ドラゴンヘッド

本当に恐ろしいのは人間の心なのです…

ドラゴンヘッド 望月峯太郎
かしこ
かしこ

初めて読みました!が、昨年出版された「総特集 望月ミネタロウ」が出た後に読んでよかったかも。 全編通してみると、やっぱり序盤の修学旅行からの帰り道に新幹線がトンネルに閉じ込められて脱出しようとする場面が、何が起きたか分からないワクワクという漫画的な面白味がありますね。それが徐々に逃れられない自然災害だったと判明するのは、エンタメとしてはカタルシスが足りないかもしれません。ただ、(実際に連載中には阪神淡路大震災も起きたそうですが)前出のインタビューによると構想段階から「天変地異は起こるけどそんなスペクタクルな話じゃない」「闇をテーマにした地味な作品」というのは決めていたそうです。 人間は暗闇の中にいると存在しない怪物を想像して恐れてしまうけど、本当に恐ろしいのはそんな自分と向き合わないことである…というのは、ものすごく普遍的なテーマだから、いつ読んでも「今に通じる話だ、これ…!!」と思うんだろうな。特に今現在のSNSを中心にした不寛容な時代の雰囲気ってこれが原因なんじゃないかなって思いました。 ドラゴンヘッドを読むとその後に東京怪童を描かれたのも自然な流れだったんだな〜と分かりますね。

自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~

ついに習志野第一空挺団シリーズが単行本にまとまった!

自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~ 板垣恵介
名無し

板垣先生の陸上自衛隊時代の実話を漫画化した読み切りシリーズ。 名高くもこれまで読む機会がヤングチャンピオンでの発表時と一部での再録ぐらいだった98年と99年の、そして22年に少年チャンピオン本誌にそれぞれ2作ずつ発表した新作を単行本にまとめている。 富士山周辺を丸一周(!)する過酷な行軍を描いた「200000歩2夜3日」そして高空を飛ぶヘリコプターから身一つでダイブする訓練にはじめて臨んだ時の体験を描いた「340メートル60秒」は板垣全盛期の熱量タップリで圧巻の読み応え! パラシュートの訓練でいつもヘタレだった同僚が勇気を出して訓練に臨む姿に感化されるくだりがもう最高にかっこいいんだな! この2作を手軽に読めるようになっただけでも大変喜ばしいことと思う! (ここから先は蛇足と捉える人もいると思うので読みたい人だけでどぞ・・・) さて新作の方に話を移すと、文字通り自慰な漫画である「210日900m/m以上?」に関してはノーコメントでいきたいが、「70分600cc以上?」は単行本で「200000歩2夜3日」のあとに前日譚として載っていて、この順番だと初出時よりはしっくり来るなーという印象を持った。同じ生理現象を扱っていてもこちらの方が身近というのもある。あの行軍をまさかXX状態のまんま完遂したとは・・凄いぜセンセイ。 通しで読んでみると、20世紀の2作品ではストイックな努力や素朴な友情、勇気など少年漫画的な王道要素がじつは結構つよいのに気付かされる。初出誌がヤングチャンピオンな割にw そしてそれと対比させるように21世紀を迎えて描かれた新作2作では欲望を描いていて、よく言えば飾らなくなった、悪く言うなれば視野がちと狭くなった。 追い求める目標が崇高なものから単なる生理現象へとランクダウンしたのはなにか意味深である。 思えばバキ本編もケレン味の強い漫画と言われながらもなんだかんだと親子喧嘩の決着までは大きな部分では王道で外してこなかったけど、武蔵編以降は宮本武蔵のクローンを復活させてみたり勇次郎に妙な後付け設定が加わったりで、邪道と言ってしまうとあれだが、そういう「なんか変な方向に行ったような?」という、昔の板垣と今の板垣の作風の変遷を考えさせられるところがこの単行本の意外な収穫と言えるかもだ。

