さよなら、またね。

優しくて切ない天才の短編集

さよなら、またね。 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

この短編集は、オールカラーである……水彩タッチのとても淡く、優しい色彩と、繊細な描線。 「萌え」という言葉にある程度、揶揄が込められているとすれば、優先生の描く造形は、「萌え」に水彩的な「優しさ」を加えて、誰も揶揄する気になれない程にまで美しく、愛らしく突き詰めた芸術品だ……控えめに言って天才だ、と思っている。 『おおかみこどもの雨と雪』『五時間目の戦争』も美しかったが、優先生の本質はカラーにある……と私が思い込んでいるのは、私がはじめて触れた先生の作品が、この短編集『さよなら、またね。』の表題作だったからだろう。 『季刊GERATINE』というカラー漫画雑誌の2010年秋号に掲載されたこの作品。いつ単行本になるのか……と思っていたら、2017年まで待つことになる。 表題作を始めとして、優しい雰囲気の中に描かれるのは、残酷な状況が多い。もう取り戻せない物、気づいた時には失われている恋、否応ない別れ……余りにも切なくて、私は表題作でいつも手が止まってしまう。 この年、優先生は亡くなられ、もうこの様な作品達は生み出されない……という事情を差し引いても尚、この切ない天才の、決して色褪せない作品に、是非一度触れてみていただきたい。まずはこの短編集がいいだろう。そして『五時間目の戦争』を是非。 ①さよなら、またね。 七年ぶりに化けて出た元クラスメートは、生まれ変わるから挨拶に来た、と言う。 ②なくしたことば 自分を模したAIを載せたサイボーグが、眠りから覚めない……何の夢を見てる? ③はるのはな 遠く離れた兄と妹。レシーバーで偶々の交信。人の体でない兄が向かうのは……。 ④なつのいと 先生は私の名を間違える。私とよく似た、婚約者の名前と。 ⑤おかえりなさい 田舎に帰省する姉は、いつも明るい。俺が望んだのと、違う。 ⑥猫の日 飼い猫を助けてくれた級友に、つい暗い本音を話してしまう。彼の反応は……? ⑦きずあと 切りすぎた前髪を、男の子に見せに行く。彼のせいで、残った痕を、苦しい初恋を。

五時間目の戦争

出征する級友達と戦えない二人

五時間目の戦争 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

島の中学校の新学年、三年生の時間割に「戦争」が加わった。毎週金曜五時間目に、選抜されて本土に出征していく級友。しかしそこに、安居島都と双海朔の二人だけ、選ばれることはなかった。 正体不明の敵、子供も駆り出される程切迫した戦況……絶望的な状況下で、混乱しつつも日々を生き、恋をする中学生達。そして出征を拒まれる二人の謎とは……。 □□□□□ 小さな島の日常の穏やかな、優しい情景と裏腹な、不穏な情勢と多くの謎に、心が宙ぶらりんになりながら、読むのをやめられなくなる作品である。 好転しない現実、死と隣り合わせの毎日。その中で迷い苦しみ、ある者は怯え、または覚悟を決め、あるいは何かを見出そうと必死になり……在り方は様々だが、皆一様に、悲壮である。 一人ひとりの懸命な青春を、どんなに丁寧に描いても、その命はいずれ奪われていく。そして、辛い鬱展開が待っている。 その中で、一番辛いものを背負うのは、実は生き残っている安居島都である。その過酷さはある意味、筆舌に尽くし難い。それでも「食」をよく分かっていて生きる力の強い都は、前を向く。少しの幸せだった思い出を胸に……。 生きるのに必要なのは、悲壮さではない。淡々と飯を食い、命ある限り前向きな意志を持つことだ。そんなメッセージを最後に提示するために、4巻を丁寧に描き切った優先生に、今は深く首を垂れたい。

おおかみこどもの雨と雪

子供の人生選択…その時母に出来る事

おおかみこどもの雨と雪 貞本義行 細田守 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

恋した人は、狼男でした……やがて二人の間に姉弟の「おおかみこども」が産まれるが、母子を残して狼男は死んでしまう。人の世界に組み込まれず孤立する母子。生活に限界を感じた母は、ある決断をする。 □□□□□ 物語は、狼と人間の姿を行き来する子供達の成長を追い、人か狼かの生き方を選択するまでを追う。 性格、好奇心、本能……それぞれの人生選択は、丁寧に二人の性質を追う事で、意外なようでいて納得のいく必然性をもって描き出される。そして二人を庇護してきた母の苦労を丹念に描く事で、人生を選んだ子供に最早何もできない苦しみと、懸命の祈りが胸に迫る。 幼い二人の表情の豊かさに癒された後で、生き方を違えた二人の表情の対比に驚かされる。最後まで読み終わった後に、姉弟の最初を見返すと、ひどく懐かしい感じがする。こんなにも遠くに来てしまったのかと。 同名映画のコミカライズである本作が初単行本となった、優先生。感情の描き方の強さと複雑さに、心を動かされる。笑顔、泣き顔の表情一つひとつが強力で、表情につられて貰い泣きする場面が本当に多く、人前でおいそれと読めない感じがする。 (映画版を観ていない感想です)