OH MY DOG! まっすぐにいこう。~キキの場合~

いろんなものが意外だった新作

OH MY DOG! まっすぐにいこう。~キキの場合~ きら
nyae
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まっすぐにいこう。を読んでいた感覚で新作だ!と思って読み始めると、その違いにけっこう戸惑うかもしれません。 主人公も20代なかばの女性で、その恋のお相手はアラ還のイケオジ。 それでも犬たちの描写はやっぱりきら先生だなという感じで、「かわいい」だけじゃない犬の姿をコミカルに描いてくれてます。レイモンさんの犬への名付けセンスが最高でした。 主人公のキキですが、芸能界へのあこがれが強いものの、見た目の美しさ以外に特出したものを持っていないので上手くいかず、挫折を味わっているという設定ですが、その性格というかキャラクターがなかなか掴みきれないです。一見、さっぱりした人なのかなと思いきや自分の見栄のために人を利用しようとしたり、子供っぽく嫉妬を顕にしたり、コスプレ狂だったり…面白いヒロインだなーと。 ちなみに主人公がバイトするコンビニの店長が渡部京介だったり、ちらっとマメタロウやハナコちゃんのイラストが出てきたりもします。今後もシリーズとして定期的に読みたいですね。 一緒に載ってる読み切り「おねがいプラスワン!」は普通におもしろいラブコメでした。

ニーナはパパを暗殺したい

暗殺者とそのターゲットが「家族」になる物語 #1巻応援

ニーナはパパを暗殺したい 島崎無印 キトラ
sogor25
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内務省直轄機関の特殊工作員である高橋怜司は、突入したマフィアのアジトで1人取り残された少女・ニーナを発見します。 彼女はマフィアにより暗殺マシーンとして育てられていた上に「最初に自分を発見した者を殺せ」という暗示を受けており、「最初の発見者」である怜司を殺そうとします。 腕利きの工作員である怜司にとってニーナをあしらうのは容易いのですが、怜司が彼女のターゲットとなっていることから、逆に上司から「ニーナを監視するために一緒に暮らす」ことを命じられます。 という導入から始まるので、設定だけ見ると殺伐としているのですが、実際は一緒に暮らし始めた怜司とニーナが徐々に関係性を深めてゆき「家族」になっていく様子を描く作品です。 暗示により無意識に怜司を殺そうとするニーナと、そんなニーナを御しつつ 無理に暗示を解いて彼女の精神に影響を与えないよう丁寧に「普通の生活」を教え込もうとする怜司の生活は、 見ようによってはじゃれ合っている親子のようにも見えてきます。 また、途中から怜司の同僚である美緒が補佐として2人の生活に関わるようになり、本当の親子3人の日常のように見える場面が増えてきます。 一応"暗殺者とそのターゲット"という関係なのに、気づいたらちゃんと親子のような関係性を築いている、設定に反してとても心温まるホームコメディのような作品です。 1巻まで読了

じゃりン子チエ【新訂版】

なぜこれがアニメ化され、国民的人気作になったのか

じゃりン子チエ【新訂版】 はるき悦巳
hysysk
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子供の頃アニメを観ていたが、決して好きではなかった。「好きじゃないなら観るなよ」というのは今だから言えることで、当時はそれほど娯楽の選択肢が多くなく、暇を潰すにはテレビを観ているのが一番だった。 父親は暴力的で賭け事大好き、母親は別居中というのが、子供の頃の自分には恐怖でしかなかった。お父さんがああなったらどうしよう、お母さんが出て行ってしまったらどうしよう…。父親がパチンコに行くことで夫婦喧嘩になった時など、不安になったものだ。 しかし大人になって読み返すと、それぞれ口は悪いがお互いに思い合っているし、保守的な価値観に対する疑問や清濁併せ呑む態度など、生きる上で大切なことがたくさん描かれている。一般的なアニメや漫画に出てくる「普通の幸せな家庭」ではないことも、近い境遇の人達には勇気になったかも知れない。 舞台は大阪の西成区周辺をモデルにしていると思われるが、それも大人になるまでは分からなかった。今なら何故当時の大人たち(アニメの監督は高畑勲)がこの作品を子供達に観せたかったのかというのがすごくよく分かる。そしてジェントリフィケーションや格差の拡大、ポリティカルコレクトネスや自己責任論が吹き荒れる今、また読まれて欲しい作品だと思う。

