友の仇である人造人間のエンヴィーと対峙して闘うシーンだ。大佐が激情に任せて相手を徹底的にいたぶろうとする中、周りがそれを全力で止めていく。いわゆる「復讐」に関わる描写だ。 暴走する大佐は周りからの言葉で手を止め、その様子を見たエンヴィーは「本能のままに やりたい様にやっちゃえよ!」と、全員を罵りながら煽る。 しかし周りはただ沈黙し、エンヴィーは主人公のエドワードに「人間に嫉妬しているんだ」と言われ、涙を流しながら自死を選ぶという結末になっている。 憎しみの対象をボコボコにしてスカッとさせるような流れではなく、人間側が支えあって堪えるという流れが、1つの解釈となっている。 この話は、それまで人間を徹底的にあざ笑ってきたエンヴィーが、「実は人間に嫉妬していた(同時に人間を認めていた)」ことがわかる話でもある。 「動物とも人造人間とも違う『人間』とは、いったいどういう存在なのか?他とは何が違うのか?」 この作品を読む度に、自分は作者からのそんなメッセージを強く感じ、深く考えさせられるのだ。
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2020/06/09
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マンガであり文学
自分の中で特に印象的なシーンの1つが,14巻にある.主人公が,王の兵士にただひたすら殴られ続けるという話だ. 他のマンガであれば,こんな展開はまずあり得ない.魅力的なキャラクターであるはずの主人公が何の抵抗もせずに殴られまくるなんて,普通に考えればメチャクチャカッコ悪いに決まっているからだ. ところがこのヴィンランド・サガでは,そんな主人公の姿がメチャクチャにカッコ良く描かれてしまっている.そのカッコ良さは,最初は笑いながら主人公をバカにしていた兵士達が,最後には真剣な表情になり彼に敬意を払ってしまうほどだ. 常識的に考えれば絶対にカッコ悪い展開を,メチャクチャカッコ良く描いてしまっていて,さらにサブタイトルは「無敵」. このシーン一つをとっても,とてつもなく深い作品だと感じている 同14巻には,サブキャラクターが「だまって嗤(わら)われる勇気がなかった…!」と,過去の自分の行動を泣きながら悔やむシーンが出てくる. 周りにただバカにされる姿なんて,普通に考えればカッコ悪いに決まっている.でもそれを軸の一つとして,作者は大事な何かを描こうとしているのだ いったい何を描こうとしているのか?現在23巻まで刊行されているけれど,自分にはそれが深すぎて,まだ断片的にしかわからない 「だまって嗤われる勇気…?何だよそれ?」読むたびに考えさせられてしまう. マンガ作品であると同時に文学作品でもある,すさまじい作品だと感じている.