『写楽心中 少女の春画は江戸に咲く』の会田薫さんによる新作です。 妻と娘を亡くし、心を患って経営する喫茶店も閉めようかと思っていた青年・幸一のところに現れた謎の美少女。その正体は、15歳にして女形の大スター・艶之助(えんのすけ)。「鬼」と呼ばれる父親の下で幼い頃から役者になるべく厳しい指導を受けてきた艶之助は、束の間の自由を欲しており、かくして二人の奇妙な共同生活が始まりを告げます。 相変わらず会田薫さんは絵の良さもさることながら、人情ドラマの上手さが抜群で安定感すら覚えます。主人公二人はどちらもネガティブな動機から始まっていますが、そこまで重く感じさせすぎない筆致が絶妙です。締めるところはしっかり締めながら、メリハリの効いた喜怒哀楽を楽しむことができます。 私の小学校は中学受験が大変盛んで、6年生の時には学年の半分以上が塾か家庭教師に専念して登校してこなくなるようなところでしたが、「給食を1度も食べたことがないので、揚げパンを食べてみたい」と願うもそれすら許されない小学生の艶之助のシーンには、かつてのクラスメイト達を思い出しました。彼らも、厳しい親によって意識高く在ることを義務付けられ、普通の子供が普通にすることを許されずに制限され憧れていたものです。艶之助が堪えかねて逃亡したように、その歪みは人生のどこかで発露することがなかったのだろうかと詮方なき心配をしてしまいます。 そんな話はさておき、個人的に1巻だと3話が本当に好きです。娘と妻がまだ生きていたときの主人公のとある後悔にまつわる話なのですが、誰にでもこういうところはあるものだと思います。もしかしたら、この作品を読んでいつもとほんの少しだけ行動を変える人が生まれることで、世界の幸せの総量も増えるかもしれません。それくらい、良い話なんです。 女性向けレーベルですが、男性でも読みやすいと思いますので広くお薦めしたい秀作です。
兎来栄寿
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