あらすじ

81歳、孤独な老人。46歳独身、介護職の女。27歳、特別養護老人ホームを「ある事情」でやめた青年。ぬぐい去れない痛みを抱えた3人の奇妙な恋が始まる――――。脚本家・小説家山田太一の小説『空也上人がいた』(朝日新聞出版)を、『THE WORLD IS MINE』『キーチ』の鬼才・新井英樹が漫画化!! 巻末に新井英樹×山田太一録りおろし対談を収録!!
空也上人がいた
81歳、孤独な老人。46歳独身、介護職の女。27歳、特別養護老人ホームを「ある事情」でやめた青年。ぬぐい去れない痛みを抱えた3人の奇妙な恋が始まる――――。脚本家・小説家山田太一の小説『空也上人がいた』(朝日新聞出版)を、『THE WORLD IS MINE』『キーチ』の鬼才・新井英樹が漫画化!! 巻末に新井英樹×山田太一録りおろし対談を収録!!
【極!合本シリーズ】ザ・ワールド・イズ・マイン オリジナル版

【極!合本シリーズ】ザ・ワールド・イズ・マイン オリジナル版

『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』など映像化作品も多い新井英樹先生の『ザ・ワールド・イズ・マイン オリジナル版』が極!合本シリーズに登場! 狂気の男・モンと彼に畏敬の念を抱く小心者の爆弾マニア・トシ。モンは人並みの倫理観も道徳観を持っていない。二人は東京都内の各所に消火器型爆弾を仕掛け、北上を開始した。一方同じ頃、東北各地で家畜や人間が惨殺される事件が発生していた。その犯人は北海道から本州に上陸した超巨大な熊、ヒグマドンだった。大きなチカラを持ったモンとトシ、そしてヒグマドン。両者は、それぞれに動き始め、ぶつかり合う…! ※単行本版『ザ・ワールド・イズ・マイン』1,2巻を収録
【極!合本シリーズ】宮本から君へ

【極!合本シリーズ】宮本から君へ

映像化もされた新井英樹先生の長編作品『宮本から君へ』が、ついに極!合本シリーズに登場! 宮本浩は文具メーカー「マルキタ」の新人営業マン。宮本は恋にも仕事にも不器用で、自分の存在の小ささに苛立ちながら、それでも前へ進もうとする。そんな日々を過ごしていると、宮本は通勤途中の電車のホームで、「トヨサン自動車」の受付嬢の甲田美沙子に出会う。新米サラリーマンのほろ苦くも厳しい日常をリアルに描ききった新井英樹の名作を、ご覧ください。※単行本版『宮本から君へ』1,2巻を収録
【極!合本シリーズ】キーチ!!&キーチVS[シリーズ完全版]

【極!合本シリーズ】キーチ!!&キーチVS[シリーズ完全版]

『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』など映像化作品も多い新井英樹先生の『キーチ!!』とその続編の『キーチVS』、シリーズ完全版として極!合本シリーズに登場! 『キーチ!!』(全9巻) 物語の主人公・キーチこと、染谷輝一。数奇な運命を辿る主人公の彼と彼を取り巻く人々の物語で。嵐のような3歳児がカッコいい人間の生き様をカッコよく自然体で生きていく。その愛された人生と、一転してどん底から這い上がっていくキーチの姿に魅了されてください! 『キーチVS』(全11巻) キーチの続編、キーチが世の中の理不尽や悪質な社会に対して牙を向いていく。その名の通りキーチVS! 腐りきった社会の中で、政治や権力に対抗していくキーチは、信念を貫きながら人生を推し進めていく! そして、衝撃のラストシーンへ… ※単行本版 『キーチ!!』1,2巻を収録
【極!合本シリーズ】シュガー&RIN[シリーズ完全版]

【極!合本シリーズ】シュガー&RIN[シリーズ完全版]

