まさにタイトルどおり、強烈な匂いを放つ作品だった。(誉めてます) 癇癪持ちで謎の行動も多く周囲から浮いた存在の問題児・信楽と、その彼が生み出す創作物?に魅了され心酔していく優等生・清水。信楽の作品の魅力に彼だけが気づき、関わりを持ちたくて空回りつつ頑張る姿は、微笑ましくてつい応援したくなる。 それにしても、読み終えてみて改めてタイトルの秀逸さに唸った。 …その独特な匂いに周囲が敬遠する中、ただ1人だけ白く美しい花が咲いていることに気づき、知ろうとする物語なのだ。
独自の世界観。 自分だけが知っている信楽君の秘密。 そして、自分だけが見つけた信楽君の才能。 皆が知らない、気づかない二人だけの共通点。 清水は、信楽といるときは、いつもの優等生の自分とはかけ離れた落ち着かない人物になってしまう。 今後、この二人の距離感と他の人物の認識がどのような展開を迎えるのか楽しみ。 担任の、小鹿田先生も気になる。
筆者の城戸志保さんは2020年に安野モヨコさんの「ANNORMAL展」を見て触発されて描いたのがこの作品だそうですが、2022年の10月に四季賞でその安野さんより「絵柄やセリフ・エピソードの選び方に独創的なセンスを感じる」「無造作な美しさが個性であり武器」と講評を受け、そして大賞を受賞。そして連載化して、今日単行本1巻が発売と創作が人の心に及ぼす素敵な連鎖を感じさせてくれます。 安野さんが指摘する通り、この物語の人物の配置は少し特殊です。癇癪持ちで怖い噂もあり関わりにくい信楽くんという問題児の存在と対置される主人公の優等生・清水くんは、一般的にはマジョリティ的感性から信楽くんに戸惑う普通の人物として描かれることが多いでしょう。しかし、清水くんは勉強も運動もできるにも関わらず、お金持ちの家の息子としてやや感性が庶民からズレており、言動も信楽くんに負けず劣らず危うく突飛なところがある少年として描かれます。 そして、何より大事なのは清水くんだけが信楽くんの創り出すものに心酔し、信楽くんに神聖性を見出すところです。他の誰も知らない、世界で自分だけが知っているダイヤモンドの原石のように。狂信的になる清水くんの気持ちも、とても解ります。 清水くんは冒頭で ″俺は自覚なく信楽くんを傷つけるだろうし そうなったら信楽くんがどうなるのかわからない それはいやだ″ と客観的な視点からの自覚を持っているのですが、その気持ちの大きさ故にとてつもなく不器用になって暴走してしまうところも痛々しいほどに解ります。子供のころなんて自分の感情を上手く表現できなくて当たり前ですし、それ故に失敗することも多々ありますが、ままならない情動に苦しむ信楽くんも含めてそんな淡く苦い記憶を呼び覚まされるようです。 人間が誰か特定の個人と結びつくのはそれだけでも貴重ですが、それが双方向的に圧倒的に強く結びつく瞬間というのは、奇跡と呼んでも差し支えないものです。そんな言葉では表せない奇跡の眩いばかりの尊さが、この物語では描かれていて惹かれます。 湿った日陰で育ち、生臭い魚のような臭いから魚腥草とも呼ばれ、海外でもfish herb・fish mint・fish wortなどとも呼ばれるどくだみ。その花言葉は、「白い追憶」「自己犠牲」「野生」。仄暗さと高潔さ、危うさを含む他者との関係性と激しさが同居するようなそれらは、この作品全体のイメージとしてどくだみは非常に合っているように感じます。 ジャリジャリのミロや、アスパラのエピソードなど、独特の感性から描き出されるひとつひとつの要素も印象的です。 果たして、彼らの関係性や未来はどのようになっていくのか。言葉では何とも言い表し切れない強い魅力が随所にあり、今目が離せない物語です。 余談1 信楽、清水、瀬戸、伊賀、砥部、美濃、九谷、小鹿田、壺屋など、登場人物の多くは焼物から名前が取られています。作っては微細なコンディションの差で失敗し、壊してまた作り直す焼物もまた本作において象徴的な存在と言えるのかもしれません。 余談2 2話の最初で、教室の後ろに掲示されている書が「一意専心」はともかく「鬼手仏心」は趣深いです。九谷さんの「魁」書道バッグも好きです。
※ネタバレを含むクチコミです。
絶対に読むべき。
謎の信楽くんが気になって一気に読めました。 変わった行動をする信楽くんは、変な噂とかで先生にも相手にされていないのかな?自分の世界を持っていて不思議で魅力的でした。 清水君は本当は優しくて、信楽君と仲良くなってほしいと思いました。
まさにタイトルどおり、強烈な匂いを放つ作品だった。(誉めてます) 癇癪持ちで謎の行動も多く周囲から浮いた存在の問題児・信楽と、その彼が生み出す創作物?に魅了され心酔していく優等生・清水。信楽の作品の魅力に彼だけが気づき、関わりを持ちたくて空回りつつ頑張る姿は、微笑ましくてつい応援したくなる。 それにしても、読み終えてみて改めてタイトルの秀逸さに唸った。 …その独特な匂いに周囲が敬遠する中、ただ1人だけ白く美しい花が咲いていることに気づき、知ろうとする物語なのだ。