取るに足らない僕らの正義

「特別」への羨望と嫉妬を煮詰めたオムニバス #1巻応援

取るに足らない僕らの正義 川野倫
兎来栄寿
兎来栄寿

1巻完結の物語としては、早くも2023年最高峰ではないかと思わせる非常に上質な作品が登場しました。 シンガーソングライター・多野小夜子とそれぞれ多様な関わりを持つ男女数名が織り成す、連作短編です。 作者はごめん名義でも描かれていた、西野カナさんのMVなども描かれた川野倫さん。 誰しも一度は「特別」になりたいと憧れ、そして多くの人は夢破れて「平凡」になるわけですが、本作では「特別」な小夜子と、それを取り巻く「平凡」な人々で構成されています。さまざまな感情の堆積がやがて歪みを生み発露するさまが、多様な角度から描かれていきます。人間の持つ嫉妬心や他人の不幸を願う気持ち、自分の心を安定させたいがための卑しい行為などが非常にリアルで丁寧で、読み応えがあります。 また言葉のセンスにも光るものを感じました。 ″恥ずかしくて死にたくなれよ。  生きてるなら。″ といった切れ味鋭いセリフや、作中で小夜子が「なぜ歌を歌うのか」と問われた時の ″ただの自傷行為だよこんなの。  曲を作ることも歌うことも。  でもさ、それで救われたって人もいたんだよね。  そういう人のために歌うわけじゃないけどさ、  そういう人もいるんだなって思ったよねー。″ というセリフなどは、特に好きです。 ある種神格化さえされている創り手の神聖に見える創造行為が、本人の認識ではただの自傷や自慰行為に過ぎない。でも、それは決して悪いことではなく、それでもその被造物によって救われる人も確かに存在する。そのことは、創り手にとってのささやかな救いともなる。 理不尽に覆われたこの世界がそれでも美しいと思える理由が、ここにあると思いました。

オタク女子が、4人で暮らしてみたら。

女性同居エッセイ実践派 #1巻応援

オタク女子が、4人で暮らしてみたら。 泥川恵 藤谷千明
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

内容はタイトルの通り、オタク女性が四人で一軒家をシェアしてみた実録記です。近い内容のエッセイ作品には『オタシェア!~エロゲ女子×腐女子×ルームシェア~』がありますし、フィクション作品であれば女性同士の同居ものはかなり増えてきました。 そんな中でこの作品が特徴的なのは「実践的」である点でしょうか。 作者の寂しさ(心とフトコロ)から来た思いつきを、仲間を募って形にするまでが、かなり詳細に綴られます。ルームシェア物件の借り方指南として参考になりそう! 四人暮らしの進め方、心構えなどは、「恋愛」から始まる同居とは違っていて興味深いです。恋愛が終わったカップルの心の持ち方にも、もしかしたら参考になるのかもしれません。 そうして進んでゆく四人暮らしは、『オタシェア!』や同居もの百合漫画と同様に、とても楽しそう。オタ活の詳細にはあまり触れられませんが、オタ活あるあるや、共同生活で少しずつ趣味をシェアしてゆく様子などは『オタシェア!』に近く、「オタ活って、一人でも複数でも楽しみ方があるんだな」という、視界が開ける感覚があります。 おトクに暮らして、目の前の生活を楽しむ。そんなある種の豊かさが、ここにはあるように感じました。

妻が子宮カルトに沼りました

子宮の声を聞け!

妻が子宮カルトに沼りました 真枝アキ 田丸いく 黒猫ドラネコ
野愛
野愛

下世話な気持ち100%で更新をいちばん楽しみにしている漫画がこちらです。 もちろんフィクションですし誇張しまくりではあるけれど、割と実録だったりする作品です。インターネット大好きな奥様方は元ネタが何かすぐわかっちゃうと思います。 仕事ばかりで妻に家事や育児を任せきりにしていたら何やら子宮系カルト宗教にハマってしまった! 子宮の声に従うとかなんとか言って、ブログにセクシーな自撮りをアップしたり夜遅くまで子どもを置いて出かけたり…どういうことだ!! っていうところで話し合いしておさまればいいのですが、カルト宗教にのめり込んでいくから大変。 以前の妻を取り戻すためにカルト宗教の闇に斬り込んでいくというお話。 どう考えてもフィクションなのに、そうでもないから夢中で読んでしまうのです。子宮系の方のブログ、めちゃくちゃゾワゾワするからたまに読んでたなあ……。 こんなんに騙されるわけないだろ と こんなんに騙されるかも知れないの狭間にいるから人間は面白いんです。 被害者になるか加害者になるか傍観者になるかわからないけど、当事者にならないように皆さん学んでおきましょう。