『宮本から君へ』『愛しのアイリーン』など映像化作品も多い新井英樹先生の『シュガー』とその続編の『RIN』、シリーズ完全版として極!合本シリーズに登場! 『シュガー』(全8巻) 主人公の石川凛は、人気者でやんちゃな16歳。北海道のとある小さな町で、母と祖父母に育てられた。彼は先のことも考えず、高校を中退し東京へ旅立ちの時を迎えつつあった。運動神経はかなり良いが、いったい何を考えてるかわからないともよく言われる彼は、今はまだ自分が何者になるかも知らないでいる。そう、将来ボクシングの歴史にその名を残すことになるとは…。『RIN』(全4巻) シュガーの続編。ボクシングに魅了された主人公の石川凛19歳になっていた。そして今、彼は自身初の世界タイトルマッチに挑むプロボクサーとなり、自身の持つの才能に露ほどの疑いを持たず、思ったことをそのまま口にすることも一切のためらいを持たない男だった。が、しかし世界はそれほど甘くない⁉ ※単行本版 『シュガー』1,2巻を収録
【極!合本シリーズ】愛しのアイリーン

【極!合本シリーズ】愛しのアイリーン

映像化もされた新井英樹先生の作品『愛しのアイリーン』がついに極!合本シリーズに登場! 主人公の宍戸岩男は年老いた両親を持ち、42歳でいまだ独身。同僚・愛子から誕生日プレゼントをもらったことをきっかけに、恋愛感情を抱くようになっていた。しかし、同僚から愛子は職場の男性複数と関係を持っていることを知らされてしまう。そんな愛子に、一縷の望みをかけて告白したが、岩男は振られてしまい、自暴自棄になる。そして、かねて社長から聞かされていた国際結婚斡旋業者を訪問するのだった。※単行本版『愛しのアイリーン』1.2巻を収録
愛しのアイリーン

愛しのアイリーン

過疎化の進む排他的な村で過保護な母と痴呆のすすむ父と暮らす岩男。フィリピン人女性のアイリーンは、本来願っていたであろう将来を捨てて岩男と結婚するも岩男との関係は痛々しく変化していく――。人との関わりが苦手な岩男は、すべてを内側に溜め込み挙げ句、極めて不器用な形で爆発させる。穏やかな日常がふとした瞬間に崩れ落ち人間の業が露になる。最後に残るのは破滅か…それとも愛か……。欺瞞に満ちた現実社会と誠実に向き合い本質を問う究極のラブストーリー!!■目次■1 岩男2 白状3 咆哮4 ツル5 飛翔6 熱海7 フィリピン
キーチ!!

キーチ!!

知る人ぞ知る問題児キーチこと染谷輝一3歳キーチの感情は複雑で誤解されやすいが両親はそんなキーチをこよなく愛している。ある日突然、キーチの目の前で両親が通り魔に襲われる。突然両親を失いキーチは初めて涙を流すのであった……。キーチは三日三晩寝ることをせず、次の三日三晩を眠り続けそして次の三日三晩は喉がつぶれるほど泣きつづけた。数奇な運命を辿るキーチは、誰と出会いどんな人生を歩むのか――。※第1~9話を収録
キーチVS

キーチVS

『キーチ!!』続編にあたる本作は、国会議事堂前占拠事件から10年後、大人になった染谷輝一の物語である。染谷輝一と甲斐慶一郎はNPO法人「キーチズ・カンパニー」を設立し、「真っ当でいろ」を掲げ日々援助活動に勤しんでいた。カリスマ性を持ち合わせ圧倒的な人気を誇る輝一の影響力は時の総理大臣をも凌ぐほどだった。一方、政治・経済・法律などの英才教育を受けた甲斐慶一郎は「キーチズ・カンパニー」の事務方を率い、輝一の政界進出を目指していた。だが…二人の間に軋轢が生じ、輝一は「キーチズ・カンパニー」と袂を分かつことになる。やがて輝一は社会を震撼させる事件を起こす――。※第1~8話を収録
ザ・ワールド・イズ・マイン オリジナル版

ザ・ワールド・イズ・マイン オリジナル版

狂気を纏い本能の赴くままに暴力へと走る男・モン。そして爆弾作りが趣味の孤独な少年・トシ。彼らの行く道は破壊なくして語れないバイオレンスロード。わずか7日間でトシモンの被害者は96名に及ぶ。同時期に北の海から本州に上陸した謎の巨大生物ヒグマドン。多数の犠牲者をだし破壊の限りを尽くす。この二つの狂気が交差する時におこるカタルシス――――凡人には理解しがたいストーリー展開に思わず息を呑み、読む者に強烈なインパクトを与え、そして忘れられない作品になるだろう。■目次■01 ばくだん02 パワーボム03 羆04 そこのけ そこのけ05 石コロ06 オニ07 王様とマリア08 天と地
SUGAR(シュガー)

