エイガアルライツマンガの感想・レビュー4件夢と呼ぶにはあまりに厳しく余りに哀しい影に向かってのオデッセイCOBRA THE SPACE PIRATE 寺沢武一starstarstarstarstar阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。 「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。 今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。 コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。「キミを救いにきた王子さまさ…」COBRA THE SPACE PIRATE 寺沢武一starstarstarstarstarたか※ネタバレを含むクチコミです。海賊コブラCOBRA THE SPACE PIRATE 寺沢武一starstarstarstarstar_borderゆゆゆ寺沢武一先生の訃報後、「コブラの人だよ、読んだことないの?」と話題になったあとに、Amazonからおすすめされたので読んでみました。 これ、続編なんですね。まったく問題なく読めたので、気が付きませんでした。 島袋全優先生が『腸よ鼻よ』でコブラをモチーフにしたシーンがあったと画像をあげられていたのですが、漫画を読んでみて、コブラはそういうイメージだと納得。 序盤は平凡そうなサラリーマンのおじさんが、実は海賊コブラだったというのは夢がある展開でした。 前作を読んでいたらヒューッ!(口笛)となる展開だったのかもしれません。 強くてパワーがあって安心のバトルシーン、ちょっと昔のハードボイルドな感じ、気詰まりしないコメディ感、おもしろいなあと思いました。 カポッとはまる、物も隠せるあの手の仕組みが知りたいです。 リボルバー銃が博物館の品になるような未来なので、仕組みを言われても理解できないのでしょうが。ガンドラゴン・オブ・ジョイトイGUNDRAGONΣ 寺沢武一マウナケア「コブラ」の著者がCGを駆使して描いた衝撃的なカラー漫画。今でこそCGはお馴染みですが、本作が発表されたのは1998年。当時、CG漫画として十分に画期的な作品でありました。しかし実はこれ以前に「タケル」で著者は3DCGを導入しており、その点では”初”という冠はつきません。では何が衝撃的だったのか。それは主役に女優を起用し漫画と合成した、ということです。女優はインリン・オブ・ジョイトイ。全編Tバックでバイクにまたがりサービス満点、という衝撃もあるのですが、さらに衝撃なのが、大変な製作過程が推測できてしまうこと。下絵を描きそれに合わせてブルーバックでインリンを撮影し合成。全カットこれですからそりゃあ手間はかかります。そしてその写真がピタリとはまって、ちゃんと寺沢漫画の一員になっている。これが一番の衝撃。これからは漫画で何でもできると思ったものです。この作品以降、同様の手法で描かれた作品を聞かないことからも、偉大な実験作と言っていいと思います。
著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。 「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。 今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。 コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。