ゆうしゃかたすとろふ
あらすじ
暗黒の時代。地獄の大魔王の封印は解かれ、世界は恐怖と暴力の支配に陥った……。だが、そんなある日、混沌の闇の中より、新たな光を求め一人の勇者が立ち上がったのだ!!――といったはた迷惑なロマンと設定を求めて、わざわざ大魔王の封印を解き、歴戦の勇者「シェカネア」を呼び寄せようと思ったとある国の王さま。だが、なんの手違いか王の呼びかけに応えて城に現れたのは、先祖代々ずーっと続いているバリバリの庶民「魚屋」さんだった!? 魚屋=さかなや→しゃかねあ→シェカネア…………。ものすごい手違いと、無責任なつじつま合わせから始まる、少年勇者(にむりやりしたてあげられた)・魚屋ズックの冒険が始まる!
なにがって?金の掛かり方と挑戦心だ。 藤原カムイ氏の代表作はロトの紋章が有名だが、どちらかというとエンタメ性より実験性の高い作品を多く描いている漫画家で、この作品はおそらくその実験性と挑戦心で言えば氏の作品の中でも相当に高い作品であろう。 ストーリーを言えば、平和に暮らしていた姉妹の世界に謎の勢力が襲来して、世界から「色」が失われ灰色になり、人々は石となってしまい、妹も攫われてしまうのだが、なぜか平気な主人公と人の姿になった動物たちと一緒に7色の精霊たちを開放して、世界に「色」を取り戻そうという物。 どちらかというと童話的で、低年齢向けのシンプルなストーリーなのだが、なんとこの「色」本当に紙面で表現されているのである。 冒頭の数ページはカラーだが、序盤に色が失われると全編カラー印刷なのに白黒の紙面となり、赤の精霊を開放すると紙面に赤色が追加され、ストーリーが進む毎に色が増えていき、とにかく金も掛かれば手間もかかってそうな紙面。 描く方も描く方だが、描かせてくれる方も凄い作品である。 連載当時はインターネット黎明期でweb漫画なども個人サイトでは存在していたが、ココまで「色」を打ち出した作品は寡聞にして知らないが、れっきとした商業紙連載作品でのこれは相当な挑戦心を感じる。 先述したようにストーリー自体は童話的なギャグありの冒険ものだが、とにかくこの紙面の鮮やかさは素晴らしい。 しかしやはり全編カラーはモロに価格に跳ね返っており、1巻完結で2000円近い価格と、当時でも相当な値段の作品であった。 内容的には子供に読んで欲しいのだが、大人じゃないと手が出ない価格というのはやはり厳しかったらしく、当時でも部数は少なかったと聞くがさもありなん。 今現在は電子書籍やweb連載などでこの手の試みもやれるかもしれないが、その先駆性と実験性はやはり藤原カムイの作家性が存分に生かされている。 電子限定等でも復刊して欲しい作品である。