弱虫ペダル

伝説が現在進行形で描かれている

弱虫ペダル 渡辺航
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

新刊が出るたび読んでいるが、現時点で56巻まで出ているので序盤の熱量をもう一度確認したくなって読み返してみた。 やはりすごい熱量。 読んでいるだけで体が熱くなってきて今すぐに自転車で飛び出したくなる。 高校に入学した小野田坂道が自転車競技に出会い、隠された才能を発揮し、のめり込んでいく熱血青春スポーツ漫画だ。 この漫画のすごいところは、話の導入部分がものすごく丁寧で、違和感なく自転車競技というものに興味を持たせられるところだ。 主人公の小野田坂道は自転車になんか全く興味がなく、アニメ研究会に入ろうとするが人数が足りず休部になっていて部員勧誘をするも集まらず途方に暮れていた。 まず、主人公が自転車に興味がないのがポイントで、多くの読者と同じ目線に立っているのでとても共感できる。 そして、アニメ好きで節約したいからといって千葉県から秋葉原までの約45km、往復90kmをほぼ毎日ママチャリで走っているという。 もう、自転車に向いてそうで才能を発揮してくれそうな説得力あるエピソードが分かりやすい。 同世代ではトップレベルの自転車やってる同級生が、偶然学校前の激坂を歌いながらママチャリで登る小野田を目撃し、ハンデ込みで勝負を挑むが、僅差で小野田は負ける。 しかし、全くの素人相手に僅差の勝負だったことで、彼は小野田の才能を認め自転車部に勧誘する。 ここでいよいよ自転車の才能があることが発覚してきて、あとはそれを疑う周囲の人に実力を見せつけるのみとなってくる。 ここから面白いのが、小野田の成長と、ママチャリと自転車レースで必須な速く走ることに特化したロードバイクとの違いを丁寧に描いていくのだ。 まず、適切なサドルの高さにすることでこぐ力が完全に伝わり、ギアがつくことでさら速くなる。その感動を喜びの新しい発見の感情として表現してくれている。 そして、ここまではまだママチャリだったが、レースに参加することでギアとかサドルとか関係なく完全なロードバイクとの性能差を見せつけられ愕然とする。 しかしここでママチャリですらかなり速かった小野田がロードバイクを手にすることで爆速となり部員をごぼう抜き! ここまでで自転車競技用のロードバイクってすごいんだ!乗りたい!となるほどに分かりやすく描かれている。 そしてここから小野田本人の成長物語へと移行していき、1年目のインターハイが終わるまで30巻近く使う。 これって、実はあのスラムダンクと似たような構図なのだ。 バスケに興味が無い桜木花道、異様なジャンプ力を発揮し才能がチラつき、バスケの勝負のアツさや桜木花道の成長を描いていき、インターハイを描き終わるのに約30巻。 4月~インターハイの終わりまでの短期間をここまで濃くアツく描けている点など共通点がたくさんある。 これで名作にならないわけがない。 そしてスラムダンクは熱量が下がったその後を描きたくないとのことでそこで終わったが、弱虫ペダルはその後もきっちり描き、2年目のインターハイもものすごくアツい展開になってきている。 僕たちはいま、後世に語り継がれる伝説的な漫画が誕生しつつあるリアルタイムの連載を追えていることに幸せを感じた方がいいのかもしれない。