ノラ猫の恋

濃密なストーリーで最後はしっかりまとまる良い全2巻

ノラ猫の恋 長野香子
nyae
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Fellows! で連載してる時に読んでいたけどなぜか結末を知らなかったので改めてコミックスで読んでみた。正直、連載時は絵柄がそんなに好みじゃないなと思って読んでいたけど、今はとくに気にならなかった。 主人公の女子高生・ななが、失踪した父親・宗一郎を探しに東京から青森まで出向くと、そこで同じく父親を探している後輩を名乗る男性・サワと、元恋人を名乗るオカマ(あえてここではこう呼ぶ)・キヨシと出会って…という話。 ななの父親・宗一郎がどんな人間だったのかは少しずつ少しずつ明かされてゆきながら、しかしそれぞれが持つ宗一郎と過ごした記憶は三者三様で、人物像が固まらないまま進んでいく。 なぜ宗一郎は消えたのか、サワは何者なのか、などミステリーな要素もありつつ、都会にはない田舎独特な空気感も鬱陶しいくらいにリアルに描写されていると感じます。とくに、物語が進むにつれ変化していく3人の関係性が読みどころ。 最初に結末まで知らなかったと書きましたが、こんなに全2巻でしっかり濃密なひと夏の出来事を描いた作品とは知らず、もっと早くちゃんと読んでいたらよかったなと思いました。あまりコンスタントに作品を発表しているイメージがない作家さんですが、最近青騎士に読切が載っていたりしたので今後またいろんな作品が読めることを期待したい。

カラーメイル―The story of colorful adventure!

藤原カムイの実験作でも色々と凄まじい

カラーメイル―The story of colorful adventure! 藤原カムイ
名無し

なにがって?金の掛かり方と挑戦心だ。 藤原カムイ氏の代表作はロトの紋章が有名だが、どちらかというとエンタメ性より実験性の高い作品を多く描いている漫画家で、この作品はおそらくその実験性と挑戦心で言えば氏の作品の中でも相当に高い作品であろう。 ストーリーを言えば、平和に暮らしていた姉妹の世界に謎の勢力が襲来して、世界から「色」が失われ灰色になり、人々は石となってしまい、妹も攫われてしまうのだが、なぜか平気な主人公と人の姿になった動物たちと一緒に7色の精霊たちを開放して、世界に「色」を取り戻そうという物。 どちらかというと童話的で、低年齢向けのシンプルなストーリーなのだが、なんとこの「色」本当に紙面で表現されているのである。 冒頭の数ページはカラーだが、序盤に色が失われると全編カラー印刷なのに白黒の紙面となり、赤の精霊を開放すると紙面に赤色が追加され、ストーリーが進む毎に色が増えていき、とにかく金も掛かれば手間もかかってそうな紙面。 描く方も描く方だが、描かせてくれる方も凄い作品である。 連載当時はインターネット黎明期でweb漫画なども個人サイトでは存在していたが、ココまで「色」を打ち出した作品は寡聞にして知らないが、れっきとした商業紙連載作品でのこれは相当な挑戦心を感じる。 先述したようにストーリー自体は童話的なギャグありの冒険ものだが、とにかくこの紙面の鮮やかさは素晴らしい。 しかしやはり全編カラーはモロに価格に跳ね返っており、1巻完結で2000円近い価格と、当時でも相当な値段の作品であった。 内容的には子供に読んで欲しいのだが、大人じゃないと手が出ない価格というのはやはり厳しかったらしく、当時でも部数は少なかったと聞くがさもありなん。 今現在は電子書籍やweb連載などでこの手の試みもやれるかもしれないが、その先駆性と実験性はやはり藤原カムイの作家性が存分に生かされている。 電子限定等でも復刊して欲しい作品である。