高校生の花井チカは同級生の君嶋に告白され、付き合うことになる。 しかし実は彼女は、人に対して"恋愛感情"というものを持ったことがなく、仲の良かった君嶋に対してもその"一線"を超えることができず、結果的に別れることになってしまう。 その後、大学の心理学部に進学した彼女は、ある教授との出会いから"恋愛感情"がわからない自分自身がどういう存在なのかを見つめ直し始める、という物語。 「恋愛感情がわからない」という説明で気付く人もいるかもしれないが、この作品はいわゆる「アセクシャル」をテーマとして暑かった作品。 しかし、主人公のチカが「アセクシャル」なのかと聞かれると、すぐには首肯できない作品でもある。 作中でも「アセクシャル(無性愛者)」とは「性別を問わず他社に対する性的な欲求を持たず、関心や欲求を抱かない人」という説明があり、チカも自身がこの説明と合致するという印象を抱いている。 しかし、チカは「自分がアセクシャルなのかどうか」という過程を通り、さらにその先の「自分がどういう人間なのか」という部分にまで考えを巡らせるようになる。 セクシャルマイノリティを扱う作品では、それぞれの"定義"というものが存在しているがためにその"定義"に沿った人物像という形で描かれやすく、実はそれは「男らしさ」「女らしさ」のような、本来セクシャルマイノリティとは対局に位置するはずの考え方に近づいてしまっているのかもしれない。 この作品では、登場人物が自らをセクシャルマイノリティという定義の枠組みに当て嵌めていくのではなく、定義を知ることで逆に自身がどういうアイデンティティを持っているのかを丁寧に因数分解して見つめ直すという過程が描かれていて、"定義"よりも"個"としての存在を大切に描いているような印象を受ける。 『性別X』などのエッセイマンガでは"定義"を説明しながらその定義に当て嵌まらない人も実際にはいるという説明が著者の実体験に沿う形で描かれることも多いが、もしかしたらこの作品はそういう意味でリアルに近い形でフィクションとしてキャラクターの成長の過程を描いている稀有な作品なのかもしれない。
sogor25
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