両親を亡くし地方に住む叔母に引き取られた、小学1年生の佐倉ハナ。引っ込み思案な性格で周囲と打ち解けられなかったが、ある日、ハナは「朗読」をやっていると言う教育実習生と出会う。やがて22歳になったハナが繰り広げる「癒やし系熱血『朗読』ストーリー」!
老若男女を問わず、普段漫画を読まないような方にも強くお薦めしたい漫画が、この『花もて語れ』です。 この作品には ・「表現」についての理解が深まりスキルアップする ・様々な名作文学に詳しくなる ・今後のあらゆる物語体験がより豊かになる といった効能があります。 そして、何より純粋に物語として素晴らしいのです! **朗読の世界** 『花もて語れ』の題材は、漫画初の「朗読」。 普通の人であれば、朗読といっても国語の授業位のイメージでしょうか。 しかし、この作品を読めばそのイメージも変貌します。 朗読とは、物語を最高度に楽しむ読み方であり、文章に最も真摯に向き合う姿勢、感受性を極限まで研ぎ澄ます所作なのです。 六種の「文章のカメラワーク」を意識した一文一文の読解。 作者の思想、その話が書かれた環境・背景まで酌んでの作品理解。 作品を他人事ではなく、我が事とするのが朗読という読み方。 それは、役者の役作りに通ずる部分があります。 私も経験がありますが、何かを演じる為に台本を精読して作品と対峙し続けたり、物語の舞台となった地に実際に立ってみたりすることで、極めてリアルな想像力が働くようになります。 すると、一見何気ないセリフでもその裏にある重みが見えて来ます。 そうした掘り下げにより、普通に読んでいては気付かない事柄が読み解かれます。 宮澤賢治の『注文の多い料理店』に出てくる二人の兵隊の性格にこんな違いが! と驚かされました。 今作では太宰や芥川から金子みすゞまで、様々な作品が取り扱われます。 総じて「この作品はこんな読み方が可能なのか!」と目から鱗がぼろぼろ落ちて行きます。 解釈自体への感動。 それに加え、その鮮烈な解釈によって訴えられる熱き「真意」に感銘を受けます。 こうして読み解いた奥深き世界を、朗読はどう人に伝えるのか。 音楽、絵画、彫刻、漫画…… 表現の方法は数多くある中で、朗読という手段が可能にする領域が開示されます。 **今にも飛び出してきそうな作画の前で** 多くの漫画は、原稿1枚で1ページです。 当たり前だ、と思うでしょうか。 しかし、この『花もて語れ』は80枚の原稿で38ページ、といった非常に特殊な形態を取っています。 1ページを構成するのに、複数枚の原稿が用いられているのです。 それは、「漫画という表現」で「朗読という表現」を表現しようとして生まれた挑戦。 普通の漫画賞の応募規定などでは禁止されていることも多い薄墨を用い、それを通常の作画と組み合わせて、珠玉の朗読シーンが作られているのです。 その結果、優れた音楽漫画から音が聞こえて来るように『花もて語れ』からは声が聞こえて来ます。 様々な意味で、漫画表現の極点に挑んでいる作品と言えます。 **『花もて語れ』のすばらしさは人間のすばらしさ!** 主人公は、両親を亡くし田舎に引き取られた何の取り柄もない女の子・佐倉ハナ。 彼女が、教育実習でやって来た青年に朗読を教わる所から始まります。 極度の引っ込み思案で友達も皆無。 OLになってからも、まともに仕事ができずミス連発。 自分は何をやっても駄目だ、と思い悩むハナ。 しかしそんな彼女は、朗読をすると驚くべき才能を発揮します。 普段はみそっかすの女の子が、圧倒的センスで大衆を前に凄まじいパフォーマンスを披露する爽快感は、さながら『ガラスの仮面』。 構造が似ているだけではなく、作品が持つ熱量、面白さも同等以上です。 『花もて語れ』の主要人物の多くは、ハナ以外もすんなりとは生きていません。 たとえばハナにとって無二の存在となる満里子は、妹の死によって家族と断絶し五年間引き篭もった女性。 ハナの師となる折口も、様々なものを抱えて生きています。 彼らは皆、強い人間ではありません。 弱いけれど、強くあろうとする者たちなのです。 圧倒的に弱き者が自らの弱きを自覚し、絶望する。 しかし、そこから目を背けず受け止め、その上で強くなろうとする。 たった一つの武器だけを手に、勇気を振り絞って世界と対峙して行く。 その姿は理屈を超えて美しく貴いもので、普遍的に心を打ちます。 そんな人物たちの朗読によって、「失った居場所の取り戻し方」「真の友情」「想いを伝えること」「悩むことの意味」「かつて傾けたが実らなかった情熱の意味」など様々なテーマが謳われる物語。 私は近巻を読む度、想いの質量や熱に涙を流してしまいます。 それらは全て生の肯定。 この物語は、魂の込もった人間賛歌でもあるのです。 **終曲も劇的に奏でられる** 現在10巻まで刊行され、あと3巻で完結というクライマックス。 まだ間に合います。 奮えること必至の感動のラストを、共に見届けましょう。 個人的な願いとしては、全国の学校の教室や図書室に是非この漫画を置いて欲しいです。 今作を読めば、国語や朗読が更に楽しくなることは間違いないですから。 子供の国語の成績を良くしたいという親御さんにも、強く推薦します。 ちなみに片山ユキヲ先生の前作『空色動画』(全3巻)も、漫画で動画であるアニメーションの創作を描いた意欲的で面白い作品ですので、併せてお薦めです。 https://manba.co.jp/boards/58937
