1978年のまんが虫
まだサブカルという言葉も無い時代に#1巻応援
1978年のまんが虫 細野不二彦
ナベテツ
ナベテツ
若くして成功を収めた作家に対して、その才能を讃えたり、羨望の眼差しで見つめても、その労苦へと想像力の翼を伸ばすことは難しいのではないかと思います。 作品がヒットして経済的な成功を得たとしても、その裏でどのような苦労を抱えたり葛藤を抱いているのか、受け手が知ることは叶いません。勿論、クリエイターに己の事情を明かす義務は存在しませんし、秘すべき事柄であるのかもしれません。 ただ、どれほどの才能を持っていても、彼ら彼女らも人間です。嬉しいことがあれば喜び、悲しいことには涙する。そんな素顔が垣間見えることが、漫画家マンガというジャンルの魅力の一つなのではないかと思います。 この作品は細野不二彦先生(作中では細納不二夫)がデビューに至る迄の物語です。進路に迷い、不確かな未来への夢と現実との間に揺れるその様は、多くの人々と変わらない、等身大の青年の姿です。 一人の青年の青春譜は、その時代を瑞々しく描いており、当時の世相を知ることが出来る一級品の資料としての価値もあると断言します(ヤマトからガンダムへの間を知ることが出来る作品を、自分は寡聞にして知りません)。 同級生の天才達(河森正治さんと美樹本晴彦さん)やトップランナー(高千穂遥さんや宮武一貴さん達)との交流は、自分の知らなかったことでしたし、日本のサブカルの歴史のページとして広く知られ、読まれて欲しいと願う作品でした。長々と書いてきましたが、シンプルに面白い作品なので、まずは試し読みから是非。
七帝柔道記外伝
ネタバレ注意!!
七帝柔道記外伝 一丸 増田俊也
toyoneko
toyoneko
「七帝柔道記外伝」は,増田俊也の原作(「VTJ前夜の中井祐樹」)を漫画化した作品 ……ではないです!! …いや,一応,大枠ではそうなんですが,実は問題があります 「七帝柔道記」は,増田俊也先生による小説(ただし限りなくノンフィクション)であり,物語は,主人公(増田俊也)が北大柔道部に入部するところから始まります。当時,七帝戦(旧七帝大による試合)の中で負け続けていた北大柔道部が,勝利を目指して奮闘する物語です 七帝柔道は,寝技中心の特殊ルールであり(高専柔道の流れを汲んでいるとのこと),しかも15人vs15人での団体戦という特殊な試合形式をとっており,これでもかというくらい泥臭くて熱血な練習と試合が繰り広げられます 一丸先生が,同小説を同タイトルで漫画化しています ところで,七帝柔道記は,主人公が入学してから2年間が過ぎたところでストーリーが終わっています。その後のお話は,「続・七帝柔道記」というタイトルで別途描かれたらしいですが(「月刊秘伝」に連載),これはまだ単行本化されていません さらに,主人公(増田俊也)の後輩で,その後,格闘技の道に進んだ中井祐樹という男がいて,その,格闘技トーナメント(VTJ)での活躍が描かれるのが,「VTJ前夜の中井祐樹」です。これは単行本化されています。 そして,本作,「七帝柔道記外伝」(漫画版) おおまかなストーリーラインは,「VTJ前夜の中井祐樹」と同一です 「VTJ前夜の中井祐樹」を,これまでと同じく一丸先生が漫画化したもの…と表現しても,間違ってはいないと思います しかし,そんなつもりで本作を読むと大やけどします! なぜなら,本作では,ストーリー上の重要要素として,まだ単行本化されていない「続・七帝柔道記」のストーリーのうちもっとも重要と思われる部分が,漫画化されてしまっているからです! これは,「VTJ前夜の中井祐樹」には無い描写であり,『おっ,「VTJ前夜の中井祐樹」を漫画化したのか』などと軽い気持ちで読むと,とんでもないネタバレをくらうことになります!!(私のことです) これは…これは注意書きが欲しかった これから読む人はよくご注意ください
七帝柔道記
喜怒哀楽から楽を切り捨て「誇り」を得る青春物語
七帝柔道記 一丸 増田俊也
名無し
ゆとり世代だとか言われる昨今の大学生活は 甘えられ、甘やかされる世代とも言われる。 そうでなくても、子供から大人への過度期においては 自分を甘やかそう世間に少し甘えよう、 楽をしよう楽しもうと思えば かなりそういうことも出来たであろう。 ましてや国立大学に入学したというのであれば ソレまでの努力に免じて多少はノンビリしたとしても それをとがめるのも野暮かもしれない。 30年ほど前、国立・北海道大学に入学しながらも 明るく楽しい学生生活ではなく ひたすら苦しく辛く死ぬほど痛い目にあう青春を 過ごした若者達がいた。 普通に勉強してバイトでもして趣味も楽しんで そんな学生生活も選べただろうに。 北海道大学柔道部に入部し、 年に一度の七帝戦での北大勝利に、 かつての最強・北大の再建に、全てを費やした男達。 毎日毎日、畳の上で締め落とされ関節を決められ。 しかも輝かしい個人成績の勝利ではなく 団体戦で引き分けることに全力で挑んだりした。 北大柔道部の勝利のために。 なかには留年してまで部に在籍して戦う者まで。 およそ世間の価値感や常識では考えられない青春。 楽、ラクとかタノシイとかを放棄した青春。 そこまでするほど価値が真実が七帝柔道にあるのだろうか? 喜怒哀楽から楽を捨て、そのかわりに 彼らは何を得ようとし得ることが出来たのか? 原作者・増田俊也先生の自伝的小説を 一丸先生が汗臭くも綺麗な絵で漫画化している。 ときにホッとしたり泣かずにはいられないシーンも交えて。 一般的な勝利や栄誉とは違った、 普通ではなく損得でもない異常で特殊な勝利を目指して。 仮に比類するものがあったとしても比べようがない 凄い青春譚だ。