ジョジョの奇妙な冒険 第7部 カラー版

これはジョジョ(もしくはジョーキッド)の『再生の物語』

ジョジョの奇妙な冒険 第7部 カラー版 荒木飛呂彦
酒チャビン
酒チャビン

自分の中ではジョジョは読むのが結構疲れるタイプのマンガですので、友達オススメの6部までを読み切った後、24巻というボリュームに怯んでいた世界でした。 最初、ガチの馬のレースマンガで、おおっ!とすごくハマったのですが、わりに前半の頃にスタンド等を駆使したバトルまんがに変貌していく世界です(ですので、馬のレースのまんがなんじゃないかと思って躊躇っている方はご安心ください、一切違います)。 ジョジョシリーズは読み取りが難しい描写が多いのが疲れる要因なのですが、7部の後半(通しで100巻を超えたあたり)で「無理に全部わかる必要はないんだ!」という境地に達し、そこからかなり楽しめました。 それまでは、エピソードごとに超おもしろい時と、すごく読むのが辛い時の落差が(これまでのシリーズ作品以上に)激しく、当たりはずれある印象でしたが、後半、私が悟ってからは全体的にヴォルティッジも高く楽しく楽しみました。 さいご、超大物 "なつキャラ" のゲスト出演があり、超ビビる世界です。ジョジョファンの方で7部まだ読んでないよって方(もしいたらそれはファンと言えるのか怪しいですが)、もしくは7部途中で諦めた方は、頑張ってみてほしいです。 後半で突如LESSONが再開される「あしたのジョー」オマージュも素敵でした。 心に残ったセリフなど  ーみんなが生ツバゴクリもので欲しがるボーナス  ーハアハア 挨拶ぬきで失礼します…  ー(セリフではないですが)水曜日にアホになるネタ  ー「全て」を敢えて差し出した者が最後には真の「全て」を得る

ヴィンランド・サガ

贖罪の物語

ヴィンランド・サガ 幸村誠
toyoneko
toyoneko

ヴィンランド・サガは、ずーっと昔に最初のあたりを読んだきりだったんですが、機会があったので最新刊(26巻)まで一気読みしました いい作品でした…。本当に真摯な作品です 描かれているのは、主人公トルフィンの成長と、そして贖罪の姿 父の仇への仇討ちのためとはいえ、罪なき人々を殺し続けたトルフィンが、平和な国の建国を目指す物語です 本来であれば、多数を殺した人間は、死をもって償うしかありません しかし、逆にいえば、死をもって償えば、それで終わりです 本作は、トルフィンに対し、そんな安易な贖罪は許さず、もっとも困難な償いの道を選択させます これは、トルフィンにとっても困難な道ですが、作者自身にとっても本当に困難な道のはずです それなのに、作者の幸村誠先生は、その困難な道を、説得力をもって描き続けている それがひとつ結実するのが、26巻の最後に収録されている話で(191話「その日」)、いやぁもうたまらないですねコレ 敵を殺すという選択肢を排し、可能な限り敵対以外の選択肢を選び取って困難を乗り越えていくトルフィンは、本当に立派で、応援したくなります もちろん、物語は終わっておらず、贖罪も終わってはいませんし、トルフィンの贖罪は、どこかで終わりが来るという性質のものでもありません また、なんだかんだ描きましたが、結局、最終的にはトルフィンの死をもって全てを清算することになるのかもしれません しかし、だからといって、トルフィンのしてきたことが無駄というわけではありません 贖罪の本質というのは、結果ではなく、そこを目指す道筋そのものです トルフィンの生き方は、周囲の人々の生き方にも大きな影響を与えていますし、メタ的には、読者の生き方にすら、影響を与えているのかもしれません 本当に、素晴らしい作品です

アメリカン・ボーン・チャイニーズ  アメリカ生まれの中国人

自己肯定できずに悩む青少年の成長ストーリー!

アメリカン・ボーン・チャイニーズ アメリカ生まれの中国人 椎名ゆかり ジーン・ルエン・ヤン
書肆喫茶mori店主
書肆喫茶mori店主

自分のアイデンティティに悩む中国系移民2世の高校生を描く、全米の学校で読まれているベストセラー作品! 西遊記の物語、中国系2世のジン、ステレオタイプな中国人の従弟に悩まされる白人のダニーの3人の物語が同時進行していく。 この3人の物語が最終的にひとつに融合していくストーリー展開がほんとうにスゴい! ダニーを悩ますステレオタイプな中国人の従弟チンキーが登場するパートでは、コメディドラマを模していて、コマの下に拍手や笑い声が入っている。だが、よく考えると笑えないシーンだったりするのだ。 この作品はもちろん中国系移民の物語なのだが、ジンが抱くコンプレックスや劣等感を自分のそれと置き換えて読むことができるようにも感じた。 コンプレックスを克服しようと孫悟空のようにがむしゃらに努力したり、それを切り捨てて理想の姿になったつもりでもダニーの章で登場するチンキーのようにチクチクと劣等感がうずく。 結局はコンプレックスや劣等感を感じる個性も含めて自分のものであり、そのままの自分でいいのだと認めることができるようになるまでの成長物語なのだと思いました! ぜひ自己肯定ができずに悩んでいる青少年にも読んでもらいたい一作です!

アメリカン・ボーン・チャイニーズ  アメリカ生まれの中国人

交錯する3つの物語で描かれるアイデンティティの問題

アメリカン・ボーン・チャイニーズ アメリカ生まれの中国人 椎名ゆかり ジーン・ルエン・ヤン
ANAGUMA
ANAGUMA

本作の最大の特徴は登場人物の異なる3つのパートに分かれて物語が展開することです。中国系アメリカ人の少年ジン・ワンの学校生活、全能神ツェ・ヨ・ツァーと猿の王孫悟空の伝説、従兄弟の中国人「チンキー」と暮らす白人の少年ダニ―の物語。 原書は2006年刊行ということですが、まったく古臭さを感じさせない視座に、なるほど2020年に邦訳が出るのも納得と感じました。(と同時に依然としてこうした物語が要請されるというか、需要があることにもちょっと複雑な気持ちになりますが…) 登場人物たちはそれぞれに、自身がその空間におけるマイノリティであることを感じており、みなアイデンティティの問題を抱えています。「自分が自分であること」をなかなか受け入れられずに、さまざまな問題を引き起こしていくようすは胸に迫るものがあります。その過程でなぜ3つのパートで物語が構成されているのかも徐々に明らかに…。 差別や偏見についてのメッセージ性もさることながら、交錯する3つの物語がひとつのテーマに向かって収束していくのはドキドキしますし、エンターテイメントとしてまず楽しめます。テーマがテーマだけに敬遠する方も居る気がしますが、あまり身構えず手にとってほしいです。読み終わった頃にはきっと前向きな気持ちになれると思います。