『けむたい姉とずるい妹』、『かけおちガール』など今をときめくばったんさんの新作です。 よく「男はフォルダ保存、女は上書き保存」などと言われますが、それも当たり前の話ですが人によって千差万別。 この物語は、上書き保存できない女たちが主人公です。 共に男に逃げられたことを共通点として居酒屋で知り合った、半世紀分の年齢差があるトラさんと妙子。奇妙な縁で結ばれたふたりは、お互いに新たな相手を見つけようと頑張ってみるものの、どうしても心の中に忘れられない相手がいる。そんな様子が、ばったんさんらしい豊かな情緒で綴られていきます。 普段はクールで押しに弱い性格であるものの、トラさんに対してはそのときの状況もあって強い口調で忌憚なしに言いたいことを言い、それも功を奏して不思議と気の置けない関係となった妙子。 トラさんも、自宅に呼んでコーディネートをお願いするくらい妙子のことを気に入っているのが良いです。普段、家では猫くらいしかいない孤独な暮らしをしているであろうトラさんにとって、妙子と憎まれ口を叩き合う時間がどれだけ眩いものであるか。 人生の先達としてのトラさんの言葉も、含蓄に富んでいます。 ″いいか悪いかなんて自分で決めな″ ″自分で決めたことけなすんじゃないよ″ という節などは、特に好きなところです。自分の選択に自信を持ち美学を大事にして生きるトラさん、本当にカッコいい。飲み屋で管を巻くのはともかくとして、老いてもこういう風でありたいと思える人物像です。 そんな彼女たちのそれぞれの道は、関係性はどうなっていくのか。見逃せない物語です。
これの前作は微妙だったけど試し読みした「アンテロースの恋人」が良かったので購入。 節ばって爪が分厚くなった老婆の指の描き方がとても好き。
あとがきで作者に「楽しんでいただけましたでしょうか」と問われて「これはそもそも、楽しむものなのか…」と考えてしまう。 というよりはこの作品は、重い物を「突きつけられる」のを好む人向けだろう。キャラのポジティブな魅力や尊い関係性といった楽しみの代わりに、人間が皆持つ駄目さ・面倒さを「突きつけ」て物語に誘引する。 自分の物を全て……挙句は男さえも奪ってゆく妹に、嫉妬する姉。母の遺した一軒家だけは死守しようとする姉を最初は応援したくなるが、すぐに見方は変わる。妹の言い分、姉の恨みの執拗さ。さらに妹のパートナー・元彼に接近する姉。 よく見ると、姉も妹も自分の主張ばかりで、お互いの思考に考えを巡らす事は一度たりとて無い。よく学校で言われた「相手の立場になって」という教訓は、二人には全く活かされない。そしてその姿は、かつての・そしてこれからも変わらない、私の姿だ。 私は今後もこの作品を読みながら、争いを止めない身勝手な人の性を見続ける事になるだろう。それを追っていった先に、彼女達が変化する事はあるのか?変われないまま壊滅的な破局を迎えるのか?いずれにせよ、この酷い姉妹関係の結末が気になって仕方がない。 タバコの煙、靡くリボンで覆われた画面に幻惑されながら、面倒臭い人のための私小説を読む様に、次巻も読むのを止められそうもない。
※ネタバレを含むクチコミです。
今日子サン、ミステリアスな謎の美女。 それに振り回される2人の姉妹。 ではないんだよ、たまらんよ。
ばったん先生の漫画はまっすぐだと思う。 でもド直球!みたいなのではなくて、なんというか人間味のあるまっすぐというか。 主人公・ヒロインに感情移入しやすい私には、本作はものすごく嫌なモブがいてものすごく嫌な展開で、読んでいるとお腹の中をグネグネした黒いものが渦巻いてしまう作品。 ヒロインの無垢さ(と思わせる表現も含めて)が肋骨のど真ん中あたりに深々と刺さってくる。 いつも読んですごく良くて、短編とか大好きなのにコレは「早く解決してほしい」とばかり思ってしまう。 見事に手のひらで転がされてしまっている。 見事な作品なのは間違いない。
『姉の友人』で一躍名を馳せたばったんさんの名作『かけおちガール』が、この度めでたく紙の書籍として発売されました。元々は電子雑誌となった『ハツキス』に掲載されていた作品で電子でしか読めなかったのですが、この機会に紙派の方にも読んでみて欲しい逸品です。 この作品に留まりませんが、ばったんさんの作品に登場するキャラクターは現実の人生で出会う人々のようなリアルさ・肉感があり、その営みに胸を刺されます。 本作では女子校時代に付き合っていたももとみどりを主軸に物語が描かれるのですが、自分の想いをあっさりと無碍にしたみどりに対する愛憎、そしてももからは見えなかったみどりが秘める真実など、現実に起こり得る当事者にしか解らない感情の発露や蓄積が極めて巧みに描かれます。 他者から見ると苛立つほど幸せに見えても、実は誰よりも暗い孤独の澱に沈んでいた……そんなことはままあるのが世界の現実です。 女性と女性という関係性といえばそうですし、女性が描く女性ならではのセンシティブなシーンも描かれるのですが、それ以上に人間と人間による深遠で切実なドラマには男女問わず没入してしまうことでしょう。 結局、絶望をもたらすのも希望を与えてくれるのも、人間なんですよね。嗚呼。
