この部屋から東京タワーは永遠に見えない

タワマンを通して描く人間模様

この部屋から東京タワーは永遠に見えない 川野倫 麻布競馬場
六文銭
六文銭

タワマン文学なる、格差社会にルサンチマンこじらせたようなものがSNS界隈で話題になった。 そのコミカライズな本作。 テーマ的にあまり興味がなかったのだが、アプリで読んでいて特に添付画像にある2話目がよくてハマってしまった。 結局自分は、男側がうらぶれて、女性が現実をみて早々に見切りをつけて去っていく展開に弱いのだと思う。 それだけだと、男性がいつまで変わらず思い続ける純情っぽく描かれ、他方、女性が変わってしまい不純というか強かというかの対比になりがちですが、本作がグッときたのは 「自分の幸せを自分で選んだ」 というセリフ。 これがキツイ。 変わってないから純情とかではなく、ただその状態を、ともすれば結果的に不幸になってしまう状態でも、怠惰だとか思想に合わないからやりたくないだとか自己を正当化して選択しているだけに過ぎないことを突きつけられる。 そりゃフラれるし、そんな自分に酔っている感じが痛々しい。 (でも、自分はやっぱりこういう男主人公話が好きだったりします。) こんな感じで、うまくいかない人間関係や、一見順調そうにみえて裏がある人間模様をタワマンという現代の成功の象徴通して描かれる作品です。 題材を今っぽくしてますが、本質的なものはあまりかわらない感じが文学だなと感じました。

タワマンに住んで後悔してる

タワマンに住んで後悔したい

タワマンに住んで後悔してる グラハム子 窓際三等兵
六文銭
六文銭

何かと話題のタワマン文学なるもののコミック。 「タワマン文学」・・・これ自体、つくづく今の時代っぽいなと思う。 SNSを通して、芸能人だけでなく、これまで見えてこなかった一般人の生活が筒抜けになり、そこでセレブで綺羅びやかな生活を過ごす方々(本当かどうかは別として)と自分を比較し嫉妬や憎悪を募らせる。 特に、その富の象徴と格差の証明としてタワマンがそびえ立つわけです。 本作も、そんなタワマンに惹かれ、そしてタワマンですり減っていく人々を描いた作品。 中の上くらいの一般家庭が無理して住んでしまったケース。 パワーカップルの家庭のケース。 高給取り夫をもつ家庭のケース。 同じところに住んでいるが、異なる悩みと葛藤を抱える3人。 決してわかちあうことなく、建前だけで過ごす日々。 比較され、競争心を煽られ、何が正しいのかもわからなくなっていく。 読んでいてつくづく、本当の幸福ってなんだろう?って思ってしまった。 少なくとも、世間の評価が自分の幸福と必ずしも一致しないことだけは言える。それは、この3人がぞれぞれ出した結論にもつながっていると思いました。 自分らしさ、とは何か? 自分の立ち位置を相対評価で判断したくないものです。 とはいえ、一度くらいタワマン住んでイキってみたいっすね。 後悔するだけ、羨ましいとちょっと思ってしまいました。

タワマンに住んで後悔してる

魑魅魍魎跋扈する魔塔 #1巻応援

タワマンに住んで後悔してる グラハム子 窓際三等兵
兎来栄寿
兎来栄寿

「お前なんて安い低層階に住んでるくせにっ!」 子供同士の喧嘩ですら、こんなセリフの出てくる世界の何と歪なことか。 Twitterで大人気の窓際三等兵さんが原作の、タワマンを舞台にした群像劇です。 野球少年の息子を持つ九州から引っ越してきた淵上家の舞の視点から始まり、瀧本家、堀家の3つの家庭の様子を中心に描いていく構成となっています。 田舎では誰もそんな話はしていなかったのに、東京に来たら皆が子供の受験の話で持ちきりというのは大いにあるあるでしょう。私も、都心で育ち小学校6年生のころには半分くらいの生徒が登校しなくなりそれぞれ家庭教師や塾で毎日12時間以上勉強しているような環境にいたので、理解できる部分は非常に多いです。 夫の勤め先・年収・学歴や、子供の成績・特技、住んでいる階層など、すべてにヒエラルキーを作り終わりなき不毛なマウント合戦が繰り広げられる世界はそこらのホラーよりよほど恐怖に思えます。これが現実にも存在するので恐ろしいです。読んで、恐らく死ぬほどマウントを取られ続けて心を擦り減らしてきたであろう母に思わず改めて感謝してしまいました。 ただ、この作品の面白いところはステレオタイプなマダムとマウントバトルするだけではなく、それぞれの家庭の外から見た部分とは違う内情が描かれていくところです。どんなに華やかに思えたり羨ましいと思えるところでも、その裏には何があるか解らないというのもまたリアルです。そして、逆に元々は普通の田舎の家庭であった淵上家が都会の文化に染まり狂っていくところも見ていて苦しいですが見ものです。グラハム子さんのかわいい絵柄がクッションになっていますが、総じて現代の「人間」が色濃く描かれています。 ある種、今のタワマン最高層並に豪奢な生活をしていた友人の家庭の闇を直視した経験もあるので「幸せとは何だろう」「それは相対比較し続けた先に見つかるものなのだろうか」と考えずにはいられません。タワマンに限らず、SNS全盛で人間は羨望や嫉妬という感情を抱きやすい時代です。皆『ブッダ』や『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』を読んで、他人と比べて苦しむことから解き放たれて生きれば良いのにと思わざるを得ません。それができないから苦労するのもまた真理なんですけれども。 余談ですが、「第4章 嫌よ、埼玉なんて住みたくない」というサブタイトル、そして「埼玉はね みんな色々抱えてるのよ」というセリフが愛しくて堪りません。

黄泉比良坂レジデンス

女子高生が地獄でメイドさんになるお仕事漫画? #1巻応援

黄泉比良坂レジデンス 川西ノブヒロ
nyae
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ひょんなことから生きたまま地獄に迷い込んでしまった女子高生のちまきと理智、エリコの3人(まず地獄に迷い込んでもそんなに動じない女子高生という図がすでに面白い)は、なぜかタワマン「黄泉比良坂レジデンス」のメイドして働くことに。お仕事を頑張って最上階まで登りつめれば、元の世界に戻れる…かもしれない。というお話。 地獄で働くとか地獄か!?なんですが、就職浪人のちまきはたとえ地獄でも仕事に就けたことに大喜び。メイド業に精を出し、毎日イキイキしています。メイドといっても便利屋みたいな感じですが。地獄ではおなじみのキャラクターもたくさん出てきます。かなり、ゆるい空気が流れる漫画です。地獄というより"地獄風"の町という感じ。 理智とエリコは進学が決まっていたので早く戻りたいんだけど、ちまきだけはそこがあまりはっきりしないんです。というのも、不幸な家庭の事情があったり、帰ったところでまたつらい就職活動を再開しなければならなかったりと、色々思うところがあるみたいです。能天気なアホに見えるちまきだけど、ここ(地獄)がやっと手に入れた"自分の居場所"だとすると、はっきりと帰りたいと思えないかもしれない。ちょっと複雑。 実際、現時点ではまだ3人のくわしい過去や人となりは描かれてないので予想するに理智とエリコにもなにかあると思うんですよね。たぶん。 1巻のさいごに、人間を地獄に呼び寄せている、閻魔大王すら知らない何者かがタワマンのどこかに住んでいるらしいということがわかり、ちょっとミステリ要素も生まれて更に面白くなりそうな予感です。