あらすじ
少年は走る。今日も明日も。おとなたちが退屈している日常の中に、まぎれもない冒険の数々を発見して――。手押し車での綱渡り、3月のそよ風、一個の腕時計、一匹のよごれた野良犬……それらが冒険世界への入口。船乗りに憧れる少年・しげる。首尾よく外国航路の船に潜り込むが、船倉に隠れていたところを船員に見つかってしまう。「おれ、父ちゃんの船に乗りたかったんだ……」と、熊田一等機関士の方を指さすが……。表題作「3月の風は3ノット」のほか、16ページのカラー原稿を含む「独立祭の夜」「高田くんの時計」「よわむしコロ」「銀河飛行」の5編を収録。鬼才・坂口尚が流麗なタッチで描く、少年の魂の讃歌!!
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私の甥っ子はいま小学校の低学年。帰省した折に見ていると、イマドキの子らしくゲームをしてたりはするんですが、急に走りだしたり、興味を持つと周りが見えなくなったり、新しい遊びに貪欲だったりと、とはつらつと動き回っています。まさに子供、という感じ。そんな”少年”の本質の部分を漫画として描き出すことが、この著者は本当に上手。この短編集はそんな子供たちのちょっとした冒険をモチーフにしていて、読む者の心を少年の日に戻してくれます。私のお気に入りは、「独立祭の夜」。大道芸の綱渡りの手押し車に乗る役に選ばれた少年が、いざその舞台に立つ、という小編です。これが少年の心理を見事に捉えている。前日はドキドキして眠れない。最初はこわごわ、慣れた途端に大胆に。しかしアクシデントがあった途端に自分の運命は大人に委ねられていることがわかり、応援するしかない存在であることを知る。当然、私自信にも子供の時代があっただけに、主人公に同化しやすく、読んでいて思わずハラハラしてしまいました。うまいなあ。少年漫画のお手本ですね。