あらすじ幼い頃から誰かの気配を感じていた中学生・藍(あい)は、迷い込んだ異世界で母親によく似た少女・すずろと出会う。彼女こそ両親の本当の子供で、自分は異世界の出身で、母親のお腹の中で二人が入れ代わったのだと知った藍は!?不思議な縁(えにし)で結ばれた少年と少女の交流を描いた、紺野キタのチェンジリング・ファンタジー!
この作品を読み始めて、最初に感じるのは、主人公の少年の「モブ」感。紺野キタ先生のいつもの美少年とは明らかに違う、意志の弱そうな、精気の無い目。主役感に欠けるのだ。 それは読み進めていくと納得いく。確かに少年は、この世に生きる自信に欠けていた。 ★★★★★★ 自分にだけ見える入口、話しかける動物、感じる気配……己がここにいる事に不信を覚えた時、少年は彼らに導かれ、異界に足を踏み入れる。そこにはいつも側に感じていた、分身の少女がいた。 彼女の存在に納得する少年。本当は自分が彼女の影なのだ、という諦めが悲しい。 あちらの世界は和洋折衷でヘンテコだが、なかなか美しい。不思議な異界の〈女王〉になるよう誘われる少年が、異界から出られない少女と対話し、自分の意思を示す物語は、最後まで切ない。己の居場所を知るための、ごく短い「神隠し」の時間を、惜しみ懐かしがりながら眺めていたい。