兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
「味のある老人を描く」というのは一際困難がある作業です。まだ若い作家であれば自分の実体験に即して描くことができないので、他者への鋭い観察眼または豊かな想像力が必要となってきます。そもそも、マンガの主な購買層である若い読者を想定して主人公も若くしておくことで共感しやすくするのがセオリーとなっているところもあります。 実際、1000万部以上の累計発行部数を誇るメガヒット作品群を見てみても、老人が主人公の作品というのはほとんどありません。島耕作や『蒼天航路』の曹操は物語が進むにつれて歳を重ねましたが、最初から老人を主人公に据えている作品というのはやはりメインストリームではありません。しかも、現在よりももっと男性作家が多かったかつての青年誌というフィールドで老婆が主人公となっている作品は非常に珍しいです。 しかし、私は老人が主人公の作品が大好きです。読書は想像力の翼を広げてくれる行為。自分の人生では味わえないこと・まだ経験していないことを擬似体験させてもらえるのが物語の醍醐味です。老人を主軸に描いた作品は、これから往く道について教えてくれる存在です。派手でキャッチーな面白さはなくとも、含蓄に富み心に響く作品が非常に多いのです。 『利平さんとこのおばあちゃん』でも、主人公のおしげさんが一話完結のお話たちの中で年の功によって多くの若人の良きメンターとなるシーンが幾度も描かれます。おしげさんや周囲の人たちの人情の暖かさが、法月理栄さんの朴訥とした絵柄との相乗効果で胸に優しく沁み渡ります。旦那さんを亡くしても、在りし日の思い出を心の中の宝物として日々を精一杯、笑顔で楽しく生きるおしげさんのようになれたら素敵だなと思います。 だら、だに、ずらなどの方言、茶畑でお茶を栽培をしている様子、また『ゆるキャン△』でも扱われたシッペイ太郎の民話や「清水港の名物は〜♪」と歌われるシーンなどから、静岡の片田舎が舞台であることが察せられます。法月理栄さんは静岡の島田市出身だそうなので、静岡県民の方が読めば私以上に共感できるポイントが多くあるでしょう。 ところで異端な余所者へは風当たりの強さがある一方で、誰かの子供に何かあったら「村の子供」として村人全員で一致団結して助け合う。そんな所には良くも悪くも田舎らしさ・日本人らしさが凝縮されているなとも感じました。それが当たり前であった昭和の時代をありありと感じられる物語を、令和になった今読むのも乙なものです。
たか
たか
1年以上前
マンバ通信の記事で知って読んでみたら超最高だった…! ヤンマガに載っていたことが信じられないぐらい絵もストーリーも少女漫画的で、人間関係や会話やファッションが丁寧に描写されていてグイグイ引き込まれる。 舞台が1989年の私立高校ということで、当時のティーン・エイジャーの言葉遣いや文化が盛りだくさんで見てるだけでキュンキュンしっぱなし!! 物語のメインキャストは 実は有名モデルであるということを隠し、クラスでは周囲と距離を置いている美人のレイカ。 その幼馴染で理解者の落ち着いた物腰の清臣。 お調子者でロック少年の矢島。 優等生の和泉女史。 ロック少年たちのウニのような髪型……ディスコ……お酒の自販機でビールを買ってライブ帰りに酒盛り。 はぁ〜なるほど!! これが“““青春白書”””ってやつか……! なにより主人公のレイカの魅力がやばい。 こんなん小6の時に読んでたら間違いなく影響を受けて日常生活に支障を出すレベル。 「クラスの鬱陶しい女子とは絡まずクールな距離を貫くも男子たちからは好意を寄せられ、学校では大人しくしてるはずなのにいつも注目を集めてしまいその度にダルくなり学校をフケる」 は〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! かっこよ!!!! え? いや、かっこよ……!! 女の厨二病の究極の完成形みたいな存在じゃん……だめ……好きになってしまう。 しかも素敵な優しい幼馴染(男)がいるんでしょ? 無理(好き)。 こういう厨二的なキャラというのは、大人になってから見ると恥ずかしくて耐えられないことがよくありますが、レイカは私にそんな気持ちを一切沸かせない。 厨二的カッコよさというのは貫き通して究極まで極めると「本物のカッコいい人」になるものなんですね。 それにしても、全1巻の完成度が本当に半端ない。 レイカが日本を発つ前、最後に矢島に投げかけた言葉「いつかやろうね」。 ……あまりにも良すぎる。 1話で矢島に「やらせてあげる」という約束をした時点からレイカは少しだけ変わった。 でも変わらない部分もある。 最後の最後までレイカは本当にカッコいい。 「来世があるならこんな高校生活を送ってみたいな」と、心の中の小6がギュンギュンときめく素敵なお話でした。 https://manba.co.jp/manba_magazines/12747