夢は叶わなくてもいい。人生で、ただ一度若者の季節。「エトランゼ」シリーズの紀伊カンナによる青春群像劇。あなたの心を時にドラムのように打ち叩き、時に柔布で撫でるような、忘れがたき青春群像劇。100回「辞めたい」とぼやくアニメーターの岸(きし)くん、仕事はクールだけど同棲相手には甘い千代(ちよ)ちゃん、女にモテてかっこいい心優しいバンドマンのたまき、地下アイドルに魅せられた女子高生のキキちゃん… ほか、6人の若者たちはいつか美しい思い出となるやもしれぬ日々を這いつくばりながら駆け抜ける。ポップでありつつもどこか牧歌的な筆致で極上世界を描く、著者初の連作読切りオムニバス。
様々な背景をもって上京してきた若者達の群像劇。紀伊カンナさんはこれまでBL作品を中心に発表されてきたけど、絵柄・キャラ造形含めて男女問わずに魅力的なキャラを描ける方なのだと実感する。連作短編集の形式で毎話中心人物が変わるんだけど、みんながみんな何かしらの明確な答えを見つけるわけではないのに登場人物は皆輝いて見える。色んな出来事があった後、物語上そんなに深く絡んでなかった岸くんと環の会話で締めるっていう構成もいいし、そこの環のセリフがこの作品全体を的確に言い表してて何回も読み返してしまう。まさにこの世は白か黒かだけじゃないねずみ色ばかり、でもだからこそいいと思わせてくれる作品。 そして物語の余韻をいい意味で吹っ飛ばしてくれる最後の見開き。ただこれはこれで物語の結論とは別の意味で真理。