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太平洋戦争も日本に敗戦の色濃い昭和20年はじめ――。圧倒的な物量を誇る米軍機動部隊は、日本の最後の砦・沖縄周辺海上に集結していた。これに対し、日本軍の残された反撃手段はただ一つ。機もろとも敵艦に体当たりする肉弾攻撃、神風特別攻撃隊であった。250kgの爆弾を戦闘機に取り付け、まっしぐらに敵艦に突っ込んでいくという世界にも例をみない恐るべき戦法である。しかしながら、この神風特別攻撃隊をしても敵の侵攻をくいとめることはできず、ここでさらに恐るべき戦法がとられた。すなわち、ロケット特攻機「桜花」の誕生である。桜花はそれ自身戦闘能力は全くない翼をもった爆弾といっていいだろう。――昭和20年3月21日、桜花特別攻撃隊の第1陣18機は九州の南端・鹿屋基地を飛び立っていった。護衛戦闘機はわずか30機。「この攻撃に成功し、戦局は逆転する」日本軍最後の期待を担った桜花は必ずや戦局を打開してくれると固く信じられていたのであったが…。
歴史、軍記ジャンルを得意にした昭和の巨匠横山まさみち先生の描いた軍記ものです。 毎年夏に刊行される太平洋戦争を舞台にした短編集としてよく配信されており、そこで目を通したことのある方も多いのではないでしょうか? 特攻ジャンルの作品のデフォルトともいえる若者の飛行機乗りの葛藤、そして若者を死地に送り出さなければならない上官及び父親の苦悩、描写が丁寧に描かれています。 また特攻兵器としては“桜花”のパイロットに焦点をあてた珍しい作品です。 零戦や紫電改など登場人物の技量を描ける“見映えのする戦闘機”での特攻は古くからありました。 しかし母機に繋がれたまま何もできず、切り離されても目標に向かって突撃するしかない桜花のパイロットの苦悩は従来の特攻物とは違った刹那を読み手に与えてくれるはずです。