兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
カサンドラといえば『北斗の拳』や『クレイモア』、『バットマン』や『ソウルキャリバー』などさまざまな場所で目にする名前ですが、元々はギリシャ神話に登場する可哀想な王女です。太陽神アポロンに言い寄られ、予知能力を授けられるもその能力で自分がアポロンによって不幸になる未来を視てしまったことでアポロンの求愛を拒否。するとアポロンより「正しいことを告げていても誰もそれを信じなくなる」という呪いをかけられてしまうという酷いお話です。カサンドラは有名な「トロイの木馬」もあらかじめ見破っており、そのことを伝えたにも関わらず呪いにより誰にも信じてもらえなかったという逸話もあります。 その名を冠するのが、本作で扱われる「カサンドラ症候群」。「ある種の障害や特性により心が通わない夫(または妻)をもったパートナーに生じる心身の不調」というように定義されます。かつては「鏡症候群」と呼ばれ、最近では「カサンドラ情動剥奪障害」(Cassandra affective deprivation disorder)や、「カサンドラ愛情剥奪症候群」(Cassandra affective deprivation syndrome)とも呼ばれているそうです。 非常に苦しんでいる当事者に反して、周りの人の理解を得られず更に苦しみを深めてしまう様子はなるほどカサンドラと重なるものがあります。 主人公のアコは、最初はちょっと変わった人だけど自分と感性は合うかもと結婚した夫と、どうも意思疎通が上手くいかないことに徐々に気付いていきます。それでも諦めずにコミュニケーションを取り続けようとするも、それらがことごとく失敗し、とりわけ子供ができた時ですら無反応であったり、生まれた後も子育てに無関心で子供の命や未来に関する部分ですら大きな断裂があったりすることが致命的となります。ですが、家族や友人にはまるでその大変さが理解されず何なら「うちよりいい旦那で羨ましい」などと言われてしまう辛さによって病んで行ってしまいます。 鬱病などと同じく、真面目で責任感が強い人ほどカサンドラ症候群にもなりやすいというのが辛いところです。通常でも大変な子育てが、パートナーによって更に何倍にも辛く苦しいものになっていくという状況は実際に体験してみないと理解され難いものではあろうと思います。 本作は非常に根深い問題を多層的にはらんでいます。ASDと一口にいってもその状態は人それぞれなので一概に括ってしまうのもどうかという部分はあります。 とはいえ、個人で抱えるにはあまりにも大きい懊悩。筆者自身がカサンドラ症候群の存在を知って救われたのと同様に、本書を通して同じような苦しみを抱える方が少しでも救われて欲しいです。自分と同じ苦しみを抱えているのがこの世界で自分だけではないのだと教えてくれるのも、マンガや物語や本の大きな役割なのですから。
六文銭
六文銭
1年以上前
松屋、すき家、吉野家が並んでたら迷わず吉野家を選ぶくらい、吉野家の牛丼が好きです。 他のはあまりそうならないのですが、吉野家だけは、なぜか無性に食べたくなるときがあるんですよね。 麻薬でも入っているんでしょうか?(入ってません。) 少し前に吉野家のマーケティングのエライ人が 「生娘シャブ漬け戦略」 とか称して炎上してましたが、このネーミングがアレであったとしても、中毒性という点においては納得してしまいます。 本作も、そんな吉野家に取り憑かれたサラリーマンが主人公で、絵もそうなのですが、吉野家の牛丼の素晴らしさについて語る部分が共感しかなくて、読んでて無性に食べたくなります。 そして、原作者がゲームの『ドラッグオンドラグーン』『NieR:Automata』で一躍有名になったゲームクリエイターの「ヨコオタロウ」氏というからびっくりしました。 『君死ニタマフ事ナカレ』の漫画原作もされてましたが、こちらは、まだつくっているゲームの世界観と近しいので理解できましたが、こういうアットホームなグルメものも描けるのかと驚きました。 御本人のnoteにも、その経緯が書いてありましたが、宣伝でも何でもなく好きだから描けるものは、打算がないぶん純粋ですね。 その点でも興味深い作品でした。
六文銭
六文銭
1年以上前
いわゆる陽キャのグループに属するあやが気になっているのは、自分の好みの音楽がかるCDショップのクールな店員さん。 しかもその店員は男だと思ったら実は女性で、クラスでは目立たない、どちらかという陰キャな同級生みつきだったという話。 対照的な2人だが、ニルヴァーナやレディオヘッドなどの洋楽ロックが好きという共通点で少しずつ心を通わせていく流れ。 この関係性、もう最高でした。 百合的な作品で紹介されてて、自分はあまり百合系の作品は好んで読むタイプではなかったのですが、本作は刺さりました。 個人的に百合というか、友情として捉えるほうが正しい気がしますし(最初は男だと思っていたし)、それぞれが大事にしているものがあって、どんなものであっても尊重し合う姿は友情そのものだなと思います。 同じ価値観を強制される同調圧力の激しい学校という場所では、自分の好きを貫くのが難しい。 自分もマイナージャンルが好きだっただけによくわかります。 自分の価値観に従うのって勇気がいりますよね。 批判されると人格否定された気分になるし。 だからこそ、それが少しでもわかってくれる人がいる喜びは何事にも代えがたいですよね。 2人の関係がまさに、この価値観の共有にあって、少しでもこの経験があった人には共感できると思います。 まだ、物語は動きだしたばかりですがハイセンスな絵柄で、テンポよく進む展開はやみつきになりそうな予感です。