わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~

推し活の光と闇の相転移 #1巻応援

わたしって害悪ですか?~お花畑声優厨の場合~ 岩城そよご 科丈ひとな(セブンデイズウォー)
兎来栄寿
兎来栄寿

推しを推す。 それは、人の営みの中でもとりわけ尊いものです。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。その行為や付随する感情も、行き過ぎてしまうとむしろマイナスに働いてしまうことが往々にしてあります。 本作は、新米声優・土岐野カエデ(23)を推す会社員・美花(26)の推し活の物語です。 初めてアニメで主役を得たことで、露出が増えファンも増えていくフェーズにあるカエデ。しかし、そうなると必然的にアンチの声も目立ってきます。 本作ではSNSや配信コメント、現場などにおけるアンチの描写がかなりしっかりと描かれており、非常にリアルです。美花は大好きなカエデの活動に支障が出ないよう推し活の延長線上として、そうしたアンチに対する″駆除″活動を行っていきます。ファンは原義を辿ればfunではなくfanatic。光と闇は紙一重です。 ただ正直、美花の行為自体はやり過ぎであるとしても、そこで生じるモヤモヤとした気持ちには誰かや何かを強く推した経験がある人なら大なり小なり共感できるのではないでしょうか。 また、美花のそうした行為が生じている原因のひとつに会社のブラックさがあるのは現代社会の暗部だなと感じます。他の人より仕事が早いと待遇は変わらないのに労働量が多くなるので、生産性を下げることが最適解となる矛盾。昼休みまるまる使っても愚痴を言い足りない部長。そこで溜めたストレスが、推し活での快楽をより大きいものにして依存性を高めてしまう。 そんな美花の愚痴を嫌な顔ひとつせずに聞いてくれて、推し活の応援もしてくれて、抽選にも付き合ってくれる友人のゆずちゃんのような存在は大事にすべきです。主人公が幸せになるのは難しいかもしれませんが、ゆずちゃんには幸せになって欲しい……。 推す熱量の軽さの割に美味しいポジションを確保していてモヤっとするまりんちゃんや、同担で戦友感のある蘭之介さんなど、味のあるサブキャラクターも豊富で今後も楽しみです。 推しは推しても害悪にはなるな、という反面教師的な役割を担ってくれる作品です。

金魚屋さんのかりそめ夫婦

金魚屋×小説家の良きラブコメ #1巻応援

金魚屋さんのかりそめ夫婦 天倉ふゆ
兎来栄寿
兎来栄寿

以前の作品である『ヒロインはじめました。』は上質な学園ラブコメでしたが、本作では大人の恋愛を見せてくれます。 ヒロインの旭は黒髪ロングと八重歯がチャームポイントな小説家。七海は祖母の店を継いだ金魚屋さん経営。そんなふたりが、政略結婚とまでは行きませんが互いの利害の一致によりかりそめの夫婦として結婚という契約を交わし共に暮らす様子が描かれます。 理由はともあれ、妙齢の男女が一緒にひとつ屋根の下で暮らせば何も起こらないわけはなく。よく恋愛ドラマで主演した俳優同士が付き合うということも起こりますが、単純接触効果的にもずっといることで互いへの好感度ゲージは否が応でも高まっていきます。その際の、社会的には夫婦という関係でありながらも実際には違うというギャップから生み出される初々しい反応の数々が旨味となって読者に波濤のように押し寄せます。 特に好きなのは、町祭りにおけるイベント「ラブラブ夫婦大会」。新婚夫婦の仲の良さにニコニコする年配の方々とのシンクロ率が400%を超えていきます。 何より天倉ふゆさんの絵の魅力です。本作ではますます磨きがかかっており、女子はかわいいし男性はかっこいいのが最大の魅力と言って良いでしょう。少女マンガ的に大事なシーンを、しっかり絵で魅せてくれます。そして、心の中の井之頭五郎が「うんうん こういうのでいいんだよ」とひとりごち、私は「否、こういうのがいい」と応じます。適度にラブがコメり、されど大人らしく適度にしっとり。とてと良い塩梅です。 金魚屋という職業の部分がフィーチャーされるパートも好きです。 今後も良い感じに幸せに、末長く爆発してほしいです。

