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これを読むと、今自分の周りにいる大事な人を、これから共に寄り添って行く大事な人たちを、今よりも大事にしたくなる。そんな世界と人間への慈愛に満ちたマンガです。それも、ただの綺麗事ではなく、醜さや負の側面をしっかり認めた上で成立させているが故に、強い普遍的な価値を持つヒューマンドラマです。 『GANTZ』や『いぬやしき』の奥浩哉先生の下でアシスタントとして働き、睾丸癌になった経験を実録マンガ化した『さよならタマちゃん』で華々しいデビューを飾った武田一義先生。その武田先生の二作目となるのが、今回紹介する『おやこっこ』です。当然、私も期待に胸を膨らませてイブニングを手に取りました。すると、一話目からありありと良いマンガであることが伝わる出色の出来ではありませんか! ただ、とても素晴らしいマンガであるにも関わらず、正直に言って圧倒的に「売れ感」がありません。『さよならタマちゃん』という話題になった前作がありながら、書店で見掛ける冊数は寂しいものでした。そして、世間でも思ったより話題になっていないように見受けられます。美少女も美女も美少年も美青年も出て来ず、バトルやバイオレンスやエロやグルメ要素もなくひたすら普通の人間の日常的な営みを描く、はっきり言ってしまえば地味なマンガ。しかし、それは裏を返せば老若男女を問わず誰でも読める長所を持つということ。とりわけ、マンガアプリの隆盛で短いページの中に強い刺激のある解りやすい作品が隆盛を極める時代の中で、淡々と人間を文学的に描いて行くこういった作品ももっと評価されるべきだと切実に思います。 連載時から120ページ以上の加筆修正がなされ上下巻として同時刊行された『おやこっこ』。誰が推さなくとも、私は強く推して参りましょう。   **親子という呪縛** 物語の始まりは、関わりを絶っていた実の父の危篤の報。酒乱の父の下と児童養護施設を行ったり来たりしながら育った主人公・孝志は複雑な想いを抱えながら、高校卒業以来十五年ぶりに故郷・北海道の倒れた父親がいる病院へと向かいます。意識を取り戻せるかどうかも定かでなく、無残な姿となった父を見た孝志は―― といった冒頭で始まる『おやこっこ』。「こっこ」とは北海道の方言で子供の意味ですが、単に「親子」と言うより「おやこっこ」と書くことで生じる温かみと柔らかさ。それは、武田一義先生の絵柄が生み出す雰囲気そのもののようです。見た目はかわいい絵柄の『おやこっこ』ですが、序盤からかなりヘヴィなものを投げ掛けて来ます。 どうしようもない生き様に憎しみすら抱き、長年離れて暮らしていた父親。孝志は、「このまま死んでくれれば良い、もう煩わしい想いをしたくないと願うのは間違っているのだろうか?」と妻の亜紀に問います。この重みのあるテーマをこの画風でやるギャップによって、より深い部分にまで浸透する味わいが出ていると言えるでしょう。折角、何とか仕事を安定させ、妻の亜紀と家庭を持つことができて、そのまま何事もなく幸せに暮らせたかもしれない孝志に訪れた問題。厄介な親族との関係性。現代社会でも、それに類する悩みを持つ人は多いでしょう。たった一人の肉親であるなら、仕事を休んだり辞めたり、人付き合いや楽しみを我慢して自分の人生を犠牲にしてでも尽くすべきなのか? たとえ、その人物に酷い仕打ちを受けて殺したいほど深く憎んでいたとしても? 私は、育ててくれたことへの感謝と、人の人生を台無しにする権利とはまた別問題だと思います。それでも、「どんな親でも親は親」という一般的な倫理との齟齬がそこに生まれない訳ではありません。『おやこっこ』でも、結局孝志は父親を放置はしません。しかし、その苦い想いは肯定してくれます。そう思ってしまうこと自体が罪ではないか、と苛まれている人の重石を、亜紀の答えは少しだけ軽くしてくれるでしょう。 私は近年稀なほど『おやこっこ』には感情移入しました。特に肉親との絆というのは、本当に難しいもので……。良い関係が築けているならば何も問題はありませんし、その絆が過酷な世界を渡り行く際に身を守る衣となってくれます。しかし、そうでない場合は半永久的に纏わり付く呪いの縛鎖と化し、心身を蝕み続けます。かつて、私は親への憎しみが有り余って、その血が流れる自分自身もが激しい嫌悪の対象でした。誰から生まれて来るかは選べない、と作中で孝志も言います。実親から生まれ、その遺伝子を宿しているという先天的で不変の事実が私は文字通り死ぬほど耐え難く、同じ世界に存在していることは勿論、生きていることそのものが重苦でした。孝志がそうしたように、物理的に距離を取り時間が流れるのを待つというのが唯一の対処法であったように思います。 因果であるのは、孝志の父親である久志もまた、かつて父親のようにはなるまいと志していたということ。しかし、結果的には自分も父親のように、かつて自分が厭い反面教師としようとした姿そのものになってしまっていたのです。これ、ありますよ。あるんですよ……。絶対にそうはなりたくない、と思っていたのに成長するにつれて気付けば似通ってしまっている。無意識下のしぐさや、考え方、行動がどうしようもなく如実に親子であることを明示してくることが。血の繋がりという逃れられない呪いの強さへの絶望感は、堪らなく悍ましいものがあります。   **親子という祝福** ただ、私と孝志の異なる点として、そして孝志の救いとして、幼い頃の父親との良き記憶があります。孝志は、故郷に近付く道すがら、あるいは故郷での風景やふとした瞬間の中に、過去の想い出が蘇るのを感じます。 > ありがとうって自然に言うのが
