回胴創世記 パチスロを創った男達

バジ絆はいかにして作られたか #1巻応援

回胴創世記 パチスロを創った男達 伊藤ひずみ
兎来栄寿
兎来栄寿

『ロックンリール』や『《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~(コミック)』の伊藤ひずみさんによる、パチスロ版『プロジェクトX』や『ガイアの夜明け』的なドキュメンタリーです。 私はパチンコ・パチスロは付き合いで5号機以降を多少嗜んだくらいですが、元々『バジリスク』の原作もアニメも山田風太郎さんも好きだったので、『バジリスク』シリーズは多少触りました。 当時は陰陽座が大好きで、カラオケでの十八番も「蛟龍の巫女」だったので、『バジリスク2』でシングル曲でもないアルバム収録曲が激アツの際に流れる曲として採用されたのは望外でした。 1/16000の白バジが揃ってエンディングまで到達し、弦之助と朧の悲痛な最期を見て泣きながら打ったのは良い思い出です。 そんな『バジリスク』シリーズの中でも人気の高い『バジリスク~甲賀忍法帖~絆』がいかに誕生したのかというエピソードからこの本は始まります。 『バジリスク2』から間も無く絵やアニメーションの素材はそこまで増やせない中で、どうやって新鮮味を生み初心者から玄人までを楽しませる台を作るのか? その苦心惨憺ぶりが描かれていきます。そこには他の分野と何ら遜色のない、モノ創りへの熱情があります。 パチスロなんて低俗なギャンブルでしょ? という人もいるかもしれませんが、絆高確はこのようにして生まれたんだなぁ、原作への愛があればこそなせた仕事だなぁとその魂の込め方に感心しました。良いものを作れば絶対に売れるというわけではないこの世界ですが、結果的に妥協せず良いものを作って広くユーザーに愛されていくようになったことは素晴らしいなと。 他にも『アナザーゴッドハーデス』、『ディスクアップ』、『ハナビ』など長年ホールで愛された名機たちの誕生秘話が記されています。このあたりの台に思い出や愛着がある方であれば尚更楽しめることでしょう。 伊藤ひずみさんの絵はスタイリッシュで読みやすいですし、パチスロを打たない方でも「こういう世界があるんだなぁ」とビジネスマンガとして楽しめる作品であると思います。

電脳少女AI

1/65536の純情な感情 #1巻応援

電脳少女AI 吉田小梅
兎来栄寿
兎来栄寿

スマスロの登場や、初代を強く意識した北斗の拳などで久しぶりにホールに足を運ぶ人も現れ、斜陽と叫ばれながらも昨今も盛り上がりを見せるパチスロ。時にはにゃんこ大戦争のような謎の台も登場し、話題に事欠きません。ちいかわとか相性良さそうだな、と思ったり思わなかったり。 そして、世の中にはパチスロマンガというジャンルも存在するわけですが、一般的なパチスロマンガはもう少し実録的な台の攻略や実践を描いた形式が多いです。しかし、本作はかなりストーリーマンガに寄せている珍しいタイプの作品です。 子供がドラえもんを欲するように、パチスロを打つ人なら誰もがこの作品に登場するアンドロイド「AI」が欲しいでしょう。ビッグデータを元に高設定台や据え置き天井直前の台を看破し、強イベント日の良台・悪台を見極め、目押しも完璧にこなし続ける最強のAI。しかも、見た目はかわいくて気立ての良い美少女。 アンドロイドとの関係性を描いたプロットとしては極めて王道ですが、終盤のシーンは感動的です。そこに上手くパチスロならではの要素を組み込んでいるのも、本作ならでは。 「バジ絆の残3」やら「ディスクアップ」やら、パチスロを知らない人には何が何だかわからない部分も多いかと思いますし、『ロックンリール』ほど誰しもに無条件でお薦めできる訳ではないですが、ある程度打っている方であれば楽しめるでしょう。

ふわふわ志保のほっこりごはん

2023年「亜月裕先生の新刊」 #1巻応援

ふわふわ志保のほっこりごはん 亜月裕
兎来栄寿
兎来栄寿

「亜月裕先生の新刊」が本日発売! 令和5年になって、この言葉を発せられる驚きと嬉しさたるや。 電子版のみではありますが、2016年に発売された『伊賀野カバ丸★そりから』以来7年ぶりとなる新刊です。亜月さんももう古稀、再来年でデビュー50周年なんですね。先日クチコミを描いた『ぼっち死の館』もそうですが、若い体であっても大変な作業であるマンガの執筆を、歳を重ねてもずっと続けられている方々には畏敬の念を抱きます。 この『ひとりでほっこりくつろぎごはん』シリーズで連載されていた『ふわふわ志保のほっこりごはん』は、非常に伸び伸びと描いている感があって、読んでいてどこか安心します。 本作は1話完結型で、30歳のOL志保が毎回どこかで何か特定のメニューを食べるグルメマンガ。 某所で行われているさんま祭であったり、50円でボルシチとコールスローを付けられるお店の「タンポポオムライス」と言ったら、解る方には解る実在のイベントやお店でしょう。 どこかのお店に食べに行く話でなく、「雪中キャベツのポトフセット」など話題になったお取り寄せ品のお話であったり、もらった材料から自分で料理をするお話もありバラエティ豊かです。実際に食べたときの感動をそのまま表現されているようで、読んだらすべての品を食べたくなります。少なくとも、私は昨日ポトフを食べたばかりなのにまたポトフを食べたくなりました。 たまに過去回想も入りつつ基本はゆるく進行していくのですが、たまにポトフの回のような読者の記憶を刺して来る味のあるエピソードもあり、流石の力量を感じさせてくれます。 何より、亜月さんの醸し出す雰囲気が端々から心地よく伝わってきて、古の少女マンガ読みとしては感慨深さを覚えずにはいられません。 末長く元気で美味しいものをたくさん食べて、またこのシリーズでも『カバ丸』でも描いてくださったら、一ファンとして嬉しいです。