寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。
3ヶ月の余命で変わっていく男の人生
寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。 田口囁一 三秋縋 E9L
ANAGUMA
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人生に疲れた男が寿命を買い取ってくれるという謎のお店で手にしたのは、残りの人生の価値をもとに査定された30万円。手元に残した余命3ヶ月をミヤギという監視員の女性とともに過ごすことに。 世にも奇妙な物語のような設定と、終始漂う退廃的な雰囲気が特徴の作品です。「余命モノ」という言い方はよくないかもですが、あまりピンとこなかったジャンルだったのに、本作には完全に心奪われてしまいました…。 始めの頃は主人公クスノキの鬱々とした暗い性格や振る舞いを冷めた目で見てしまうかもしれませんが、3ヶ月という限られた人生の中で彼は徐々に変わっていきます。そのキッカケはやはり隣りにいるミヤギ。 ただ見守るだけだった彼女の存在が物語とクスノキの人生に少しずつ光を当て始めてからは、残りページを読み終わってしまうのがもったいないような切ない気持ちになります。作品の中に滞在してるのが心地いい感じというか。 私小説的な語り口で、どことなく閉じた世界観。人を選ぶような気はしますが、なにか行き詰まりを感じてる方に読んでほしいかも。ほんの少しかもしれませんが、読む前より前向きな気持ちになれるはずです。
恋する寄生虫
「虫」によって導かれる切ない恋
恋する寄生虫 三秋縋 ホタテユウキ しおん
ANAGUMA
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人間社会での生きづらさを抱えた潔癖症の男・高坂と不登校の女子高生・佐薙が少しずつ互いの心の穴を埋めながら惹かれていくという「年の差」ジャンルのマンガです。 ラブストーリーは正直得意ではないのですが、タイトルのインパクトと美麗な表紙に惹かれて手にとりました。結論から言うとすごいよかったです。 自分の感情が何者かによって作られたものだとしたら…というのは思春期を生きた者なら一度は考えたことがあるんじゃないでしょうか。 それでもなお人を愛せるのか、その気持ちに基づいた恋は本物なのか…というのが本作のテーマです。そこまでだとよくある展開ですが、もう一捻りあるのがゾクゾクするんですよね…。 おとなになって読むのと、中高生ぐらいの時分に読むのとでまた味わいも変わるんだろうな。見事なジュブナイルだと思います。 作画の方もあとがきで語られていましたが、物語に寄り添うかのように絵のエネルギーがグッと増していき、真に迫ってくる瞬間がとても心地よかったです。 高坂と佐薙、どちらの気持ちにもズブリと入り込める画面と物語の説得力に飲み込まれてしまいました。 どちらかというと自分も「希死念慮を抱えた薄幸の美少女なんて手垢のついた青臭いモチーフだぜケッ」と思っちゃうタチなのですが、読み終わる頃には感情プールに投げ出されて浮かんでいるような状態でした。完敗。 実は好きなのかもしれんこういうジャンルが…ということにちょっと気付かせてくれた意味でも、出会えてよかったと思える作品です。ありがとうございました。