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2件
主人公になれない主人公 #1巻応援
特別じゃない、君が特別。 あむ
兎来栄寿
先月完結巻の2巻が発売した『私が15歳ではなくなっても。』で、その異才を遺憾なく発揮していたあむさん、やはり好いです。 『うちのアイドルが可愛いすぎる! アンソロジーコミック』に収録されている、あむさんの「特別じゃない、君が特別。」。こちらを単話で買って読むこともできます。シーモア先行配信で1ヶ月前に発売していましたが、今日から他の電子書店でも展開されているようです。 まず、表紙絵の引きが強いですよね。今をときめく『【推しの子】』にも負けていないと感じます。そして、その画力がかわいい部分だけでなくエグい部分にも用いられているのが良いです。 アイドルアンソロ収録作品ということでアイドルを題材にしており、『私が15歳ではなくなっても。』ほどまではダークではないのですが、輝くスターたちの裏で燻って儚く消失していく地下アイドルの、現実にもあるであろう無数の物語のひとつが描かれます。それはまるで、小さな星の輝きを太陽がまるごと飲み込んで巨大な力で宇宙から消失させてしまうかのように。 自分のマイナスの立ち位置を正しく認識して、すべき努力を言語化して、少しずつでも前に進もうとするその先に待ち構えるもの。短編だからこそ描ける特別ではないから特別で、主人公ではない主人公。 「夢を追う時」から始まるモノローグは蓋し名言です。 あむさんの描くマンガをもっともっと読みたいと思わせてくれる、24Pです。
中年男性とパパ活少女、それぞれの絶望 #1巻応援
私が15歳ではなくなっても。【単行本版】 あむ
兎来栄寿
今とても熱いレーベルのひとつであるコミックアウルから、新進気鋭の才能により放たれた鋭利なる一撃。 「これが令和の『罪と罰』だ!!!」と帯に銘打たれていますが、読んでいる時の常在的な息苦しさはまさにドストエフスキー作品を読んでいる時のそれです。 「中年になっても性欲はみじめに残る 俺は生きているだけで害悪だろうか」 と吐露する40歳中年男性がこの物語の主人公です。幼い頃は「お父さんみたいな人と結婚したい」と自分を慕ってくれた娘が思春期になると自分を汚物のように嫌悪してくるようになり、奔放に浪費する妻を尻目に辛い労働に勤しむ日々。 ぱっと見は普通の中年男性なのですが、娘のブラジャーを見て劣情を催したり、醜く毛が突き出た自分の手指を見て「俺 指も汚な…」と自己嫌悪を深めるシーンなどディティールの積み重ねによる絶望感が利いてきます。 父としても夫としても自分の存在意義に悩む主人公は、ある日15歳の訳ありパパ活少女と遭遇します。彼女もまた、とある事件とそれに起因する鬱屈した日常を送る人間でした。若い身体に価値がある内に小銭を稼いで海の見える遠い町で花屋を営み穏やかに生きて死にたい、と願う少女。二人の歪みが重なり合うことで生じる奇矯な関係性から、物語は駆動していきます。 とにかく本作はさまざまなシーンでの表現力と迫力が見どころです。全力の嫌悪感や全力の絶望感、背徳感と欲求との鬩ぎ合いが、叩き付けるような描写によって暴力的に繰り出され続けていきます。ひたすら辛いのに、ある種の疾走感すら覚えるほどです。 表紙のかわいい女の子からは想像しにくいかもしれませんが、読感としてはビーム系の作品に近いです。かわいい女の子を描けるからこそのギャップが非常に活きていると言えるでしょう。 闇の深い物語を好きな方には強く推します。
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