『三日月とネコ』のウオズミアミさん最新作。本作もまた大人の女性の上質な関係性が描かれています。 「ヤキモチを焼かれないので、本当に愛されてるか自信を失った」 という同棲して2年の彼氏と別れた主人公・宝(たから)。 33歳にして結婚を考えていた相手と別れてどうしようかというところで偶然にも中学生の頃の同級生・エマと20年ぶりの再会を果たしたことで、ふたりの物語が再開します。 当時のエマにとって、宝は単なる同級生に留まらず自分の存在を救ってくれていた掛け替えのない存在で、宝さえいてくれれば他に誰もいらないと思っていたほどでした。 宝は、そんな強い想いを昔から変わらずぶつけてくる美しくてかわいいエマに対して少しずつ自身も絆され、感情が徐々に溢れ零れていきます。何も障害がなければひとつの美しい祝福されるべきふたりの物語で終わるのですが、いかんせん既にエマは人妻。相手の男性は経営者で、性格もとても優しくエマのことを大事にしている人であるというのもまた複雑です。 ただ、当のエマ自身は現状に満たされない想いがあるようで、宝との再会によってよりその想いも強くなっており……。 いちごミルクキャンディの香りによって呼び覚まされる甘酸っぱく切ない記憶が、郷愁と共に胸の奥へと焦がすような熱を灯します。丁寧に紡がれていく彼女たちの関係性に目が離せません。中学時代のふたりの姿は、血流を良くしてくれます。 全体的に上品なんですが、友達のお母さんが作ってくれたおでんの味が忘れられずにずっと探求していてその正体はおでんの素だったという庶民的なエピソードも好きです。
※ネタバレを含むクチコミです。
本作は二人の女性が、恋人として同棲する日々の物語。場所は訛りからして、博多とかだろうか? レズビアンとバイセクシャルのカップルの物語は、時にそれぞれが抱える葛藤を丁寧に描く。また隣人男性がレズビアンを知る話も、真っ当な人柄のおかげで嫌な気分にならない。 二人を結びつけるのは、片方が凝っているスパイス&ハーブ料理。レシピもスパイスの効能も詳しく、使ってみたくなる。 スパイスやハーブを使ってやろうとしている事は、相手を思う事。今どんな気分?疲れているかな……?という思い遣りは、スパイス&ハーブの効能を何倍にも増幅させるようだ。 元気すぎてウザく感じる時もあるけど、その優しさを手放せなくなる片割れが、だんだん素直になる様子をニコニコ眺めていたい。そんな作品だ。
そんな生活が成り立つわけない、と最初に思ってしまった。 実際奇跡のバランスということだとしてもご都合主義的な部分は多少なりあるのだと思う。 長女44歳と末男(パンセクシュアル)29歳ですら何か起きてしまうのではないかと思っちゃうし。 次女34歳はビアンなので彼には興味がないが、長女にもきっとそういう目は向けないのだろう。 ※実際は姉妹でも姉弟でもないしそういう表現もないのですが便宜上そんな書き方をしました なんかそういう性的な関係を超越してしまう年齢ってあるんだと思う。 とはいえそれなしで色恋沙汰は出来ないだろう。 逆に色恋ナシなら共同生活のパートナーとしてありなのだろうか。 色々そういう下世話な心配ばかりしながら読んでしまったけど、実際はとてもスマートな関係で理想的なバランスが保たれていて、1巻は次の展開が気になる締めくくりをされていた。 2巻でも彼女らが幸せに過ごしてくれることを願う。
2016年の熊本地震をきっかけに同居することになった40代書店員の灯、30代女医の鹿乃子、20代インテリアショップ店員の仁、そして(元々は鹿乃子の飼い猫であった)ミカヅキ。年齢も性別も境遇もバラバラの3人が、地震という不意の出来事を契機にして共に生活を送る物語。 といっても、3人の中の誰かが付き合ったり、もしくは恋仲に発展しそうになったり、というような展開は出てこない。なんなら灯以外の2人にはどうやらちゃんと恋人がいるという描写がある。 いわゆる"シェアハウス"を舞台にした作品では、同性どうしであれば外での恋愛模様に喧々諤々としたり、もしくは異性間の同居となると同居人どうしの恋愛に発展したりしなかったりと、どうしても"シェアハウス"という空間と恋愛が相反する存在として描かれる傾向が強いように思う。しかし、この作品では3人の中での楽しい共同生活とその外の恋愛というのが完全に独立した状態で存在している。一応3人の間に恋愛が生まれなさそうな設定上の仕掛けがあるのだけども、恋愛そのものを否定せず、むしろ肯定したうえで、恋愛に囚われない幸せもあるということを描いている稀有な作品。 もちろん現実ではこんなに人たちに出会えるとは限らないし、この3人も奇跡的なバランスで関係性が成り立っていると思うけど、何が自分にとって幸せなのかを見つめ直させてくれると共に、恋愛だってなんだって、探せば幸せはいろんなところに転がっていると気付かせてくれる、読んでいて多幸感で満たされる作品。
年齢、性別、性格、いろいろな点で異なる3人の共同生活を描く今作。3人の関係性が素晴らしいし、恋愛という概念や周囲の人々との関わりを物語の中に溶け込ませた上で3人の関係性が描かれていて、この物語が現実世界と地続きにあるように感じられる。 私はこの物語をかなりの現実感をもって受け入れていて、3人の生活を羨ましくすら感じる。ただそれは私が(ちょっとだけぼかして説明すると)「しまなみ誰そ彼」でいう誰かさんみたいなタイプの人間で、この共同生活を素直に受け入れられているからなんじゃないかとも思う。だからこそ、色んな価値観の人にこの作品を読んでほしいし、色んな人の感想を聞いてみたい、そんな作品。 1巻まで読了
『三日月とネコ』のウオズミアミさん最新作。本作もまた大人の女性の上質な関係性が描かれています。 「ヤキモチを焼かれないので、本当に愛されてるか自信を失った」 という同棲して2年の彼氏と別れた主人公・宝(たから)。 33歳にして結婚を考えていた相手と別れてどうしようかというところで偶然にも中学生の頃の同級生・エマと20年ぶりの再会を果たしたことで、ふたりの物語が再開します。 当時のエマにとって、宝は単なる同級生に留まらず自分の存在を救ってくれていた掛け替えのない存在で、宝さえいてくれれば他に誰もいらないと思っていたほどでした。 宝は、そんな強い想いを昔から変わらずぶつけてくる美しくてかわいいエマに対して少しずつ自身も絆され、感情が徐々に溢れ零れていきます。何も障害がなければひとつの美しい祝福されるべきふたりの物語で終わるのですが、いかんせん既にエマは人妻。相手の男性は経営者で、性格もとても優しくエマのことを大事にしている人であるというのもまた複雑です。 ただ、当のエマ自身は現状に満たされない想いがあるようで、宝との再会によってよりその想いも強くなっており……。 いちごミルクキャンディの香りによって呼び覚まされる甘酸っぱく切ない記憶が、郷愁と共に胸の奥へと焦がすような熱を灯します。丁寧に紡がれていく彼女たちの関係性に目が離せません。中学時代のふたりの姿は、血流を良くしてくれます。 全体的に上品なんですが、友達のお母さんが作ってくれたおでんの味が忘れられずにずっと探求していてその正体はおでんの素だったという庶民的なエピソードも好きです。