セボンスターはいつだって欲しい
偶然会った可愛い女の子をひたすら眺めるサラリーマンってどうなんだ???って思ったけど、そういうんじゃないんですね。 女性的な記号としての“可愛い”ではなく、ポップな色合いのお菓子屋さんとかキラキラしたアクセサリー屋さんとかアニメやファッション誌を眺めるような感覚の“可愛い”がありました。 最新の可愛いばかりではなく、ミルキーペンとかスイマーとかセボンスターとかある一定の世代を完全に仕留めにかかってます。 今では性別なんて関係なく可愛いものは可愛いと言っていい空気がありますが(当たり前すぎる)、つい数十年前まではそんなことなかったので亀山さんが“可愛い”に憧れる気持ちはわかる気がします。 ふわふわの動物や甘いお菓子に心癒されるのは男女関係ないのにね。 とりあえず最新のセボンスターを買いに行きたくなりました。
「俺も君の様な、ミルボンが似合う女の子に生まれたかったです」
がTwitterで公開された際に10万いいね以上の特大バズを生み、その後も最新話を掲載するたびにバズっている人気作品の待望の単行本が発売となりました。
タイトルと表紙だけ見ると「ヤバそうなストーカー男の話かな?」と勘違いされかねませんが、中身を読むとアラサー~アラフォー女子のノスタルジーやシンパシーをさまざまな角度から刺激する、優しい世界のコメディとなっています。
水道橋の出版社に勤め日々の激務でボロボロになり枕からは酢飯の、手からはネギの臭いがしてきたダウナーな37歳の青年・亀山は、駅でいつも出会う女子高生の持つさまざまなアイテムやその使いこなし・着こなしに多大なエネルギーを貰い内心でテンションを爆上げしながら生きています。
セボンスター、キャンメイク、リップモンスター、365日のバースデーテディ、プチコロン、ハイブリッドミルキー、フェリナンダのマリアリゲル、ビジュー付きのあみあみの靴、リプトンのミルクティー、プロフィール帳、プリクラを撮る際のアヒル口あごピースやテーブルに鎖で繋がれたハサミetc...
「あったあった」「なつい~!」となること請け合いのネタが1話8ページ構成でテンポよくたくさん繰り出されます。作中では亀山は「自分はバトルえんぴつだった」という述懐がありますが、まさに男の子にとってのバトルえんぴつやベイブレードや遊戯王・ポケモンカード・デュエマやミニ四駆やハイパーヨーヨーやエスパークスやドラゴンの裁縫道具セットや修学旅行で買った木刀のようなものが詰まっている作品です。
個人的には特にゴスロリの話で登場する伏せ字のブランド名が大体解ってしまい、強い郷愁に駆られました。あのころ目黒や橋にいた方々は今もお元気でしょうか。
「かわいい女の子が昭和~平成の男性向けのちょっと懐かしいものにやたら詳しい」という建付けはたまに見ますが、この「おじさんが昭和~平成の女性向けのちょっと懐かしいものにやたら詳しい」というのはなかなか珍しく新鮮です。
何しろ、アラフォーのおじさんがそんな女児文化やメイク用品に詳しくても何か工夫しないとちょっと変な感じになってしまいます。普通は。しかし、本作における亀山は熱量こそ爆高いですが微塵も嫌な感じはしません。そこが良いんですね。生まれ育った性別が男だっただけで、女の子向けのカワイイ文化・カワイイを作る心意気が心底好きで憧れを抱く女の子の心も持ち合わせている100%無害な存在。何なら、現代社会において仕事で疲弊しながらも、そうしたものを心の支えに生きているというところは応援すらしたくなるキャラです。
私自身も、男性でありながら昔からかわいいものが大好きで高校生の時もミッフィーグッズを愛用してクラスメイトにバカにされて生きてきたので、多少なりとも共感します。かわいいもので自分がアガればそれでいい、という今では当たり前の価値観も本作ではナチュラルながら力強く提示してくれるのもいいです。
そして、本作の最大の特徴は亀山が知らないかわいい女子高生の秘密。非常に現代的な設定に加え、そこを取り巻く周囲のキャラクターたちのありようも非常に令和的で良さが溢れています。いつか亀山は真実を知る日が来るのでしょうか。
さかなこうじさんの美しい絵も、間違いなく本作の魅力を形成しています。しかし、どうやってこれだけ解像度の高いあるあるネタをコンスタントに出しているのかちょっと気になります。