校正の仕事に加えて書店員としても働いている夏子の退屈だけれどすてきな日常を描いたこの作品には、取り立てて大袈裟なことではないにせよ日々の片隅にある微かな心の動きがたくさんピン留めされています。 何でもない日常の何とも言えない「おかし」を掬い取って描くことは、本作でも少し登場する『枕草子』の時代から行われてきた営為で、私たち日本人の心の奥深くに根付いているものかもしれません。 お母さんが持ってきてくれたレモン水の黄色と、庭に咲く紫陽花の青とのコントラストが美しく映えていたこと。 プール開きした瞬間に雨が降って昼ご飯だけ食べて帰ることになったけれど、そこで食べたカップ麺が何だかとても美味しく感じられたこと。 まったく同じ体験ではなくとも、記憶の奥底にある幼き日の思い出を蘇らせてくれます。今は無きとしまえんのプールの後に食べたエビピラフは、最高に美味しかったなぁ……。 また、飲食店でたまにある「たっぷり3種のチーズ&フレッシュバジルのパスタ」のような長い名前のメニューを「バジルのトマトパスタを」のように適度に略すのも解ります。頑張ってフルネームで言っても店員さんの方が略すこともままありますからね。 そして、校正という仕事について描かれている部分も興味深く面白いです。私も文章を書く仕事もあり、人並み以上に興味があるところで、日常に職業病が出てしまうのは少し解ります。「どんなに頑張って気を付けて誤植や人のミスはあるので気にしない」という精神性には少し救われる思いです(最大限気を付けますけども)。 地味に好きなポイントは、買ったコートすべてが短命に終わってしまう夏子に対して「『深夜食堂』にそういう人いたよね」という友人ゆきちゃんの絶妙な返しです。「私は海原雄山か」などオシャレ美人がちょいちょい繰り出してくるグルメマンガネタ、良いです。流石は『ハラヘリ読書』の宮田ナノさん。 巻末には本作に登場した実在する書籍の一覧もあり、読書好きの方はより楽しめそうです。
読書好きで食いしん坊の作者が、文学作品に登場する食べ物について語る作品。 恥ずかしながら作中に登場する文学作品をほぼ読んでいないのですが、それでも充分楽しめます。 ミュシャが適当に描いたみたいな独特の絵柄もお洒落で素敵です。 文学作品に出てくる食べ物って妙に魅力的なんですよね。 盆土産のえびフライとか、ノルウェイの森のキウリの海苔巻きとか、例を出したらキリがないので、宮田ナノさんにめちゃくちゃ共感しちゃいます。 シュークリームよりシュウクリイムの方がずっしり濃厚で美味しそうなのめっちゃわかる!翻訳とかオノマトペのおかげで美味しそうになってるやつあるよね! わかるわかる〜と夢中で読んでしまいました。 自由広場に漫画飯のトピックあるけど、文学飯の話もしたくなりますね…!
校正の仕事に加えて書店員としても働いている夏子の退屈だけれどすてきな日常を描いたこの作品には、取り立てて大袈裟なことではないにせよ日々の片隅にある微かな心の動きがたくさんピン留めされています。 何でもない日常の何とも言えない「おかし」を掬い取って描くことは、本作でも少し登場する『枕草子』の時代から行われてきた営為で、私たち日本人の心の奥深くに根付いているものかもしれません。 お母さんが持ってきてくれたレモン水の黄色と、庭に咲く紫陽花の青とのコントラストが美しく映えていたこと。 プール開きした瞬間に雨が降って昼ご飯だけ食べて帰ることになったけれど、そこで食べたカップ麺が何だかとても美味しく感じられたこと。 まったく同じ体験ではなくとも、記憶の奥底にある幼き日の思い出を蘇らせてくれます。今は無きとしまえんのプールの後に食べたエビピラフは、最高に美味しかったなぁ……。 また、飲食店でたまにある「たっぷり3種のチーズ&フレッシュバジルのパスタ」のような長い名前のメニューを「バジルのトマトパスタを」のように適度に略すのも解ります。頑張ってフルネームで言っても店員さんの方が略すこともままありますからね。 そして、校正という仕事について描かれている部分も興味深く面白いです。私も文章を書く仕事もあり、人並み以上に興味があるところで、日常に職業病が出てしまうのは少し解ります。「どんなに頑張って気を付けて誤植や人のミスはあるので気にしない」という精神性には少し救われる思いです(最大限気を付けますけども)。 地味に好きなポイントは、買ったコートすべてが短命に終わってしまう夏子に対して「『深夜食堂』にそういう人いたよね」という友人ゆきちゃんの絶妙な返しです。「私は海原雄山か」などオシャレ美人がちょいちょい繰り出してくるグルメマンガネタ、良いです。流石は『ハラヘリ読書』の宮田ナノさん。 巻末には本作に登場した実在する書籍の一覧もあり、読書好きの方はより楽しめそうです。