エリオと電気人形
電気が禁忌となった世界で #1巻応援
エリオと電気人形 島崎無印 黒イ森
兎来栄寿
兎来栄寿
現代よりも人類が高度な文明を築き上げた未来世界において人類がAIとの対立から戦争を起こし、世界から電気を滅することで人類側が勝利して蒸気機関が主流となっているという世界設定がまず魅力的な本作。 その魅力を何倍にも掛け算しているのが黒イ森さんの作画です。絵が、とても良い!! 表紙も、カラーページも、冒頭の数ページだけでも伝わる、この世界観にジャストフィットしている美しい絵。中心となる人間のエリオと電気人形のアンジュというふたりのキャラクターも、電気がなくなった世界を描く背景も、どちらも非常に見目好いです。 旧来の作品であればエリオは普通に男の子であったかもしれませんが、エリオが名前も格好も男っぽくしている女の子であり、アンジュの充電のために毎回キスをするという絶妙なバディの関係性が現代性と特色をもたらしています。 純粋に文明が進みゆく中で分岐して発展途上となっているスチームパンクではなく、一度先進文明ができて、核爆弾以上の威力を持つ反物質爆弾が使用されて滅んだ後の世界(『火の鳥 未来編』は本当に先駆的だったなと思います)ということで、色々な想像を余儀なくされます。 AIの残存を許さないために世界中で電気の使用が禁忌となっていますが、そうはいっても人間が一度手にした便利な道具を易易とすべて手放す道理はないだろうとも思うわけです。全面的に禁止になったとしても、一部はロストテクノロジーとしての電気を活用して利を得ている人もいるのではないか? という第一印象を抱きましたが、それはおいおい作中でしっかりと語られていくため、安心して世界観に入り込めました。 世界設定と絵がベストマッチしていてとても良い上に、ストーリーも良質なので人気が出ないはずもない作品です。各エピソードに関しては王道をしっかりと踏襲している印象で、5話などはベタですが好きです。話を積み重ねながら根幹となる部分も少しずつ進行していく構成となっています。 カバー下などもこだわってスチームパンクの世界観を押し出しており、読めばこの世界にいざなってくれる力のある作品です。スチームパンク的世界や後退した文明での物語が好きな方、綺麗な絵の作品が好きな方、機械的でクールな美少女が好きな方、女の子同士で旅をする物語に興味がある方などにお薦めしたいです。
やまさん~山小屋三姉妹~
峻険で辺鄙。けど、壮麗で霊妙。 #1巻応援
やまさん~山小屋三姉妹~ 坂盛
兎来栄寿
兎来栄寿
山の上に登り、雲海の上に昇る朝日を見るのが大好きです。 草木も眠る丑三つ時に目を覚まして、身を切るような冷気を頬に感じながら一切の光がない暗黒の山道を登る。登る。登る。息も絶え絶えになりながらも、徐々に白んでいく世界を感じつつ頂上に辿り着く。興奮で疲れを忘れた体を少し休めながら、紫がかる大好きな色の空の移ろいを眺める。清澄な空気は一呼吸ごとに自分を再生させてくれるようで。暫くして山の向こうから一際眩いご来光が立ち昇る。照らされる霧のかかった山々と、どこまでも美しく広がる空は現世とは思えないように霊妙で、思わずただありゆるものへの感謝が湧いてくる。 そんな瞬間を、こよなく愛しています。そして、この『やまさん~山小屋三姉妹~』は、そんな瞬間の素晴らしさを疑似体験させてくれる作品です。 私が主に登る山はまだギリギリ電波も届き、ある程度までは車も走れますが、この作品の舞台となる徳盛連峰の「雲海小屋」はもっと僻地にあり、電波も電気も通っておらずスマホも使えなければ、車では登れず人の足でないと辿り着けない場所。 そんな所とは知らずに、クラスメイトにプリントを届けようとして迷い込み滑落してしまった無謀な少年と、山小屋を運営する三姉妹の物語です。 山はただ美しいばかりではなく人の命を容易く奪う危険な場所であることを大前提に、それでもなお余りある山と山小屋での暮らしぶりの魅力をディティール豊かに描いて行きます。 まず何と言っても山の景色の絵が美しく、上で述べたような雲海とご来光のシーンなどは最高です。なるべく大きな画面で見ていただくと、よりその美しさや迫力が伝わることでしょう。雄大な景色を目の当たりにする主人公に、400%シンクロします。 山小屋も設備は古く、虫や獣などの対策やトイレなど不便も多く、歩いて運んでこないと物資も何もなく管理の大変さも伝わってきますが、それでも魅力的な露天風呂の存在だったり、山小屋ならではの濃密なコミュニケーションの楽しさだったりが描かれていることで「良いなぁ、行ってみたいなぁ」と思わせてくれます。 三姉妹のキャラクターもそれぞれ個性があり魅力的で、主人公との関係性の変化が気になるところです。 今現在、となりのヤングジャンプで無料で読めるのは3話までなのですが、4話のご来光シーンは読んでみて欲しいなと思います。 単行本発売に際してボイスコミック化もされたので、まずはそちらから試しに入ってみるのも良いかと思います。上記のご来光シーンがこちらでは観られます。 https://twitter.com/sakamori1234/status/1626474263548157952?s=46&t=xX9mwSH03C3O_y9AgLQTYQ