30歳喪女、平成ギャルになる。

ギャルになる勇気 #1巻応援

30歳喪女、平成ギャルになる。 山口しずか
兎来栄寿
兎来栄寿

本当はなりたい自分像があるのに、さまざまな理由でそれを押し込めている人は世の中にたくさんいるでしょう。 恥ずかしいから。 変わる勇気が出ないから。 家族や友人に反対されるから。 理想はあっても自分には無理だから。 本作の主人公・彩も、そんな悩みを抱えて生きてきた30歳の地味なOL。本当は高校生の頃からギャルのきらきら感に憧れていたものの、さまざまな理由からそれを諦めてきて、30歳になろうという瞬間にも友達も恋人もおらず本当にやりたいことも見つからないという状況。そんな彼女が、平成にタイムスリップしてギャルとして人生をやり直していくという筋書きです。 少女マンガのキーワードのひとつが「変身」ですが、本作もまさに変身を望み遂げていく物語となっています。そして、その変身に際しての彩の等身大の葛藤がリアルで、読んでいて共感する人も多いだろうと感じる部分です。 「バカにされてると感じるのは 行動してこなかった自分が 悪いって知ってるからだ」 といっモノローグなど、とても鋭利です。 すんなり変われるわけではない。でも、自分より歳上でギャルを楽しんでいる人に出会うなど他のギャルに助けられ勇気をもらいながら、遂に変わることができた瞬間のカタルシスがしっかり描かれています。ギャルに限らず、本当はなりたい自分を押し込めている人に変わるための勇気を灯してくれる物語です。 そして特筆すべきは、ギャル周りの描写。 筆者自身も高騰している昔のギャル雑誌をフリマサイトで買うくらいギャルが大好きでショップ店員だった時代もあるそうで、実体験がふんだんに反映された内容となっています。読むと、いろいろなギャル文化やメイクテクニックも学ぶことができます。 「ギャルってすごいよな… 何も考えないでしゃべってそうなのに なんで空気がよくなるんだろう」 は本当に頷く部分で、ギャルの底抜けに明るくポジティブなところ、無限にフレンドリーなところ、中毒性のある不思議な語彙力、欲望に忠実で刹那的なところ、ざっくばらんだけど優しくて仲間想いなところ、ストレートな物言いなどは私も好きです。 「心にギャルを飼おう」という幕間のメンタルコントロールマンガも秀逸。ギャルの最強マインドがあれば何だって乗り切れますからね。現代社会の荒波をギャルで武装して乗り越えて行きましょう。

リュシオルは夢をみる

滅びた世界の静と美 #1巻応援

リュシオルは夢をみる 森川侑
兎来栄寿
兎来栄寿

溜息が出そうなほど美しい表紙・裏表紙に惹かれたなら、その直感を信じて手に取ってみて欲しいです。 『休日のわるものさん』や『ひるとよるのおいしい時間』の森川侑さん最新作は、滅びた世界で目覚めた少年と、彼をコールドスリープから目覚めさせた自称・大魔法使いの青年が、人間を探して旅をする物語です。 この作品は、表紙・裏表紙や広告のイラストを見てもらえば解る通りまず絵が素晴らしいです。文明が滅びて、植物に侵食された世界が緻密に美しくたくさん描かれていきます。カラーも美しいですし、白黒で細かく描き込まれた背景も魅力的です。樹々の間を差す木漏れ日、苔むした朽ちた建造物、人のいない静寂の世界でも美しく広がる空……廃墟好き・ポストアポカリプス好きには堪らない作品でしょう。 私自身もそういう趣味嗜好が多少ありますが、そのルーツを辿ると幼い頃に無限にリピート視聴していた『天空の城ラピュタ』に行き着く気がします。特に、ラピュタに着いた後に周囲を探索しているときの水面下で魚が泳ぎながらその下に滅びた都市が広がっているという構図が大好きです。『リュシオルは夢をみる』の中でも正にそういった感じの描写が行われていて「ああ、好きだなぁ」となりました。『DQⅢ』で大魔王ゾーマが「死にゆく者ほど美しい」と言っていた気持ちもちょっとだけ解る気がします。 即座に命を脅かすような危機もなくゆったりと静かに進んで行く物語ですが、その中でしみじみと感じ入るようなエピソードも描かれます。 滅びた世界を旅したい方、美しい背景に浸りたい方にお薦めです。