老若男女を問わず、普段漫画を読まないような方にも強くお薦めしたい漫画が、この『花もて語れ』です。 この作品には ・「表現」についての理解が深まりスキルアップする ・様々な名作文学に詳しくなる ・今後のあらゆる物語体験がより豊かになる といった効能があります。 そして、何より純粋に物語として素晴らしいのです! **朗読の世界** 『花もて語れ』の題材は、漫画初の「朗読」。 普通の人であれば、朗読といっても国語の授業位のイメージでしょうか。 しかし、この作品を読めばそのイメージも変貌します。 朗読とは、物語を最高度に楽しむ読み方であり、文章に最も真摯に向き合う姿勢、感受性を極限まで研ぎ澄ます所作なのです。 六種の「文章のカメラワーク」を意識した一文一文の読解。 作者の思想、その話が書かれた環境・背景まで酌んでの作品理解。 作品を他人事ではなく、我が事とするのが朗読という読み方。 それは、役者の役作りに通ずる部分があります。 私も経験がありますが、何かを演じる為に台本を精読して作品と対峙し続けたり、物語の舞台となった地に実際に立ってみたりすることで、極めてリアルな想像力が働くようになります。 すると、一見何気ないセリフでもその裏にある重みが見えて来ます。 そうした掘り下げにより、普通に読んでいては気付かない事柄が読み解かれます。 宮澤賢治の『注文の多い料理店』に出てくる二人の兵隊の性格にこんな違いが! と驚かされました。 今作では太宰や芥川から金子みすゞまで、様々な作品が取り扱われます。 総じて「この作品はこんな読み方が可能なのか!」と目から鱗がぼろぼろ落ちて行きます。 解釈自体への感動。 それに加え、その鮮烈な解釈によって訴えられる熱き「真意」に感銘を受けます。 こうして読み解いた奥深き世界を、朗読はどう人に伝えるのか。 音楽、絵画、彫刻、漫画…… 表現の方法は数多くある中で、朗読という手段が可能にする領域が開示されます。 **今にも飛び出してきそうな作画の前で** 多くの漫画は、原稿1枚で1ページです。 当たり前だ、と思うでしょうか。 しかし、この『花もて語れ』は80枚の原稿で38ページ、といった非常に特殊な形態を取っています。 1ページを構成するのに、複数枚の原稿が用いられているのです。 それは、「漫画という表現」で「朗読という表現」を表現しようとして生まれた挑戦。 普通の漫画賞の応募規定などでは禁止されていることも多い薄墨を用い、それを通常の作画と組み合わせて、珠玉の朗読シーンが作られているのです。 その結果、優れた音楽漫画から音が聞こえて来るように『花もて語れ』からは声が聞こえて来ます。 様々な意味で、漫画表現の極点に挑んでいる作品と言えます。 **『花もて語れ』のすばらしさは人間のすばらしさ!** 主人公は、両親を亡くし田舎に引き取られた何の取り柄もない女の子・佐倉ハナ。 彼女が、教育実習でやって来た青年に朗読を教わる所から始まります。 極度の引っ込み思案で友達も皆無。 OLになってからも、まともに仕事ができずミス連発。 自分は何をやっても駄目だ、と思い悩むハナ。 しかしそんな彼女は、朗読をすると驚くべき才能を発揮します。 普段はみそっかすの女の子が、圧倒的センスで大衆を前に凄まじいパフォーマンスを披露する爽快感は、さながら『ガラスの仮面』。 構造が似ているだけではなく、作品が持つ熱量、面白さも同等以上です。 『花もて語れ』の主要人物の多くは、ハナ以外もすんなりとは生きていません。 たとえばハナにとって無二の存在となる満里子は、妹の死によって家族と断絶し五年間引き篭もった女性。 ハナの師となる折口も、様々なものを抱えて生きています。 彼らは皆、強い人間ではありません。 弱いけれど、強くあろうとする者たちなのです。 圧倒的に弱き者が自らの弱きを自覚し、絶望する。 しかし、そこから目を背けず受け止め、その上で強くなろうとする。 たった一つの武器だけを手に、勇気を振り絞って世界と対峙して行く。 その姿は理屈を超えて美しく貴いもので、普遍的に心を打ちます。 そんな人物たちの朗読によって、「失った居場所の取り戻し方」「真の友情」「想いを伝えること」「悩むことの意味」「かつて傾けたが実らなかった情熱の意味」など様々なテーマが謳われる物語。 私は近巻を読む度、想いの質量や熱に涙を流してしまいます。 それらは全て生の肯定。 この物語は、魂の込もった人間賛歌でもあるのです。 **終曲も劇的に奏でられる** 現在10巻まで刊行され、あと3巻で完結というクライマックス。 まだ間に合います。 奮えること必至の感動のラストを、共に見届けましょう。 個人的な願いとしては、全国の学校の教室や図書室に是非この漫画を置いて欲しいです。 今作を読めば、国語や朗読が更に楽しくなることは間違いないですから。 子供の国語の成績を良くしたいという親御さんにも、強く推薦します。 ちなみに片山ユキヲ先生の前作『空色動画』(全3巻)も、漫画で動画であるアニメーションの創作を描いた意欲的で面白い作品ですので、併せてお薦めです。 https://manba.co.jp/boards/58937