穴殺人

進撃のマンガ雑誌アプリ!殺人鬼でも美人ならOK?『穴殺人』他マンガボックスのススメ

穴殺人 裸村
兎来栄寿
兎来栄寿

今、日本で一番読まれている雑誌をご存知でしょうか?
はい、言わずと知れた週刊少年ジャンプです。 では、二番目に来るのは何かお分かりになるでしょうか?
それこそが、今回紹介するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」です。 昨年の発行部数のデータでは、週刊少年ジャンプが約283万部、週刊少年マガジンが約143万部(ちなみに、その後は月刊少年マガジン73万部、コロコロコミック70万部と来て、週刊文春が69万部でマンガ雑誌以外での発行部数一位となっています)。
一方で、マンガボックスは何と400万ダウンロードを突破。2ヶ月前の時点で人気作品のアクティブユーザー数は100万人を超えており、現在も読者数は増え続けていますので、実売数も考えれば恐らく今や週刊少年マガジン以上に読まれているでしょう。 進撃の巨人を「根は優しいヤツなんですけどね」と語った秀逸なCMや、続きが気になった際にはSNSで拡散を行うことによって一つ先の話まで読める面白い仕掛け。日本語以外にも英語と中国語に対応しており、動作も快適。基本無料ということもあるのでしょうが……まさに快進撃と呼ぶに相応しい伸び方です。 このマンガボックスの編集長は樹林伸さん。
『金田一少年の事件簿』、『探偵学園Q』、『サイコメトラーEIJI』、『クニミツの政』、『シバトラ』、『GetBackers-奪還屋-』、『ブラッディ・マンデイ』、『エリアの騎士』、『神の雫』などなど、現在も様々な名義で数多の作品を手掛けています。
個人的に大好きな『MMR』のキバヤシ隊長そのものであり、これらが全て同一人物によって創られた作品なのだと知った時は「な、なんだってー!?」と叫んでしまった程の衝撃でした(今でも、講談社の原作と作画が分かれている作品を見ると「もしかしたらこれも樹林さんなのではないか」と疑ってしまいます)。 今まで一切マネタイズを行って来なかったマンガボックスですが、本日が初のコミックス発売日! 11冊が同時発売となりました。
果たして単行本の売上はどうなるのか。それによって今後の運営にどう影響があるのか……
今後のマンガ業界全体から見ても興味深いトピックです。 業界にとって明るい話題になると良いなぁと思いつつ、私もマンガボックスはサービス開始初日からダウンロードして全作品を読んで来ていますので、今からでも特に注目すべきお薦め作品を紹介していきます。 最注目は、100万人以上に読まれている大人気作『穴殺人』。  隣に美人のお姉さんが住んでいる!
健全な男性だったら、テンションが上がらない筈のないシチュエーションです。
これは"たとえば"の話ですが……もしも偶然その美女の部屋が見える覗き穴ができてしまったら、あなたはどうしますか? え? 大家さんに報告して塞ぐ?
…………ふぅ。
OK、社会的立場のある人間としての建前上の答は、それでフォルコメンハイト(完璧)です。ただですね、ここでは理性という枷に抑え込まれていない、あなたの真なる内心を伺いたいのです。あくまで"たとえば"の話ですので、この答如何によってあなたが不利になることは何もありません。そこでもう一度、あなたの意見をきこうッ! 覗き穴ができた時、どうしますか?
ちなみにこの美女はスタイルもグンバツで、ちょっとエッチなものとします。
「穴に目を近づけるのはいけないことでしょおーか~!?」と、かの世界を救った英雄ジョセフ・ジョースターも言っていましたが……
健全な紳士諸兄であれば、心の答は決まっていますよね。ナァーイス!(実際に覗いたら軽犯罪法第1条23号により罰せられますので、漫画の世界で我慢しておきましょう。世界が平和でありますように)。 この『穴殺人』は、そんな男の夢と希望が成就した状況から幕を開けます。
数センチの隙間から漏れ出づるメルヘンに、「YEAAA!!」と勝鬨を上げ、ピシガシグッグッと拳を交わしておきましょう。
もっとも、それだけならば『ノ・ゾ・キ・ア・ナ』を始めとして、よくある他愛もないお話です。 が、もしその美女がサイコパスだったとしたらどうでしょうか。
そして、その凄惨な犯行現場を目撃してしまったとしたら……
さっさと警察に通報する? ええ、至極真っ当ですね。 ただ、今作の主人公・黒須は、そうはしませんでした。
彼は、そんな美しすぎる殺人鬼・宮市に、覗き穴を介してお近付きになります。
二浪しながら予備校も辞め、両親にも見放され、友達もおらず、一年間も引き篭もって自殺未遂にまで至った黒須。
恐らく、人と会話する機会さえほとんどなかったことでしょう。
そんな折、自分の為に屈託のない笑顔で肉じゃがを作ってくれる可愛い女性が突然現れたら、たとえ狂気の殺人鬼であったとしても気持ちを持って行かれるのは無理からぬことですね。 私がマンガHONZに入った切っ掛けでもある『キーチVS』の巻末にあった堀江さんと新井英樹先生の対談で云われていたこと。
あるいは、とある小説の冒頭文にある「この世の全ては、一人の可愛い女がいれば大抵どうでも良くなる」という命題。 これらは、極めて重要な真理を突いています。そして、それは男女を逆にしても当てはまること。
皆さんの周りにはいないでしょうか。
「この世界に生きている意味はない」「どうせ死んだら全ては無なのだから何をしようと無価値」などとのたまっていながら、彼氏/彼女ができた瞬間にSNSにラブラブな写真を載せては「毎日幸せ♪」と人生を謳歌しているような人は。
そんな友人に対する個人的な感情はさておき、人間の本質はそんなものだと思います。
圧倒的な破壊衝動も破滅願望も、可愛い女の子や格好良い男の子がいるだけで雲散霧消してしまうのです。人間のリアルがここにあります。 そのようにして、黒須も宮市の存在によって意識を大きく変えられています。呼吸をするように人を殺す宮市の存在が、自殺しかけていた黒須の命を繋ぎ止めている。あまつさえ、その命を宮市が断ち切ろうとする……何という皮肉的な構図でしょう。支配されることを是とするそのリアルな歪さ。そして窃視や殺人といったタブーが、読む者を惹き付ける作品です。
可愛い新キャラクターも登場し更に混迷を極めつつありますが、果たしてどこに帰着するのか。
今後も、毎回のアオリ文と共に楽しみにしていきます。   『穴殺人』以外の作品についても、簡単に触れておきます。 

