私的漫画世界|漆原友紀|水域
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漆原友紀は山口県出身であり,複数のペンネームの作品があります。高校時代か大学入学後かは不明ですが,「ぶ~け」に「吉山友紀」の名前で投稿を始めており,その後,「志摩冬青」の名前で「ファンロード」で複数の短篇を発表しています。この時期の作品は短編集「バイオ・ルミネッセンス(1997年」に収録されています。これが実質的な商業誌デビューとなります。
大学中退後に「漆原友紀」の名前で投稿した「蟲師」が1998年にアフタヌーン四季賞の四季大賞を受賞し,(漆原友紀として)商業誌デビューをしています。このとき彼女は23-24歳です。
「蟲師」の原形は「ファンロード」時代の作品に含まれており,そこでは「虫師」となっています。登場人物は異なりますが,「古来,虫に関する驚異的知識をもち,ヒトと虫との間のトラブルを解いて歩く異能の生物学者の集団であります」と虫師を解説しています。
当初の概念は昆虫に近いものを想定していたようですが,「蟲師」では「動物でも植物でもない原初の生命体,時にヒトに影響を及ぼし奇妙な現象を招く」と説明しています。やはり,昆虫では人間に及ぼす影響が限定的となりますので,定義の難しい不思議な生命体とした方が物語の幅と奥行きがずっと広がります。
一時的な中断を挟んで 1999年-2008年に描かれた「蟲師」は漆原友紀の代表作となり,アニメ化,実写映画化されています。漆原友紀を取り上げるなら「蟲師」は外せないところですが,個人的には超常の力が支配する怪奇譚にはほとんど食指が動きません。その代役として「水域」を取り上げることにしました。
漆原友紀の作品世界はファンタジーや民話の世界に近いものであり,「蟲師」も万能の呪文や過剰な物語性はありませんので,そのうち手を出すようになるという予感もあります。