あらすじオレは疲れきっていた。丸62時間寝ていないのだ。マンガの原稿を締め切りまで描き通しだったある日の午後。底なし沼のような睡魔に飲み込まれる寸前、オレは見た。遥か彼方の地平からやってくる黒い姿…あれは死神!?そしてオレは…。表題作「死神交換イタシマス」を含めた8作を収録した、福山庸治の傑作短編集!
え~、死神交換イタシマス~、ってちり紙交換のダジャレかよっ、とまずはタイトルでジャブを一発。そしてオチで強烈なストレートがくるかと思いきや、最後までクリンチされて終わるという、そんな短編集。62時間寝ていない漫画家の白昼夢を楽屋落ち風に描いた表題作をはじめ、ナンセンス作品が8連発続きます。エロありSFありと攻め手はさまざま。パワーはなくても小技を効かせたギャグと精緻な絵柄が誘ってくれるのは、ちょっと奇妙で小粋な小咄。中でも連作となっている「西武沿線異常なし」(このタイトルも秀逸!)のスカし方は極め付けです。内戦状態になった日本を描く作品ですが、出てくるメインキャラはまるで仕事に出かけるように前線に赴くサラリーマンに、育児ノイローゼを兵士を撃つことで解消する主婦といったどこかズレた人たち。指が飛んだり死体がころがったりと戦場のはずが、そんな彼らの行動の範囲は日常の延長に限られてしまうという、この不条理感がたまらない。この手の作品は、予定調和的な結末を求めずに、その世界観にハマった方が勝ち、ですね。