「『熱帯魚は雪に焦がれる』の萩埜まことさんによる短編集」と言うと百合を想像されるかもしれませんが、雑誌『青騎士』に連続掲載された作品群はさまざまなタイプのお話があり、そのどれもが上質です。 西洋が舞台で、作家と少女との出会いから始まる「窓辺のリノア」。 田舎の高校生たちの淡い青春を描いた「波よりもおだやかで、雲よりも速く」。 スタイリストになりたての青年が、初めて美容院に来た女子高生との接客中に自分が美容師になった動機となる復讐について語る「髪結いの娘」。 神社に住む少年が、人生を諦めそうになっていたダメな大人に神様のフリをして援助を行う「神様ごっこ」。 人類が滅んだ後の宇宙を舞台にしたSFでありながら、ゴーストというファンタジックな概念が物語の鍵になる「どこかの星のふたり」。 時代も場所も設定も多彩で、ひとつとして似通ったものはなく1冊の中で多くの味わいを楽しめる様はまるでフルコースの料理のようです。 「窓辺のリノア」が『第七天国』から着想を得ていることが幕間の解題で明言されていますが、『熱帯魚は雪に焦がれる』も井伏鱒二の『山椒魚』をモチーフにしていたように、他の作品から取り込んだものを自分の中で咀嚼して独自の物語として出力する力に長けていると感じました。 どの作品も読後感の良さが共通していて、多くの人に受け入れられ易いタイプの作劇であるとも思います。個人的にはすごく大事に描かれた感のある表題作が最も好きです。 2022年に出た短編集の中でも、特に良くお薦めしやすい1冊です。
兎来栄寿
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