私の女神が今日も推せる ~これからも、いつまでも~

絡み合い重なり合う群像百合 #1巻応援

私の女神が今日も推せる ~これからも、いつまでも~ 川内
兎来栄寿
兎来栄寿

昨年、電子書籍のみで発刊された百合オムニバスがこの度新装版となり再構成されて紙・電子で発売となりました。 1話だけ切り取ってみても相当に満足度の高い百合短編が、相互に絡み合う群像劇として連作短編で読めるこの幸福感。 嘉神さんへの好意がクラスメイトにバレてしまい本人にまで伝わって困惑する大宮さん。 隣の席にいる多賀さんが逆隣にいる諏訪さんに向ける強い視線に気づいている、大宮さんの友人の匙本さん。 同じ塾に通う1位と2位で、それぞれの学校では1位の「最強」を目指す澄海(すみ)と尊(みこと)。 おのおの異なるさまざまな関係性から生じるストーリーは、それぞれに魅力的で胸を高鳴らせてくれます。 個人的には傍観者としても当事者になった瞬間も完璧な匙本さん、好きです。 西大路かれんさんはもっと好きです。 最初は高校生同士として出逢って絆を育みだした彼女たちの、その先の物語が描かれるのも味わい深いところです。共に過ごした時が積み重なるからこそ生まれる酸いや甘い。感情や、振る舞いに凝縮されたものが百合好きを幸せにしてくれます。 帯を缶乃さんが書かれているのもむべなるかな。百合好きの方はマストバイです。

鳴かぬ蛍の眠る場所

『別マ』で異彩を放つ蛍の光 #1巻応援 #完結応援

鳴かぬ蛍の眠る場所 清水奏良
兎来栄寿
兎来栄寿

『君に届け』以来、椎名軽穂さんの18年ぶりの新作となる「突風とビート」が始まり話題となっている『別マ』。最近の『別マ』の中では一際異彩を放ち、それ故に印象的な作品です。 高校生になる前に亡くなってしまった姉・蛍の代わりに、新たに始まる高校生活を楽しもうと心に誓う主人公・照。入学初日から運命を感じるイケメン・颯太朗との出逢いがあり、彼の所属する写真部に入って楽しくドキドキに溢れた高校生活が始まる―― そんな予感がしたのも束の間。周囲では何やらきな臭い噂が流れる颯太朗から「俺が蛍を殺した」と衝撃の事実を告げられ、物語は急転直下。甘い学園ラブコメかと思ったら、サスペンスの様相を呈していきます。 真相は、真意はどこにあるのか。姉を殺したという相手とどう向き合っていくのか。他の『別マ』作品にはなかなかないドキドキがあります。 個人的に、一番好きなのは蛍の回想です。タイトルにもなっている通り、蛍はこの物語のキーパーソンでありフィーチャーされていきます。照は照でかわいくて明るくて面白い魅力的な黒髪ロングヒロインなのですが、彼女の人格形成にも多分に影響したであろう蛍というキャラクターもまた良いです。彼女の良さがその言動から溢れてくるシーンに感じ入ってしまいます。清水奏良さんの絵の良さもあいまって、とても魅力的です。 とある名作少女マンガのある場面を思い出すような大きな展開にも驚かされながら、物語は1冊で完結します。 全体を通して生じた感情を述べることもネタバレになってしまいそうなので伏せますが、ただひとつ言えることは間違いなく良い作品で好きということです。 後書きの焼肉の件は、本編との落差で笑ってしまいました。

ぜんぶシンカちゃんのせい

進化心理学的ラブコメ #1巻応援

ぜんぶシンカちゃんのせい 汐里 Rootport
兎来栄寿
兎来栄寿

皆さんは「進化心理学」をご存知でしょうか。ヒトの行動や心理を進化論の視点から読み解くアプローチで、本作はそれに基づいたラブコメです。 『サイバーパンク桃太郎』『ドランク・インベーダー』『女騎士、経理になる。』のRootportさんが原作を、『4D』『いちいちせいち』『勇者のひざには猫がいる』の汐里さんが漫画を担当しています。お二方の作品が好きな私としては、嬉しいコラボです。 人がピザやラーメンやケーキを好む理由。 男と女に分かれている理由。 LINEで延々とおしゃべりするのが好きな理由。 人間が持つさまざまな性質を進化心理学的な観点から読み解いていくところは、多分野の知識に長けたRootportさんらしく学術的に興味深いところです。 それを、「薬指が大きいあなたはアソコも大きいはずなので確かめさせて欲しい」とのたまうヒロインのシンカさんを擁した学園ラブコメに落とし込んでいます。 汐里さんが描く美しい黒髪ロングストレートのシンカさんも、そのシンカさんに翻弄される主人公のトウタくんもかわいいです。 進化心理学に精通しているけれど世界史は苦手、なぜなら20万年の歴史のあるホモサピエンスにとって2000年はごく最近の一瞬であり戦争と疫病の繰り返しだからというシンカさん、推せます。 地味に好きなのは、生徒にマラソンを走らせてる時に「お前らがんばって走れよ! 俺も古戦場走るから」という体育教師。 「自然主義の誤謬」であったりゾウリムシには16種類の性別があるということであったり読んでいるだけでさまざまな知識に触れられるのが楽しく、1巻完結でサクッと読めますがもっともっと読んでいたい作品でした。