FOGGY FOOT

北欧を舞台にした"妖精"と謎多き少女にまつわる物語 #1巻応援

FOGGY FOOT 紗与イチ
sogor25
sogor25

舞台は北欧・スウェーデンの首都ストックホルム。北欧では元々「トムテ」と呼ばれる妖精の存在が民間伝承で伝えられている。 この作品は妖精が引き起こす不思議な事件の数々を、パートナーであるアダムという男性とともに解決へと導きながら、自らの失った記憶の手がかりを探す少女・ワコの物語。 基本的には妖精たちが人間に近づいて引き起こす事件を解決していくという、一話完結型に近い形式をとっている作品。 事件というのも妖精たちが人間の心を魅了したり惑わしたりするという形で引き起こされるものが多く、ワコの謎多き人物像も相まって、全体的にミステリアスな雰囲気が漂っている。 また、作品の舞台が北欧ということで、北欧の街並みや風景を楽しむこともできるが、特に妖精たちの住処や事件が起こる場所として"森林"が多く登場する。深く生い茂った森林とそこに登場する妖精、この絵としての組み合わせもこの作品の幻想的な雰囲気を引き立てている。 主人公のワコや彼女と共に活動するアダムの人物像や背景はまだまだ謎に包まれているが、どことなく狐につままれたような感覚を覚えながら進んでいく物語こそがこの作品の1番の魅力なのかもしれない。 1巻まで読了

月華国奇医伝

中華風時代劇な医療もの!

月華国奇医伝 ひむか透留
たか
たか

期間限定無料だったので読んだ作品。最近この作品をネット広告で頻繁に見るのですが、それも納得の骨太な物語でした。 神話の神々が作った国・月華は、華の名を冠した七つの州からなる。蘭州に住む銀髪碧眼の西胡人の少女は、都から来た貴人の怪我を縫合手術で助けたことで都を訪れることになり…という導入。 少女漫画だしヒストリカルなのに、医療シーンはしっかり医療漫画しててすごく新感覚。絵の書き込みの美しさに負けないほど、しっかりとした舞台設定が素晴らしかったです! https://res.cloudinary.com/hstqcxa7w/image/fetch/c_fit,dpr_2.0,f_auto,fl_lossy,h_365,q_80,w_255/https://manba-storage-production.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/book/regular_thumbnail/102972/9bfa5b06-da5b-4c56-99a0-e8089d248949.jpg 世の中には「中華風・中世風・王宮風」など、フィクションから摂取した曖昧な知識をコピーして作られている底の浅い物語が反乱している中で、こういう風に「ちゃんと中華歴史小説が好きな人が書いてる」作品が読めるのは幸せなことだなとしみじみ思いました。 あとがきで知ったのですが、作者のひむか透留先生は保健師・看護師の資格を持っている中国史好きなんだとか! これだけでも鬼に金棒という感じですが、それに留まらずたくさんの資料を読んだうえで、現役の看護師の友人に話を聞いて描いているのだそう。 天空の玉座や薬屋のひとりごとなどなど、中華宮廷物語が好きな人におすすめしたい作品です! https://asuka-web.jp/product/gekkakoku/