SUGAR(シュガー)

破天荒だが人気者・石川凜、16歳。人は彼を「天才」という。高校を中退し板前を目指し上京するもボクシングに出会い圧倒的才能を開花させていく。凜と出会った者たちは瞬間的に類まれなその才能に気づく――。動体視力、反射神経、凜はボクサーになるべく能力を持ち合わせていた。ひとりの天才少年がプロボクサーへの道をひたすらに突き進む物語の幕が開ける――。■目次■第1発 「初めまして!」第2発 「ま、いんでないかい」第3発 「欣二さんです」第4発 「スローハンドと呼ばれたそうっス」第5発 「発射後、汚れなき頃の話でもひとつ」第6発 「特訓“レイラの穴”・・・・ゆるくねー」第7発 「ちょっといいかも」
岸辺のアルバム

岸辺のアルバム

誰もがうらやむ川べりの一戸建てに暮らす田島(たじま)家。何不自由なく平和に暮らしていたが、ある日、日常は、もろくも崩れ始めた。人生初の不倫にはまっていく妻・則子(のりこ)。会社の不祥事で神経をすりへらす夫・謙作(けんさく)。家族に無関心を装う長女・律子(りつこ)……。誰もが自分のことしか考えていないことに気づく長男・繁(しげる)は、母の不倫現場を目撃して!?’70代伝説のドラマが現代版コミックに蘇る!!
空也上人がいた
現代社会への絶望の最果て。あなたの最大の後悔は何ですか?『空也上人がいた』
空也上人がいた 新井英樹 山田太一
兎来栄寿
兎来栄寿
何たることでしょうか。
新井英樹先生が絶望しておられる……! 新井英樹という作家は、「漫画で、俺のペン一つで、世の中を変えてやる!」という気概が紙面から迸っている、極めて稀少な描き手です。その卓抜した筆勢は、『キーチ!!』やその続編『キーチVS』、『ザ・ワールド・イズ・マイン』、『SCATTER』などを是非読んで頂きたい所です。 いずれも圧倒的な作品であり、今世紀で好きなマンガを十作品選ぶなら、『ザ・ワールド・イズ・マイン』と『キーチVS』の二つ新井英樹先生の作品は入ります。必然的に私の中で新井英樹先生は現代でも最も注目度の高い作家となっています。 その新井英樹先生の最新作が、山田太一先生の小説を原作とするこの『空也上人がいた』です。この単行本を手にとって、私は大きな驚愕に包まれました。
最初のページを捲ると、何と上記の作品群を引用しながら9・11や3・11を経た世界への絶望に暮れる新井英樹先生自身がプロローグとして描かれているではありませんか! > 狂気が世の中への「反撃(カウンター)」として存在できたのはまだ世の中が少しは正常と思えたからで、今の狂気の世の中に喰らわす「反撃」を捜すと倫理、道> 徳ぐらいしかない!!
> そう…思ってたんですけどねえ。本気で。あったまわるいから。
> 「世のため」なんて旗ふったつもりで、期待しすぎてこのザマですよ。
> 絶望っ だね 絶望…
> 別に使命感とかじゃなくなんか嫌で嫌で…
> オレなんかよりずっと売れて影響力ある人が描いてくれてりゃって思ってたんだけどね
> 「ファンタジーなんて描いてる場合じゃない」ってアニメの巨匠だって言ってるじゃん
> グローバリズム コーポラティズム カネカネカネ
> 世界は金持ったキ●ガイと飼われたいブタだけ
> そうだよオレあれもこれも全部嫌いだよ
> 世界なんか滅べ!! もう知るか!! あんなに政治家の汚職を、検察の腐敗を、大企業の卑劣を、米国への従属を、クロスオーナーシップを、新聞特殊指定を、ありとあらゆるタブーを恐れず踏み込んで批判して来た新井英樹先生が! 文字通り、大切な「云」うべく敢えて「鬼」と化して絶大な魂を紙面に落とし込んで来た新井英樹先生が! 怒ることを忘れた日本人に喝を入れ、怒りを思い出させようとして来た新井英樹先生が! こともあろうに、あまりにも深い諦観に駆られている……!  現代社会における良心、希望の篝火のような存在が、遂にこの世の巨悪と狂気、弱さと同調圧力の奔流に屈してしまう時が訪れてしまったのか……そんな悲しいことはありませんでした。
