あらすじ帰らぬあの人を待ち続けるのは、慈愛か、それとも情念か――。信念を曲げない女店主・芳乃(よしの)が営む喫茶店『サウダーデ』。そこはいつでも帰れる心の我が家。一途な彼女の奇妙な魅力に惹かれ、今日も味のある面々が訪れる。『繕い裁つ人』の池辺葵が贈る「確かに生きる、心に残る人々」の物語。
知らない漫画を読もうと思って手に取って、出会えたことに感謝している作品は沢山あるんですが、この作品と、この作者に出会えたことは本当に幸運だったと思っています。 池辺先生の描く女性の美しさに惹かれるのは、その魂の凛とした気高さに魅了されるからです。 同時期に描かれていた「繕い裁つ人」と共通の登場人物がいたり(そもそも主人公同士が親友)して、とりとめもない会話の中でも叡智を感じます。 池辺先生の作品の輝きというのは、貴金属の放つ輝きではなくて、知性が宿す、ふくよかな美しさによるものなのであり、初期の作品でありながら、老成した詩人のような巧みさがあります。 自分が一番好きなのは、翔君が訪れるところです(彼のような若者を魅力的に描けるのも池辺先生の漫画の力だと感じています)。 モノローグを排して、言葉と表情で描かれる作品は、美しさと力強さと知性に溢れています。未読の方は「繕い裁つ人」も併せて是非。