ハズレのない短編集。
河野別荘地さんが大学生の頃に初めて描いた作品から、オモコロ 、『フォアミセス』、『モーニング』などに掲載された近年の作品までを10作品を収録した作品集です。 『足が早いイワシと私』というタイトルの本で、一番最初に載っているのが「足を洗う」、一番最後がそれを後年にセルフリメイクした「ネオ足を洗う」という構成なのが何とも面白いです。 大学時代に初めてまともに原稿用紙に描いた作品であるという「おばあちゃんのほほ袋」からして、不思議な作家性が滲み出ています。他の大学生時代に描いた「足を洗う」、「爪の垢」も画的にはまだ洗練されていないものの独特の雰囲気をまとった面白い作品です。この1冊で、その後の画力の大きな向上のビフォーアフターも楽しめます。 表題作の「足が早いイワシと私」や「冬眠休暇」、「労働監督」などは『世にも奇妙な物語』な星新一さんのショートショートを髣髴とさせるような、設定に面白さのある作品。 「Fly me too the moon」や「私の先輩」では非常に良い情緒を味わえます。個人的にはこの本の中でも特に好きなお話です。 1冊を通して、フレッシュで奇抜な作品から円熟味を感じるヒューマンドラマまでバラエティ豊かに楽しめるお薦めの短編集です。
短編集を読めば、その作家との相性がわかると思うんです。 短編という基本1話完結形式のなかで、物語上最低限必要なエッセンスのみつまっているから、その取捨選択というか、核となる部分だけみせてくれると相性も定まる気がするんですね。 そういう意味で、本作を読んだ瞬間、この作家さん好きだなと思いました。 個人的に石黒正数先生に近しいイメージなのですが、何気ない日常の中にファンタジーやホラーっぽい要素をスパイス的にいれてくるの、ホント好きなんですよね。 この作家さんも、似たような感じで、ドツボでした。 日常の切り方って、作家さんの個性が光ると思うんですよ。 え、そんなとこ注目するの? ってポイントが、興味深かったりするとそのままハマってしまいます。 (逆もまたしかり・・・) 本作も、短編の中にぎっしり作家の魅力がつまっております。 「スマートアシスタント」では、突然意識や感情を持ち始めたスマートアシスタントとの交流を描き、「生水」ではスライムみたいな生き物「生水」が当たり前のように日常にいる世界を描き、「旬」では書道教室の未亡人と、書道教室に通い始めた女子高生、そして主人公の3人をエロスこみでリアルな肉体関係(そしてほんのり切ない関係)を描き、そして表題作「渚」では人魚が、下半身を手術して人間になるという話たち。 題材とする着眼点もさることながら、人物の描き方もリアリティがあって自分好み。 作風も派手さはないのですが、じんわり染み込んで惹きつける魅力があります。 なんにせよ今後が楽しみな作家さんでした。
登場人物も絵も良い、展開も気持ちのいい感じのスローテンポで進んでいく。 地に足がついている感じっていうのか、線が強くてもっと描き込んでくれたらすごい漫画になるんじゃないか。 構図(画角?)がアフタヌーンとかそっち系の雰囲気があって好き。 合本版がよくわからないけど1巻ってことは続きあるのかな?
※ネタバレを含むクチコミです。
ハズレのない短編集。