大多数の人が見て見ぬ振りをしてやり過ごすことを処世術とする中で、自らへの不利益を省みなずに声を上げる勇猛さ。真っ当であれ、という極めて純度の高いメッセージ。それらが全て敗北してしまったとなると、私自身も絶望の深淵に沈まざるを得ません。 しかし、そんな魂を賭した長きに亘る闘いの果てに至った絶望、その先に描かれた本書もまた圧倒的に素晴らしかったのです。 **介護に携わる若者、キレる** 今作は、タイトルだけ聞くと歴史物のような印象を受けるかもしれませんが、現代社会の問題を描いた一冊完結の現代モノです。 特別養護老人ホームで働いていた27歳のヘルパー青年・草介は、毎晩叫び狂う老婆に対しある日キレて車椅子から突き落としてしまいます。そして、その6日後にその老婆は死亡。自責の念に駆られ職場を辞めた草介は、同僚の46歳ケアマネージャーから紹介された81歳の独居老人の在宅介護を始める、というのが今作冒頭の筋書きです。スーパーのレジ打ち並の収入で280円の牛丼を食べながら、人の命を預かる過酷な仕事、金持ちの老人の世話を行う若者像というのは、現代社会の様々な物の象徴です。 2014年現在、介護職員は150万人。少子高齢化社会の日本では、2025年までには職員数が250万人必要、つまり100万人の介護職員を増やさねばならない、という試算もあります。しかし、激務であり責任も重大な仕事内容でありながらも、その待遇は恵まれているとは言い難い状況です。一刻も早くこの現状を打破せねばならない、。現場で働く末端の介護職員の給与を増やし、負担を減じる方向に持って行かねばならない、ということは多くの人が痛感しながらも、決定的な方策を打つことができていない状況です。一方で、お金を持った老人相手のビジネスとして介護を認識し、食い物にして巨利を得る悪質な輩も跋扈しており、闇は深いです。 介護の大変さは、私も多少解ります。私自身、祖父の介護を数年にわたって行っていました。祖父は、私がこの世で一番尊敬する人物でした。聡明で、物腰が柔らかく何があっても決して怒らず、優しく諭してくれる人でした。70歳を超えても毎日二時間の散歩と運動を欠かさず、自炊によりバランスの取れた食事で健康を保ち、そしてあらゆる物事への好奇心が旺盛でした。触ったこともないTVゲームにも付き合ってくれて「何事も経験。何でも積極的にやってみること」と幾度となく教えられたことも、私の中で血肉となっています。 しかし、そんな祖父も認知症を患ってしまうと、深遠な知識も高潔な人格も、全てを失って行きました。下の世話などはまだ全然良いのです。それより何よりも、話をしても何をしても意思を通わせることができない虚無感・絶望感というのは凄まじいものです。その中で生じる負の感情に、介護をしている自分の不寛容さを曝け出され突き付けられることも伴って、自分自身も精神を苛まれ、蝕まれ、病んで行きます。悪意が無いと解ってはいても、繰り返される様々な蛮行に、苛立ちや憎しみすら抱く瞬間が全く無かったと言い切るのは難しい程です。生涯で最も尊敬する人物をしてこんな感情を抱いてしまうのですから、赤の他人である老人の介護をしている方々の心的ストレスはいかばかりかと思ってしまいます。 作中で、女性ケアマネージャーが > 介護やってれば気持じゃ何百遍もほうり出してるよ。 と語る通りでしょう。 日々、心身を傷付け抉られながら、一方で命を預かっているという緊張感。その状態が何年、何十年と続くのか全く先の見えない状態。その抑圧を、原作者の山田太一先生は「キレないはずがないというのもちょっとひどい言い方だけれども、キレても不思議はない」と実際の取材で感じた体験を元に、この作品を著したそうです。今後の社会で重要なテーマであるにも関わらず、こういったことを描いてくれている作品は寡少なので、私はよくぞ描いてくれたものだと思います。 