旅に出るのは僕じゃない

妙にリアルな近未来ウィズコロナ #1巻応援

旅に出るのは僕じゃない いけだたかし
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

まさかの「204X年まで続くコロナ禍」という世界観は、枠組みから細部に至るまで徹底していて驚く。 技術が進んでいたり、変わらない伝統があったりという世界各国の楽しさを、明るい絵柄でたくさん描きつつシリアスな内容も多い。 例えば「日本人を嫌うベトナム人」という描写がある。技能実習生の問題を知っていれば「こういうことはありえる」と想像できるはずだが、何故か誰もそれを口にしない。他にもこういった「つい目を背けてしまいがちな可能性」を描き、考えさせられながら世界観に引き摺り込まれる。 奇妙にリアルで楽しいけれどシリアスな近未来を、主人公と共に旅行する。そこには創作物にしかできない、心を動かす実感がある。 VR旅行のための「体験」データを集めてまわる主人公の青年。彼の旅に強い印象と深みを与えるのは、各地で出会う女性たち。その出会いは彼にとっても女性たちにとっても、忘れたくない重要さを持つはずなのだが……。 旅の記憶を保持できない主人公の特性が、これらの出会いをより強く、切なく印象付ける。これらの旅は一つひとつバラバラに見えるが、今後もそうなのだろうか、それともこの先……?

ステラ☆レコード

質量のある百合 #1巻応援

ステラ☆レコード しおやてるこ
兎来栄寿
兎来栄寿

しおやてるこさんの百合からしか得られない栄養素、あると思います。 昨年、発表された読切「ホントのキモチ」をベースにした連載作品で、全1巻で完結しています。 田舎から上京してルームシェアしている大学生で"親友"同士の杏子と律を中心に描かれる物語。友人同士ではありますが律は大きな感情を中学時代からずっと秘めている、というところからスタート。 律の姉を好きで、それが高じて律にも手を出してくる第三のキャラ真琴も現れ、混沌の様相を呈していきます。 個人的にとてもツボなのは、律と杏子の馴れ初めが「14歳の時に丸尾末広先生の本をチェックしていた」という所から始まっていることです。その年頃だと、その趣味を理解してくれるのってクラスにひとりいるかどうかではないかと思います。マンガ以外でも小説・ゲーム・芸人などあらゆる趣味が合致するふたりの関係、推せますよそれは。 そして、本作の最大の魅力は主人公たちがとても個性豊かで生き生きと生きていること。特に、 「単位とオトコは落としてナンボじゃい」 と普段の性格も性に関しても自由奔放で、そのくせ嫉妬深い律。彼女の豊かな表情や、現代的な気取らない女子像は紋切り型のキャラクターとは一線を画した存在感を放っています。私のタイプとは全然かけ離れている人物像なのですが、それを超えて魅力的だと感じます。律の友人たちもまた類友的な感じで、良いキャラをしています。 人間の綺麗な部分だけでなく、猥雑な部分も含めて清濁併せ呑んだ上で、しっかりと人を愛して、たまに上手く行かなくて、それでも愛し抜いてという部分を描いているのがとても、とても良いです。 七夕に読むのも乙な、上質の百合です。