あらすじ
シュールでリリカルでミラクルな5作品を集めた、オンリーワン作家梅サトのよみきり集! 収録作:「ユカリさんはクローン」自分と同じの姿の人間が増殖し続ける。悩むユカリに言葉をかけてくれたのは…? 「放課後の最後の晩餐」美術教師の暴走で絵画「最後の晩餐」の再現コスプレをすることになった生徒12人!? 「妖精裁判」妖精を捕らえた罪を問われる父を持つ伊東。妖精好きの同級生・小林が訪ねてきて? 「アンコンシャスワールド」美大浪人を続ける先輩・裕一を慕う夏目。ある日、先輩が失踪してしまい…!? 「最後の人形」故人の副葬品専門の人形屋シロウ。彼には妻・ヨウコに隠している秘密があり…?
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『緑の罪代』や『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』など秀作を次々と送り出してくださっている梅サトさんの短編集です。 表題作の「ユカリさんはクローン」は、人口の1/3がクローンで占められるようになり自分と同じ顔の人が様々な場所で違うことをして活躍している世界を描いたお話。すこしふしぎ感のあるSFで、「複製された私たち」というモノローグにアイデンティティについて考えさせられました。 「放課後の最後の晩餐」は、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画の中の使徒たちを絵画の通りに演じてみてその気持ちに迫るという授業を描いたお話。見るだけなのと実際にやってみるのには大きな隔たりがあるのはすごく解ります。物語を普通に読むのと、人に聞かせる朗読をするために読み込むのとでは全く解像度が違うように。 「妖精裁判」や「アンコンシャスワールド」では、それぞれ1ページ丸々使った決めのページが印象に残りました。 5つ目の「最期の人形」も含めて、5篇に通底したテーマを感じさせてくれますが、そこには敢えて触れません。実際に読んで確かめてもらえればと思います。 シリアスな雰囲気の作品がメインではあるものの、肩の力を抜いて自然体でいるような軽やかさがある短編集です。過去作と同様の梅サトさん作品の良さが味わえます。 あとがきでは作者の梅サトさんがどうして梅が好きなのかが語られていますが、まさに梅が綺麗に咲き始める時期、冬が終わり雪の下から草花が芽吹くような春の訪れを少しずつ感じるこれからの季節に読むと良い塩梅な一冊だと感じました。