> かあっこいーオトナなんだぜ > そう
> 「ありがとう」
> だぞ それは、記憶の奥底に埋没していたかつての父親の言葉。知らず知らずの内に、父親である久志の教えは孝志の芯に宿っていました。疎ましく思っていた父親でしたが、確かにかつてその父親に「かあっこいー」と憧れを抱き、そうなりたいと願った自分がいました。そして、その父親のお陰で大事な時に「ありがとう」と言えるようになり、またその言葉が言えるからこそ妻に肯定して貰える自分となっていたことに気付きます。 > そうか――俺は十分過ぎるものを与えられていたんだな そう孝志は実感するに至ります。  きっと、人は今を生きている限り、皆十分過ぎるものを与えられているのです。   たとえ親と過ごした時間の記憶が無かったとしても、あるいはどんなに辛い思いをさせられて親を憎んでいるとしても、今自分が存在して生きていることそれ自体が全ての人にとって祝福なのだ、と。生物として最も脆弱な、生まれてから間もなく、物心のつく前の期間。一人では生きて行くことのできない時代を、誰かに守られ支えられ、助けられてきたからこそ今の自分があるのだから。きっと、人は親になって自分で子どもを育てる立場になることで、より強くそれを実感するのでしょう。子どもを生み、守り、育てることがどれだけ大変なことか。かつて自分を育てた人が、自分の為にどれほどの苦労をしてどれほどのものを捧げてどれほどのことをしてくれたのか、ということを。 そして、どれだけくたびれてしまっていても、我が子を胸に抱くその瞬間の喜びだけは何にも増して尊く掛け替えのないものなのだということ。その小さな手のひらを守るためなら、理屈抜きで何でもできてしまうのだろうということ。それは我が事を超えて人間存在全体への大いなる祝福となっているが故に、こんな私にも大きな感動を与えてくれました。私個人の未来にはこんな風に自分の子供を抱きかかえる瞬間は訪れないかもしれませんし、親を許せる日は来ないかもしれませんが、それでも世界にこういった喜びが満ちているならば、それはとても素敵なことだな、と。 人と人との繋がりの中でも、一際強い親子という間柄。その強さが時として仇となり、人を傷付けることがままあります。それでも、もしかしたら決して相容れないと思っていたとしても、少しだけ未来に分かり合える瞬間があるかもしれないということ。その微かな微かな融和が、一個の人間には大いなる救いとなって降り注ぐものなのかもしれません。 そして、やがて来る新しい季節を最後のページの孝志のような、あるいは上下巻の表紙でキャッチボールをし、それを見守る親子たちのような気持ちで迎えられる日が来たら、と祈らずにはいられません。本当に良い表紙で、良いマンガだなぁ、と心から思います。   余談ですが、奥浩哉先生とのエピソードを描いた小噺マンガ(http://www.moae.jp/comic/inuyashiki/2)も面白いので併せてどうぞ。
兎来栄寿
兎来栄寿
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タイトル
本文
おやこっこ
おやこっこ
武田一義
武田一義
あらすじ
「さよならタマちゃん」で大きな反響を呼んだ武田一義が贈る、父と子の物語。ある日かかってきた一本の電話。それは長い間、音信不通だった父の危篤を知らせるものだった。一報を受けた息子の孝志は、妻の亜紀とともに15年ぶりの帰郷を果たす。もう父とは関わりたくないはずだった。だが変わり果てた父の姿を見て、その思いは揺れる……。
おやこっこ 上巻
「さよならタマちゃん」で大きな反響を呼んだ武田一義が贈る、父と子の物語。ある日かかってきた一本の電話。それは長い間、音信不通だった父の危篤を知らせるものだった。一報を受けた息子の孝志は、妻の亜紀とともに15年ぶりの帰郷を果たす。もう父とは関わりたくないはずだった。だが変わり果てた父の姿を見て、その思いは揺れる……。
おやこっこ 下巻
15年の時を経て動き出す父と子の物語。もう父とは関わりたくないと思っていた孝志は、父、危急の報を受け、15年ぶりの帰郷を果たす。変わり果てた父の姿を見て、様々な思いが込み上げてくる。そして、父・久志もまた息子に伝えたい思いを抱いていた…。不器用な父と子の物語はどんな結末を迎えるのか。
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さよならタマちゃん

