『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』、『書店員 波山個間子』、『三護さんのガレージセール』などでお馴染みの黒谷知也さん。 上記3作品のような線の整った作品群とは別に、よりコミティアなどで出逢うような雰囲気で作家性を剥き出しにして描いている短編。その中でも、本にまつわる話を中心としたシリーズに分類されるSNSで2021〜22年頃に公開していた短編を1冊にまとめた本です。 こういう夢想が自然に浮かんでくる瞬間ってあるなぁと思える幻想譚たち。泡沫の夢のように、何もしなければ刹那弾ける泡のように消えていってしまうものたちを、繋ぎ留めるように手繰り寄せて現出させ形に残しているような感覚があります。 ときに好奇心を、ときに恐怖を掻き立てられ、不思議さに戸惑いながら酔い痴れ、理不尽に鬱屈としながらそれが快感でもある。 本を愛するから解るところもあり、本を愛するから苦しいところもある。紙とインクによる魔的な被創造物。読書という広大な宇宙海を漂う、無常感と無上感。 本がテーマでないお話も、寓話的で批評的な「グドゥグドゥ」や「鰐の起立」などとても好みです。社会の形式が変わるifがある物語は、想像力を刺激されます。 「言葉の珈琲」という柔らかい口当たりで始まりながら、とても強い刺激に満ちた1冊です。尖った作家性を浴びたい方、非商業的な作品を好む方には強くお薦めします。
時間が進んでいるような。ゆがんでいるような。不思議な流れで、どこにいるか、わからなくなりそうな。 日記は5秒のことを200字で書くとよいと書かれていた方がいたけども、その漫画版のような雰囲気を感じる。 なにげないシーンが切り抜かれ、画かれている 日常なのでたんたんとしているけど、当人にはドラマチック。 そして、ときどき非日常めいている。 なぜかはわからないけど、国語の老先生のストーリーが印象に残った。 先生の何気ないセリフを、意外と生徒は覚えている。 そのことを思い出した。
いつも本棚のすぐ取り出せるところに置いてるんだけど久しぶりに読んだ。喜怒哀楽の行間にあるような絶妙な感情や情景を描いてる話が多くて、こういうのって小説とか映像だと形になりやすいんだろうけど、漫画で描こうとする人は少ないですよね…。だからとても貴重に感じて、この漫画を本屋で見つけて初めて読んだ時は「出会えた!」という気持ちになりました。久しぶりに読んで一番心打たれたのは、中学生女子が国語のおじいさん先生に読書感想文の指導を受けることになる『谷後先生』という話。まだ大人になりきっていない主人公の未熟さとひたむきさに心打たれました。あんな時が私にもあったよ…。
衝撃的な1話目のスタートなんですが、淡々としていて作者の口からそのまま語られたようなセリフが印象的です。 「幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい」 他の作品も日常の一部分が切り取られている感じのものが多いんですが、どの作品も落ち着いていて淡々としていて不思議と落ち着きます。 なんかいいなぁ、好きです。
雰囲気良さそうだなと読み始めました。 書店員 波山さんの話ですが、波山さんはブックアドバイザーで本当にある書籍の話をします。 作中でこの本は面白い、とかこの本はオススメ、とか。 読んでてストーリーも丁寧で面白いですが出てくる書籍の方が気になってしまって! 実際に読んでみようかなという気分になります。ストーリー上で出てくる本とか物って気になりますよね…。 とても好きな感じの本でした。
『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』より古い原稿、選から漏れた作品が収録されているとのことだけど、私はこっちの方が好き。この絵柄で少し不思議なことが起こる話だと、やはり黒田硫黄を思い起こしてしまうが、全然ネガティブな意味でなく、むしろ作者の幅というか奥深さが垣間見れて良かった。
「あっと驚くような本が読みたい」そんなお客さんの無茶ぶりにも答える書店員の波山個間子が主人公。作中で登場するのはどれも実在する本なので読者が好きな人には特にオススメです。個間子があらすじを説明する場面では、もちろん読んでみたい!と思うし、自分がその本を読んでいるような没入感も味わえます。隠れた名作を知れるだけでなく、本と向き合うことの楽しさを描いた作品だと思います。全2巻なのが信じられない面白さです。
三護さんのガレージセールではどんな物でもお手頃価格である。在宅勤務で一人暮らしには困らない稼ぎもあり、父親譲りの物欲で不用品が溢れているので、人とのコミュニケーションが目的なのです。世間から少し浮いている三護さんですが、人との心の距離の取り方はむしろ巧みかもしれない。お互いにとって心地よい交流って難しいですが、このマンガにはヒントがあるような気がします。
表題作に顕著な、選んだモチーフを処理しきれてない感じと、でも描きたかったんだろうなという感じが初々しい。この人が持っている良さを保ったまま作り続けてもらいつつ、より多くの人に読まれるにはどうすればいいか、勝手ながら担当編集の気持ちになって考えてしまった。そういう意味で「書店員 波山個間子」が連載作品になるのはすごく納得いく。
『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』、『書店員 波山個間子』、『三護さんのガレージセール』などでお馴染みの黒谷知也さん。 上記3作品のような線の整った作品群とは別に、よりコミティアなどで出逢うような雰囲気で作家性を剥き出しにして描いている短編。その中でも、本にまつわる話を中心としたシリーズに分類されるSNSで2021〜22年頃に公開していた短編を1冊にまとめた本です。 こういう夢想が自然に浮かんでくる瞬間ってあるなぁと思える幻想譚たち。泡沫の夢のように、何もしなければ刹那弾ける泡のように消えていってしまうものたちを、繋ぎ留めるように手繰り寄せて現出させ形に残しているような感覚があります。 ときに好奇心を、ときに恐怖を掻き立てられ、不思議さに戸惑いながら酔い痴れ、理不尽に鬱屈としながらそれが快感でもある。 本を愛するから解るところもあり、本を愛するから苦しいところもある。紙とインクによる魔的な被創造物。読書という広大な宇宙海を漂う、無常感と無上感。 本がテーマでないお話も、寓話的で批評的な「グドゥグドゥ」や「鰐の起立」などとても好みです。社会の形式が変わるifがある物語は、想像力を刺激されます。 「言葉の珈琲」という柔らかい口当たりで始まりながら、とても強い刺激に満ちた1冊です。尖った作家性を浴びたい方、非商業的な作品を好む方には強くお薦めします。