あらすじ

二宮はオールスター戦に登板。しかし、名だたるスター選手の中で緊張してしまい大量失点をしてしまう。見かねた雪子は「スタンドにお母さんが見に来ている」との伝言を二宮に渡す。一念発起し、次々と魔球を投げて三振の山を築く二宮だったが無理が祟って肩を壊してしまう。次の阪神戦は、尊敬するキャッチャー・相川の引退試合。どうしても登板したい二宮は監督に直訴するが……。
ちかいの魔球 1巻

二宮光は、誰にも打てない魔球を投げることができる超高校級の左腕投手。甲子園を賭けた試合を前に左腕を負傷した二宮は、それでも試合終了ぎりぎりにグラウンドに現われ、渾身の力で魔球を放る!一度は決まった甲子園行きも相手校のエース・中村の陰謀によって取り消されてしまう…!!しかし二宮の実力はプロの世界にも知れ渡り、なんと憧れの巨人軍からもスカウトが――!!

ちかいの魔球 2巻

晴れて巨人軍入りを果たした二宮。プロ初試合の対中日戦に臨むが、緊張してまったく調子がでない。おまけに試合前に会った義理の妹の雪子が自分を避けるように姿を消したことも気になって…。上の空のままプレーを続けていた二宮の前に、かつてのライバルで、甲子園への切符を奪い取った中村がなぜか巨人軍のベンチに姿を現わし……!?

ちかいの魔球 3巻

二宮はオールスター戦に登板。しかし、名だたるスター選手の中で緊張してしまい大量失点をしてしまう。見かねた雪子は「スタンドにお母さんが見に来ている」との伝言を二宮に渡す。一念発起し、次々と魔球を投げて三振の山を築く二宮だったが無理が祟って肩を壊してしまう。次の阪神戦は、尊敬するキャッチャー・相川の引退試合。どうしても登板したい二宮は監督に直訴するが……。

ちかいの魔球 4巻

久保と相川と一緒に多摩川球場で夜間特訓を積んだ二宮は、ボールが4つに見えるという新しい魔球を会得!そして見事リーグ優勝を果たした巨人は、日本シリーズに挑む!第一戦、肩に爆弾を抱えたままの二宮は途中から登板するも、試合は6対0と大敗。しかしその後3勝してあと一つ勝てば優勝という試合の正念場で二宮は登板を命じられる。はたして伝家の宝刀の新魔球は放たれるのか――!?

ちかいの魔球 5巻

二宮と久保は、巨人軍のスカウトとして大阪に向かう。狙いは鷹のような視力を持つ強打者・大田原一郎。しかし大田原は阪神とすでに契約済みで、スカウトの場もいずれ対決する二宮の魔球を研究するチャンスと考えるとんだ食わせ者だった。成果なしで東京には帰れないふたりは大田原の紹介で、釜ヶ崎にいるという怪物球児・寿楽寺陣内のもとを尋ねるが……。

ちかいの魔球 6巻

子どもの頃からバッテリーを組む二宮と久保。長年、二宮の豪速球を受け続けた久保はついに試合中左手を負傷してしまう。もうキャッチャーを続けるのは無理と診断され、自暴自棄に陥る久保…。一方、二宮は阪神戦を前に、大田原から「俺がお前の新魔球を打てるか打てないか、真っ向勝負しろ!」と持ちかけられる。それには野球選手の誇りである背番号を賭けるのだと言われ……。

ちかいの魔球 7巻

大田原に新魔球を打たれ、自信をなくし故郷に戻った二宮はある老人から消える魔球を伝授される。球団に戻った二宮は阪神戦に登板。大田原と再び対戦し、消える魔球で見事打ち取ったが今度の魔球は投手への負担がさらに大きい。すでに左肩は限界に達しているのにマウンドに立ち続ける二宮だったが……!?痛快野球巨編、感動のクライマックス――!!

ちかいの魔球

本格野球マンガ、そしてちば少年マンガの源流

ちかいの魔球 ちばてつや 福本和也
兎来栄寿
兎来栄寿

野球マンガの歴史自体は1940年代頃から始まっているが、現在に至るまでの野球マンガの基礎となる部分を規定したのは貝塚ひろしの『くりくり投手』である。それまでは打者中心だった野球マンガを、この作品以降は投手中心に描くようになった(近年でも『おおきく振りかぶって』や『ダイヤのA』、『群青にサイレン』や『ビッグシックス』など投手中心に描かれた野球マンガは枚挙にいとまがない)。 そして、この作品で初めて俗に言う「魔球」が登場し、また打者も必殺技的な打法を使う言わば「超人スポーツマンガ」の先駆者的な存在となっていた(ちなみに、魔球という言葉自体は変化球を指す言葉として戦前から存在したと言われている)。 その流れを受け継ぎ、ちばてつやの画風とシリアスな物語展開で硬派な魅力も併せ持ったのが『ちかいの魔球』である。記号性の強い絵である『くりくり投手』に比べ、男性は格好よく女性はかわいくとよりキャラクターのリアルな魅力が絵からもエピソードからも溢れていた。 王貞治が一本足打法に開眼し、長嶋茂雄とのON砲が国民的人気を誇り始めたのが1962年だが、『ちかいの魔球』はそれに重なるように1961年〜1962年の間に黎明期の週刊少年マガジンで連載され大人気を博した。彼らや巨人のV9時代を率いた川上監督など、実在の有名プロ野球選手が作中に多数登場するのもこの時代の野球マンガの特徴だ。 17歳でデビューし、少女マンガで活躍していたちばてつやは21歳にしてこの『ちかいの魔球』を少年マンガ誌でも描き始め、ブレイクし始める。その後、マガジン誌上で『紫電改のタカ』や『ハリスの旋風』を経て68年には爆発的な人気を誇る『あしたのジョー』へと至るのはご存知の通り。 止まる魔球、分身魔球、消える魔球と、後の野球マンガや野球ゲームでも頻出する魔球が60年近く前のこの作品には登場している。 球が増える魔球自体は『くりくり投手』にも存在したが、『ちかいの魔球』での大きな変化は、魔球のメカニズムに理由付けがなされたことだ。それはあたかも当時マンガ表現全体に影響を与えた白土三平の忍者マンガにおける忍術や武器の解説のようであり、また大人が読んでも楽しめる骨太なドラマ作りにも白土三平の影響が感じられる。 66年に連載が始まる野球マンガの金字塔『巨人の星』との設定的な共通項も数多く、知名度では『巨人の星』に及んでいないものの本格的な野球ドラマの大きな一つの源流となった作品である。 『あしたのジョー』くらいしかちばてつや作品を読んだことはないという人も多いかもしれないが、野球マンガ及び超人スポーツマンガのルーツとして触れてみるのも良いだろう。