さよならタマちゃん

いつか漫画家になる事を夢見て、漫画家アシスタントとして日々を暮らしていた35歳の主人公。そんな彼に突然襲ってきた癌という大きな試練。睾丸の癌に冒され、片タマを失った主人公が、家族や他の入院患者との出会いをコミカルな絵でリアルに描ききる。後が無いのはわかってる。でも諦めるには早すぎる!夢を掴むための闘病記!
ペリリュー ─楽園のゲルニカ─

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─

昭和19年、夏。太平洋戦争末期のペリリュー島に漫画家志望の兵士、田丸はいた。そこはサンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園。そして日米合わせて5万人の兵士が殺し合う狂気の戦場。当時、東洋一と謳われた飛行場奪取を目的に襲い掛かる米軍の精鋭4万。迎え撃つは『徹底持久』を命じられた日本軍守備隊1万。祖国から遠く離れた小さな島で、彼らは何のために戦い、何を思い生きたのか――!?『戦争』の時代に生きた若者の長く忘れ去られた真実の記録!
マンガトリツカレ男
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しずかの山

しずかの山

山は巨大な密室だ!山岳ガイド・高遠静(たかとお・しずか)が真実に迫る――。【神の山マチャプチャレ】ヒマラヤ山脈で『神の山』として登頂を禁じられたマチャプチャレに、登山家ジアンは初登頂し、一躍時の人となる。しかし、同じ時期にマチャプチャレを目指したモーリスは消息不明に。二人の間に何があったのか?それとも……。前人未到の地で露(あらわ)になる極限の人間心理と真実とは?
影風魔 ハヤセ

影風魔 ハヤセ

信長は死んではいなかった!信長VS.秀吉!!その陰に忍者(しのび)あり。天正10年、本能寺炎上。未だ謎に包まれているこの歴史的大事件の裏には、ある男達の暗躍があった。名前も姿も闇に包まれ、忍びの者たちからもその存在を恐れられる彼らは、玄忍者(くろしのび)と呼ばれた…。戦国の世を舞台に、忍者(しのび)VS.忍者(しのび)の壮絶な戦いの幕が上がる!!
劇画・長谷川 伸シリーズ

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小林まことの手で蘇る、義理と人情の物語。現代(いま)だからこそ伝えたい“美しさ”がここにある――。『柔道部物語』『1・2の三四郎』他、名作のキャストが総出演!!十年前、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんにせめて見て貰う駒形のしがねぇ姿の土俵入りでござんす駒形茂兵衛、一世一代の土俵入り――。“横綱になる”夢を抱いて路傍を彷徨う駒形茂兵衛が、一人の酌婦に受けた、たった一つの恩義。たとえどんな先が待とうとも、受けた恩は返すが男。義理と人情に生きる男の物語。【巻末特典】漫画の原点となった長谷川伸の戯曲を収録。
前略 雲の上より

