抽象性とエンパワメントの難しいバランス
トランスジェンダーである主人公の苦痛をつげ義春のパロディという形で描くという発想は冴えている。奇想と倫理観の同居した独特な作風はまさに岡田索雲の面目躍如といったところ トランスジェンダー当事者への理解が深まる一方で、バックラッシュ(反動)として台頭した醜悪なトランスヘイトへの対抗言論・エンパワメントとしては非常によくできているのだけれど、しかし、漫画として抽象的すぎというか、ちょっとついていけない部分が読後、どうしても残ってしまった 言ってることはけして間違ってないんだけどなんか腑に落ちないというか 重ねて言うが、トランスジェンダー当事者にとっては本当に勇気づけられる作品だと思う しかし、ストーリー面の抽象度があまりに高く残念ながら「面白い」という感想を持つには至れなかった。 ポリティカルコレクトネスの浸透のなかで、漫画を含むエンターテイメントでも正しさと面白さの両立というテーゼが近年よく取り組まれるようになった。 まさに、その難しさを示す作品かもしれない
トランスジェンダー女性が社会から受けている偏見や圧力を、つげ義春の「ねじ式」の世界観で描いた意欲作です。岡田索雲の一連の社会派漫画と同じく切れ味の鋭いものになっていますが、それらに比べて読みやすさを感じるのはつげ義春のパロディとして秀逸だからだと思いました。物語のラストで小型飛行機に乗った主人公であるトランス女性が「しびれるような世界が待っている」と言いながら今にも突っ込んでいきそうに国会議事堂の真上を飛んでいて、読後すぐには過激な印象を受けましたが感想をまとめるにつれて、これは主人公は無能の人ではないという抽象的なメッセージなのだという解釈に至りました。