地獄先生ぬ~べ~

エロとノスタルジー

地獄先生ぬ~べ~ 真倉翔 岡野剛
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

懐かしい気持ちで久々に手に取りました。 妖怪や幽霊、都市伝説、学校の七不思議、オカルトなどなどそっち方面のことは大体やってて、童守小学校5年3組の担任で、鬼の手を持つ日本唯一の霊能教師である「ぬ~べ~」が解決する、といった1話完結の話が主ですね。 僕がぬ~べ~を読んでいたのは小学校の頃でしょうか。 ジャンプを読んでいる顔してエロを覗き見れる貴重な合法エロでした。 とはいえ、僕は幼少期から水木しげるをはじめ、妖怪だったり幽霊の話だったりが大好物だったので、一石二鳥でした。 大体、生徒の誰かが妖怪に憑りつかれたり、問題行動を起こして憑りつかれたり、通りすがりに憑りつかれたりって感じの話で、教訓めいたものが多く、自分はこうなるまいと思っていろいろ自制していたので、教育的な面でも成功していたんじゃないでしょうか。 通りすがり系は、災害みたいなもんでたまったもんじゃないので普通に怖かったです。 意外と科学で戦う場面もあったりするんですよね。 アニメと違って漫画は普通にグロかったのでトラウマ回もわりとありました。 漫画好きな友人とどの回がトラウマになったかで結構盛り上がるのでオススメです。 A、赤いちゃんちゃんこ、ブキミちゃん、寄生虫、人面瘡、はたもんば、枕返し、 七人ミサキ、桜の木などなど・・。 どこからでも読めるので引っ越しの際に売らなきゃ良かったなと後悔してます。 最近ジャンプ展へ行ったときに原作の真倉翔先生のコメントで「ぬ~べ~は日本初(?)のネーム原作の漫画です」と書いてあったので、へーと驚きました。 連載開始が93年なので、それまでの原作付きの漫画はネームの形ではなかったんですね。 意外です。 御本人がおっしゃってるだけなので、未検証という意味でのクエスチョンマークでしょうけど、概ねそうなんでしょうね。 続編のNEOは読んでませんが、気が向いたらまたパラパラやってみたいものです。