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意識高い系の今どきの若手社員・桐谷は強面課長の竹内と北海道出張に赴くことに。 初出張の桐谷は羽田空港で課長から様々なダメ出しを受ける。それは仕事上のことではなく、空港・飛行機に関する無知さに対して。そう、課長は飛行機と空港を愛するいわゆるオタクだった。 課長から飛行機・空港の魅力について徹底的に叩き込まれる桐谷。はたしてどんな成長を遂げるのか。
サトラレ

サトラレ

「サトラレにサトラレであることを気づかせてはいけない」――“サトラレ”とは正式名を「先天性R型脳梁(のうりょう)変性症」という謎の奇病によって、口に出さずとも自分の考えが周囲の人に“悟られ”てしまう不思議な能力の持ち主のコト。そして、例外なくあらゆる分野で天才的な功績を残すほどの才能を持つ彼らを、密(ひそ)かに保護するサトラレ対策委員会。これは、サトラレの青年・西山幸夫(にしやま・ゆきお)と彼を警護する小松洋子(こまつ・ようこ)、そして……その他大勢による少し不思議な物語。
いきものがたり

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可愛いいきもの、奇妙ないきもの、カッコイイいきもの、不思議ないきもの……。カモノハシから始まり、ウズラにイカにレッサーパンダ。さらには「味」「顔」「増殖」などテーマ別での話も含め、いきものにまつわる古今東西のエピソードを、ヒト科・松本ひで吉が語る! 読めば面白くてためになる! いきものたちに愛をこめて、私的に描いた「動物いいよね!」漫画、はじまりはじまり。
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プロチチ PROFESSIONAL FATHER

育児休暇明けで職場復帰する編集者である妻・徳田花歩(とくだ・かほ)。明るく元気な妻の代わりに0歳児の息子の世話を任された夫・徳田直(なお)は、ある事情から就職できず、男として自信を喪失していた――。息子と真正面から向き合い格闘する日々が始まり、直はこれまで感じた事のない『父親としての使命』に目覚めていく――。
K2

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かつて日本に不世出の天才と呼ばれた医師がいた。野獣の肉体に天才の頭脳。そして神業のメスを持つ男。だが、ある日をもって彼は忽然と姿を消した。男の名は「K」。全ては伝説となっていた。――富永研太は、西海大学から村の診療所に派遣された新米医師。無医村状態を救うため自ら志願して来たが、村人たちの態度は冷たく……!?Kの系譜は続いていた!長き沈黙を破り、神の業がここに復活!!医学漫画の金字塔!!
紫電改343

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敗戦の色濃い昭和十九年十一月、大日本帝国海軍大佐の源田実は「本土防衛の切り札」として規格外の構想を打ち立てる。それは各地のエースパイロットを集めた超精鋭部隊の設立。のちに伝説の航空部隊として名を馳せる「剣部隊」――第343海軍航空隊である。だが、部隊の指揮を任せようと考えていたスーパーエース・菅野直には、特攻の命令が下されていた…! 最強の343空にあって“撃墜王”の名で畏れられた男・菅野直を主人公に据え、勇猛無比な若きパイロットたちの魂を圧巻の筆致で描く!
誰も知らんがな

誰も知らんがな

『子供はわかってあげない』『水は海に向かって流れる』の田島列島氏も愛読! 『誰も寝てはならぬ』『大阪豆ゴハン』のサライネス最新刊。放蕩親父が遺してくれた資産価値ゼロの実家兼オンボロ旅館にバツイチ四十路の長女がUターン。そこへ流行りのIT企業に勤めるちゃっかりモノの次女とほとんど引きこもりの末っ子が再集結し、実家の旅館「晴天荘」を再オープンすることに。サライネス氏が大阪弁とゆる~い空気で贈る 姉×妹×弟で旅館始めてみました系 家族やり直し系コメディが開幕ですねん。