私的漫画世界|魚戸おさむ|家栽の人
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作品名は「家栽の人」となっています。文字に注目して下さい。主人公の桑田判事は家庭裁判所の裁判官という設定になっています。となると作品名は「家裁の人」となるはずですが,裁判所の「裁」ではなく,栽培の「栽」が使用されています。
この文字違いの中に作品の性格が表れています。主人公の桑田判事は植物が大好きで自分でも育てるかたわら,職場である裁判所の敷地内の庭でも草花を育てています。また,近所の庭にある植物を網羅した手製の植物マップも作っています。この植物好きの主人公から「家栽の人」というタイトルが生まれたと考えられますが,もう少し深い意味があるのかもしれません。
家庭裁判所では多くの事案が扱われますが,物語の中では少年事件が主として取り上げられています。家庭裁判所では事件を起こした少年に対して必要により審判を行います。それは少年の犯した罪に対して見合う処置が決められます。もちろん少年の更生は考慮されているはずですが,主体はあくまでも処置ということになります。
しかし,桑田判事の判断基準は「どうしたら少年が立ち直ることができるか」という一点に凝縮されています。裁判官という立場で少年のために何ができるかということに知恵を絞り,周囲の人たちを動かしていく桑田判事の姿勢に対して,少年たちを育てているという意味を重ねて「栽」の字があてられている気がします。