「後悔」と「他者の眼差し」 今作はノンフィクションの介護小説としてでなく、老人が後悔に苛まれる傷付いた青年を救う物語として描かれたことで、介護というテーマは勿論ですが、それに留まらない普遍性を獲得しています。その軸となっているのは、「後悔」。きっと、誰しも人生の中での最大の後悔というものがあるはずです。その後悔と、人はどう付き合い、どう向き合っていけば良いのか……。 主人公の27歳の草介は、おばあさんを一時の激情に駆られ、それが原因かどうかははっきりとは判らないものの、人を死に至らしめてしまったという罪悪感に囚われます。一方で、彼が出会う81歳の老人もまた、長い人生の中にある一つの大きなわだかまりを抱いています。 そこで、一つの象徴として登場するのが、タイトルとなっている空也上人です。踊り念仏や六斎念仏の始祖であり、疫病で多くの死体がその辺りに転がっている時代の中で、様々な公共事業に勤しんだ聖人。その空也上人の立像というのは、他の多くの彫刻や仏像と違い、顎を上げかすかな声で「南無阿弥陀仏」を唱えながら、前を見て歩いている。それは、罪を許してくれるのではなく、同じようにへこたれて共に歩んでくれるものなのだ、と。 そのようにして、自身が大きな感銘を受けた空也上人立像を、老人は青年に見せようとします。そして、六波羅蜜寺で青年が空也上人立像と対面した時の描写は、小説版でも漫画版でも一つのクライマックスとなっており、必見です。その眼差しは、草介を通して読者をも刺し貫いてきます。 思うに、この世界で生きる際に「他者からの眼差しに晒されている」という意識があるのとないのとでは全く違う次元に存在するようなものです。それは、世界の多くの国々では宗教と呼ばれるものでもあります。日本人は宗教性は薄い民族ではありますが、「お天道様が見ている」とか、「壁に耳あり障子に目あり」といった言葉にそういった精神性は散見されます。 誰も見ていないからといって、不善をなす。多くの人は経験していることでしょう。しかし、その犯した罪は消えることはありません。何らかの他者性を内在させることでその罪の芽をあらかじめ摘み取ることができるなら、それは現実的に推奨されるアティテュードなのではないでしょうか。眼差しを投げかけ、共に歩んでくれる、あなたの「空也上人」を。 そうして生きて行った先には、予想もしなかった新しい展開が開け、そこは想像もできない心地良い場所になっているのかもしれません。そんなことを思わせてくれる物語です。ラストは、表紙を一見した時のような何とも言えない優しさに彩られています。 ある意味で、これはドストエフスキー『罪と罰』の現代日本版であり、一つの返歌と言える作品かもしれません。 **結び** モンやキーチのような圧倒的カリスマは、この物語には出て来ません。ここには普通の人の、普通の現代社会の生活の中での有り触れた想いがあるのみです。しかし、それが静かに深く胸の奥底を叩き、貫いて行きます。それは言うなれば高級料亭で食べるシメの雑炊のように。見た目は地味でありながらも、それまでのあらゆる豊潤な食材のエキスを吸収して生み出される余りにも豊かな旨味に溢れていたのです。山田太一先生の原作に忠実でありながらも、確かに新井英樹作品としての生命の鼓動を感じます。私の中では今年の作品の中でも確実にベスト10に入ります。 今作の巻末に収録された、原作者山田太一先生と新井英樹先生の一万字対談には、こんな注釈もありました。 
> 『キーチVS』については、漫画に主義や思想はいらないというご批判を多々受けました。そんなこと言ってるから、漫画は3・11や原発で、映画や小説の後塵を拝したじゃないか。 この一文に込められた気概に、私は喝采を送りたいです。
今作を描くに至った新井先生が、現在とんでもないことになっている『SCATTER』をどう着地させるのか。そして、その次は一体どんな作品を生み出すのか。今後も新井英樹先生の漫画表現による社会・世界との鬩ぎ合いを、心から応援していきます。