トラベラー

償えぬ異次元の君に捧ぐ歌 #読切応援

トラベラー 今井哲也
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『ぼくらのよあけ』アニメ化で話題、『アリスと蔵六』連載中の今井哲也先生はアフタヌーン四季賞出身で、2005年にこの『トラベラー』で大賞を受賞されてから2008年にアニメ制作高校生マンガ『ハックス!』で連載デビューとなります。私は当時この『トラベラー』で注目し、『ハックス!』をリアルタイムで追っていた今井哲也ファンです。 四季賞審査委員のかわぐちかいじ先生が「憎らしいほど上手い!!」とプロ目線で絶賛されるのを、その通りやなぁ……と思いながら、素人の感想として「将来のために今を大事にしなきゃ」と、心の底から思ったものでした。 バンドも好調、彼女ともラブラブな高校生が、とある地震観測実験の不測の事態に巻き込まれる。気がつくと4ヶ月後。バンドは解散、彼女とは別れていた……という物語。どうやらタイムリープを起こしたようで、元の時間に戻る事を目指しつつ、そればかりではいられなくなる。 物語のキモは、この世界に自分は「一人しかいない」事。 タイムリープというとその世界に自分が「二人」いるパターンもありますが、ここではそうではない。必然的にこの時間軸で「自分が」やってきた事を、彼は全て被る事になる。 ちょっとした綻び、無気力、あるいは抗えない運命……きっかけは些細なものでも、状況は雪だるま式に大きくなり、そのうち自分では動かせなくなる、そんな恐ろしさがここにはあります。 別の「自分」が招いた事態に、誠実に対応する主人公が切ない。彼を見ながら、一時の負の感情に身を任せて全てをぶち壊しにする恐ろしさを、私は切実に感じたのでした。 最後のバンド演奏シーンと(元)彼女のビンタと共に、心に痛みの残る作品でした。

白い砂のアクアトープ

二人の連帯と水族館の"夢" #1巻応援

白い砂のアクアトープ 桜木蓮 projectティンガーラ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

水族館の館長の孫と、アイドルの夢を失った女子が、水族館の危機に立ち向かう物語。困難を乗り越えようとする二人の強い連帯の予感が、1巻からひしひしと感じられる。 諦められた古い水族館だが、そこに思い入れのある若者達の復活への夢は途絶えない。そこに失意の中、参加する元アイドル。厳しい現実の中、前を向こうと足掻く物語は苦いけれど、基本明るい彼ら、その先への期待感は強い。 辛い現実を癒すのは、水族館の生き物達と、精霊による幻視。夢の光景は美しく、こんな不思議が本当に起こりそうな沖縄に、非現実的な夢を見てしまう。 2021年にオリジナルアニメが放送された本作。コミカライズ担当の桜木蓮先生は現在『アネモネは熱を帯びる』を連載中。 『アネモネ〜』で感じていたのは、曲線の描線が美しいという事。そしてそれは本コミカライズにて驚く程、高い効果を発揮していると感じる。女性の髪、滑らかな肌表現はもとより、水族館の魚やペンギン、水流や水泡の表現、そしてそれらが組み合わさった幻視の美しい事といったら……。 アニメに関して当初、界隈で発生していた懸念は放送後聞かれなくなった。女性の連帯を描く作品として、今後も期待したい。 (ちなみに私はアニメ未視聴です)

あうしぃ@カワイイマンガ
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1年以上前
松井勝法フォローをしました
ふたりのポラリス

孤独を癒す義姉妹の連帯

ふたりのポラリス 柚原瑞香
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

誰も自分の事なんか見てくれない……そんな思いを抱えながら、人の輪の中で笑って相槌を打つ私は悲しい。そんな私の寂しさを、この『ふたりのポラリス』は、全力で肯定してくれる。 ----- 親の再婚で義姉となったクラスメイトは、クラスに馴染めず、パシリに使われる存在だった。そんな義姉の問題を解決しようと立ち回る主人公女子も、実は問題を抱えていた……という物語。 主人公が抱える問題……集団の中で自我を出せず、空気を読んで快適さを演出する心情は闇が深いのだが、実は誰でもよく分かるのではないか(勿論私もよく分かる)。 そんな主人公が不器用な義姉のまっすぐさに打たれ、手を引いていた筈の義姉に助けられ、新たな姉妹パートナーシップに力を貰って自分の問題に向き合う物語は、こちらの心を溶かす。 彼女の問題を生んだのが「親」である事は大きなポイントだろう。母親は一見感じが良いが、悪意無く娘を傷つけている。その「悪さ」を明確に描き、主人公の辛さを全面的に肯定するので、この作品は普段から「我慢をしている」孤独な人を癒す。 こんなに美しい姉妹パートナーシップや、寂しかさからの解放はなかなか得難く、現実は変わらない。それでもこの作品に触れた事で、私は自分の「我慢」が少しだけ、癒されたと感じた。 #マンバ読書会 #5巻くらいのマンガ

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