女性を書くのうまい作家の一人ですよね、ばったんさん。 学生とか年頃の女性のモヤモヤを漫画にするのがうまい… 離別の悲しさ、恋する気持ち、友人との付き合い方、題材としてはあるあるなのに二つとないストーリーが出来上がってる気がします。 悲しいストーリーを描くときもちゃんと寄り添うキャラクターが現れて、我慢してた気持ちが溢れるように泣くところが好きです。
総勢23人もの漫画家先生たちが、 肉に関する思いや思い出や思い込みなどを かなり自由にエッセイ的に描いていらっしゃる。 さすがに肉を嫌いという人は少ないし、 肉と言えばエネルギーの塊だし、 マンガ連載という激務をこなしている先生方は それぞれに肉を味わうことで英気を養って 仕事を頑張っている方が多いみたい。 それでも各先生ごとに結構な個性の違いがあり、 谷口奈津子先生と宇野ユキアキ先生は それぞれに「生肉」の持つ魔性的な魅力について 描かれていますが話の内容はかなり違う。 大井昌和先生と横田卓馬先生はともに 「編集さんにご馳走してもらった初の高級しゃぶしゃぶ」 について描かれていますが、感想は正反対。 棚橋なもしろ先生は肉食女子会エピソードをもとにして いかに肉が下衆トークの醍醐味を増すかについて語り、 大島千春先生は肉を煮込むことで心がいかに安らぐか を描いています。 こうした各先生のエピソードを読むと、 普通の書評を読むよりも、もっとよりわかりやすく 「ああ、この先生は多分こういうマンガを描いているのだろうな」 と、わかったような気になります。 大島千春先生の「いぶり暮らし」は読んだことがあるので 「いぶり暮らしの作者の先生らしい肉マンガだなあ」 と思いましたし。 こういうエッセイ漫画集って、 今まで知らなかった漫画や先生を知るいい本かもしれませんね。 読んでみて、自分と肉の好き嫌いや拘りが似ている先生とか、 先生の名前や代表作の名前は知っているけれども 読んだことは無かった、という先生に興味を覚えて その先生の作品を読んでみる気になる人も 多いのではないでしょうか? 最初から、そういうPR的な効果を狙ったエッセイ集なのかな? 私も棚橋先生の回を読んで、 「この先生の漫画って思っていたより下衆くて面白いかもな」 と興味を持ちました。 色々と違っていたらスミマセン(笑)
『けむたい姉とずるい妹』、『かけおちガール』など今をときめくばったんさんの新作です。 よく「男はフォルダ保存、女は上書き保存」などと言われますが、それも当たり前の話ですが人によって千差万別。 この物語は、上書き保存できない女たちが主人公です。 共に男に逃げられたことを共通点として居酒屋で知り合った、半世紀分の年齢差があるトラさんと妙子。奇妙な縁で結ばれたふたりは、お互いに新たな相手を見つけようと頑張ってみるものの、どうしても心の中に忘れられない相手がいる。そんな様子が、ばったんさんらしい豊かな情緒で綴られていきます。 普段はクールで押しに弱い性格であるものの、トラさんに対してはそのときの状況もあって強い口調で忌憚なしに言いたいことを言い、それも功を奏して不思議と気の置けない関係となった妙子。 トラさんも、自宅に呼んでコーディネートをお願いするくらい妙子のことを気に入っているのが良いです。普段、家では猫くらいしかいない孤独な暮らしをしているであろうトラさんにとって、妙子と憎まれ口を叩き合う時間がどれだけ眩いものであるか。 人生の先達としてのトラさんの言葉も、含蓄に富んでいます。 ″いいか悪いかなんて自分で決めな″ ″自分で決めたことけなすんじゃないよ″ という節などは、特に好きなところです。自分の選択に自信を持ち美学を大事にして生きるトラさん、本当にカッコいい。飲み屋で管を巻くのはともかくとして、老いてもこういう風でありたいと思える人物像です。 そんな彼女たちのそれぞれの道は、関係性はどうなっていくのか。見逃せない物語です。