沈黙の艦隊

無っ茶苦茶面白い超名作。故に要注意。

沈黙の艦隊 かわぐちかいじ
完兀
完兀

漫画家・かわぐちかいじの名声を高めた代表作であり、今読んでも無茶苦茶面白くて熱い名作である。 まだ読んでない人は、すぐ読んだ方がいい。このレビューを読み終わる前に読破する方がいい。海面下の武骨な”てつのくじら”とそれを取り巻く人々が織りなす、全地球スケールに広がる風呂敷のファンタスティックな面白さに痺れること間違いなしだ。 そして、だからこそ、この漫画は要注意なのだ。 この漫画はファンタスティックを通り越すぶっ飛んだファンタジー作品であり、「いやいやそれはおかしい」と逐一ツッコむぐらいの冷静さが最終的には必要な、あぶない漫画である。 これは戦闘描写に限った話ではなく、軍人描写・政治描写でも同様の話だ。 というか、素人目にもわかりやすい戦闘描写の範囲だけでこの漫画のファンタジー成分を看破した気になりかねない点が余計にあぶない。このことに関しては、交渉を優位に進めるための心理的トリックに通じるものを感じる。あるいは(いい譬えではないが)巧妙なプロパガンダと似ている。 要するに、面白さに痺れたまま、作品に感化されたまま、染まり切ったままは危険だということだ。 本作はその面白さと現実世界に即した設定故に、なぜ現実はこの作品のようになれないのかと憤って、現実から離れたところに行ってしまって戻ってこれなくなってしまう恐れがある。これは最高の読書体験でもあるが、現実に生きる私たちはいつまでもそのままではいられないだろう。デビルマンを読んで「地獄へ落ちろ人間ども!」に共感しっぱなしでいてはいられないのと大差ない。 なお、私は本作を読んでしばらくはかなり感化されていた。最高の読書体験の一つであった。こんな気持ちいい体験、味わえるなら味わった方がいいに決まっている。 故に、本作が提供してくれるかもしれない最高の読書体験に水を差すようなものは、あらかじめ見ないよう注意(※読者の冷静さを取り戻す激うまギャグ)するのがよいだろう。 こんな長文駄文レビューを読む前に、最も面白く読めるうちに面白い漫画は面白く読むべきなのだ。

ドラゴンヘッド

こんな時代だからこそ、再読

ドラゴンヘッド 望月峯太郎
六文銭
六文銭

ふと青春時代に読みまくった漫画がもう一度読みたくなって、 その筆頭の一つドラゴンヘッドを読んだ。 つくづく、今、読んでも色褪せないなぁと思う。 「同窓会で初恋の人に出会うとがっかりする」 みたいな都市伝説があり、漫画も同じような経験あるんですけど、本作は違いますね。 携帯の機種がガラケーだったりして、そういう意味での古さはありますが、人間の根源的な恐怖に関する描写は、今読んでも変わらないなと思います。 暗闇に怯え、わからないものを憶測して不安にかられ、 最後は非論理的でも色んな理由をつけて自分を納得させる。 この流れが、人間の恐怖に対する本質、行動パターンだなとつくづく感じました。 自然災害を神の怒りとか言っていた時代と何も変わらないですね。 ストーリー展開も、何度読んでもハラハラします。 冒頭の生き埋めされたようなところからはじまり、東京の家に向かっていく、2人の男女。 日本全体が停止した世紀末のような環境下で、災害や人災からサバイバル的に決断が迫られる展開は、スリル満載です。 コロナが蔓延するパンデミックな時代だからこそ、もう1度読んでみたい作品でした。 また余談なのですが、本作はラストの展開に賛否がある作品です。 私も、当時はどちらかというと「え?」という感じでした。 ただ、後年、同著者の「鮫肌男と桃尻女」を読んで、その作品でも似たような終わり方をしていたので、安易に投げたと思うよりは何か狙いがあったと考えるようになりました。 そして、今読むと、当時よりも自分はすんなりいきました。 うまく言えなくて恐縮ですが、 東京に戻った時の主人公のおかれた状況(ネタバレなので控えますが、家族の安否や家の状況などを目の当たりにします)、それまでに出会った人、あらゆる狂気が蔓延するなかで、この終わり方は、逆に現実的だなと考えるようになりました。 漫画(フィクション)だからこそ、物語にきちんと理由つけて展開してほしいとは思いますが、現実問題、自然災害のもので、 謎が全て解明され、ご都合主義的な終わり方や、むりくりなハッピーENDは、それはそれでシコリが残るのでは?と約20年越しで考えるようになりました。 米国あたりの国が救助にきて助かりました、ちゃんちゃんもどうかな?と。 コロナですら原因がわからず人類は翻弄されているのに、 自然なんてより一層そうではないでしょうか? などと、改めて思い直すと、個人的には最終回にも腹落ちした所存です。 (一緒に最終巻まで生き抜いた気になっている登場人物たちが、その後どうなったかは、依然気になるところですが…。)